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実践事例
 
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■実践事例1
広島県 福山市立駅家南中学校の取り組み
生徒による授業システムの評価を
授業改善につなげる
生徒が授業規律の定着を評価
 駅家南中学校では、生徒による先生の授業評価を2002年10月に導入。以後、学期に1回、すべての教科、すべての先生に対して、評価を実施している(表1)。
生徒による授業評価
▲表1 すべて教科の評価をこのシートで行う。生徒は、評価することで、授業を真剣に受ける大切さを理解する

 この評価は、「授業システム」(表2)が定着しているかを確かめるのが目的である。
駅家南中学校の授業システム「発展の9項目」
▲表2 先生も生徒もこの9項目に取り組む。どの教科、どの授業でも、このシステムに従って進められる

 したがって、質問項目も授業規律に限定。授業内容にはふれない。その理由は、「『授業はわかりやすいですか』といったような、授業の内容にかかわる評価を生徒にさせるのは、現段階では危険だ」(高橋秀典校長)と考えるから。生徒自身の授業へのかかわりを抜きにして教師の授業を一方的に評価しても、授業の改善にはつながらないし、生徒の評価を得んがための人気取り授業が広がることへの恐れもある。
 生徒の評価に対して、思ったより点数が低くショックを受ける先生もいたが、その先生は、空き時間に他の先生の授業を見学したり、他の先生と模擬授業を実施するなどして授業改善に努力、次の評価が上がるという結果を出した。
 一方、評価する側の生徒も「先生を評価するからには授業を真剣に聞かなければならない」と考えるようになった。そして、「自分たちで学校を変えることができる」と実感する生徒たちが出てきた。そこで先生たちは、生徒を主体的に動かすことによって、どんどん学校を変えていった。
 現在、生徒たちは生徒会で行った以下の三つの提案のもとに、授業づくりにも参加している。
(1)各教科の先生に三つ以内の宿題を出してもらい、必ずしてくる。授業でも必ず扱ってほしいと先生に要望、
(2)英単語100語、漢字200字を課題として行い、学習班が点検する、
(3)教科係が翌日の学習内容を聞きに行き、予習をしてくる。
「チャイム席」の成果は一目瞭然
 駅家南中学校は、実は5年前までは、荒れた学校だった。暴走族が校庭を走り回り、生徒は土足で廊下を歩いていた。授業中、先生が教室に入るよう強く注意すると、暴力沙汰にまでなったという。
 そんな学校をなんとかしなければと赴任してきた高橋校長が最初にしたのは、学校をきれいにすること。トイレのドアを直し、鏡をつけ、落書きを消していった。
 そして、次に手をつけたのが「授業のシステム化」だ。
 ある新採用の先生が授業が成り立たずに悩んでいた。校長は、「一人二人の教員が素晴らしい授業をしても、他の教員が不十分であれば、困るのは生徒」と、授業を個々の教員に任せっぱなしにするのでなく、学校組織で授業づくりに取り組むことを決意。
 授業づくりの最初に行ったのが、「チャイムが鳴ったら席に着く」という基本的な学習の規律づくり。まずこれに取り組んだ理由は、生徒にも先生にも成果が一目瞭然で、すぐに実感できるため。それができるようになったら、段階的に「授業システム発展9項目」の実践へと進んでいった(表2)。
 システムとは、授業を進めるルール。このルールは、1学期の始業式に全校生徒の前で模擬授業をして示し、生徒会にも働きかけて全校で取り組んだ。
 このシステムが生徒に浸透するにつれ、新人の先生に力を与えたのはむろん、経験と勘に頼りがちのベテランの先生からも喜ばれた。何よりも、授業を個人の先生の技術に頼るのではなく、学校全体としてスキルアップしていこうとする雰囲気が校内に生まれた。
写真1 元気にてをあげる生徒たち
▲写真1 先生の質問に元気よく手を挙げる生徒たち。どの教室でもチャイムが鳴り終わると同時に授業が始められ、大きな声でのあいさつ、授業のねらいの発表、と進んでいく

主任会が方針を出し、全員で取り組んでいく
 同校の改革が成功している背景には、校長の強力なリーダーシップのもとに行った独自の組織的取り組みがある。
 まず、2001年度から職員会議をなくし、主任会(校長、教頭、教務主任、教研主任、評価主任、生徒指導主事、学年主任で構成)を毎週1回開くようにした。そこでは、これまで「何ができて、何ができなかったか」を点検し、週の方針を出していく。
 主任会で決まった方針は職員朝会で報告され、その方針に従ってそれぞれが仕事を進めていく。
 このようなシステムが動き始めてから、さまざまな取り組みでスピードアップが可能になった。主任会には、種々のアイデアが持ち込まれ、よいアイデアは即座に実行に移される。一人の先生が悩んでいるとわかったら、すぐに「サポートしよう」となるから、学校は速い回転でどんどん変わっていくのだ。
 「こんど来られたら、また違う姿を見せられますよ」という高橋校長の言葉から、改革が確かに進んでいるという自信がうかがえた。
7つの校風
▲表3 駅家南中の生徒たちが中心になってつくった「7つの校風」

■駅家南中学校データ■

 福山市は県で2番目の人口を持つ工業都市(約40万8千人)。市では、1995(平成7)年「人間環境都市」を宣言。それを受け、教育委員会では「確かな学力・豊かな心・力量ある教職員・市民から信頼される学校」を柱に学校教育ビジョンを打ち出した。駅家南中学校は市の北部の田園地帯にあるが、ここ数年、大型商業施設などが建ち始めて都市化が進み、教育環境も変化している。
〒720-1141 広島県福山市駅家町大字江良247
TEL 084-976-0885 FAX 084-976-6374
校長/高橋秀典先生 生徒数/389人、学級数/12
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