BERD 2008 No.15
【特集】
インタビュー
BERD
   PAGE 2/5 前ページ 次ページ

単純には定義できない「保育の質」をどう保障するか

 乳幼児の保育・教育に関する国際的な議論において、目下のキーワードは「保育の質」の保障です。乳幼児の保育・教育の質とは何か、そしてそれをどう保障していくのか。
 そもそも「質」とは相対的・多元的な概念です。何をもって「質」というのか、政治・経済・社会・文化すべての次元を含み込んでいるので、単純に定義することはできません。
 大枠の政策レベルでいえば、OECDの報告書によると、保育所・幼稚園といった制度や施設の規模・面積といった「保育制度」、実践の内容や方法、用具・教材などを含めた「カリキュラム」、そして養成教育や研修体制も関係した「保育者の資質」の大きな三つの柱を立てて、各国は質の向上を目指しています。
 08年11月のOECD会議でも、質の向上について何をすべきかが議論されました。09年5月の会議では、保育者の資質向上は個人の問題だけではなく、労働力人口への政策、職場環境や組織の問題、という各国共通の関心事をベースに議論する予定です。
 それぞれの国が政策として何を優先的に打ち出すかは、どのような価値を乳幼児期の保育・教育において最も育てるべきものと志向するかによって異なり、それがカリキュラムに反映されます。各国の自己報告とOECD専門家のレビューに基づき06年にとりまとめられた報告書では、世界の保育カリキュラムの伝統を大きく二つのモデルに分類しています。就学準備の指導に重点を置く英米型と、子どもの主体性と権利を保障する北欧型です。これは要するに乳幼児保育、教育の伝統に基づく社会的理念の表れと考えられます。英米のような自由競争の市場型理念に重きを置く国では、就学後に極端な格差を広げないためにも就学へとスムーズに移行できるような乳幼児期の保育・教育が社会的に要請されます。北欧のような社会福祉の手厚い国では、社会全体で子どもを育てる発想が強く、就学準備というより市民としての子どもの主体性、権利の保障が重視されるわけです。
 各国はそれぞれ理念をもってカリキュラムを作成しています。アジアでも韓国・台湾が最近、相次いで保育所・幼稚園のカリキュラムを改定しました。韓国では、子どもの創造性や自律性を育てる狙いが重視されたカリキュラムが組まれています。台湾では幼保一元化のカリキュラムをつくっていますが、「仁、仁愛」を育てるという教育目標が掲げられています。台湾で「日本の教育理念は何ですか」と聞かれましたが、「生きる力」かなあ……と、曖昧な概念なので少し説明に困ってしまいました。
 制度的な質の保障に関しては、北欧やイギリスなど就学前教育として保育所も幼稚園も一括して教育担当の所轄官庁が監督している国もありますが、ヨーロッパでは概ね年齢によって分け、乳児期では社会福祉関係の所轄官庁、それ以上の年齢は教育関係の所轄官庁が監督しています(図表1)。一方でアジアの韓国・台湾・日本などは二元的に保育所と幼稚園が混在してきましたが、台湾は一元化の方向にあるし日本でも「認定こども園」ができました。乳幼児期の保育・教育の一般的な質については国際的な議論の俎上に乗りますが、質を保障するための望ましい所管については各国それぞれ制度が異なるので、議論しにくい側面があります。
図表[1]諸外国における就学前教育・保育の所管官庁
   PAGE 2/5 前ページ 次ページ
研究者(BERD)TOPへ戻る 2008年度バックナンバーへ戻る