ベネッセ教育総合研究所
特集 小・中の壁を超える中1・1学期の指導 とは?
牛田和彦
牛田和彦(愛知県瀬戸市立本山中学校校長)
うしだ・かずひこ●1955年生まれ、教職歴27年。専門は理科。愛知教育大附属名古屋小学校、瀬戸市立幡山中学校(教頭)などを経て、2003年度から現職。小学校で19年間の勤務経験もあり、現任校では小・中連携、中学校での初期指導に積極的に取り組んでいる。
玉置 崇
玉置 崇(愛知県小牧市立光ヶ丘中学校校長)
たまおき・たかし●1956年生まれ、教職歴26年。専門は数学。愛知教育大附属名古屋中学校、小牧市立小牧中学校(教頭)などを経て、2004年度から現職。早期からITを利用した授業や学校運営に取り組んでおり、現任校でも、ホームページを毎日更新している。著書は『数学の授業を感動の連続に』『コンピュータで数学授業を変えよう』(ともに共著、明治図書)ほか。
田中博之
田中博之(大阪教育大助教授)
たなか・ひろゆき●1960年生まれ。大阪大人間科学部助手、大阪教育大専任講師を経て現職。専門は、教育工学、教育方法学。「総合的な学習」に関する調査研究も多数。ベネッセ教育総研の「学力向上のための基本調査」の監修も行っている。著書は、『講座・総合的学習のカリキュラムデザイン』(全6巻、明治図書)『ヒューマンネットワークをひらく情報教育』(高陵社書店)ほか。
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座談会
学習習慣・生活習慣づくりが効果的
小・中連携がさらなる効果を生む
〜中1・1学期の指導のポイント
●出席者
 牛田和彦(愛知県瀬戸市立本山中学校校長)
 玉置 崇(愛知県小牧市立光ヶ丘中学校校長)
●司会
 田中博之(大阪教育大助教授)
 小学校と中学校では子どもへのかかわりはどう違うか、その違いを踏まえて、中1の初期指導をどのように展開するべきか──。大阪教育大の田中博之助教授に進行役になっていただき、小・中連携や地域への情報発信などに積極的な二人の中学校校長に、中1生をめぐる課題と、初期指導のあり方について語ってもらった。
新入生を「中学生」として扱いながらも、
幼さを持っていることにも配慮したい
田中 2004年9月に、『VIEW21』編集部が実施した全国の小・中学校の先生方へのアンケート調査(注1)を見たのですが(図1〜4、このデータで興味深いと思ったのは、「子どもたちに小学校卒業までに身につけておいてほしいこと」という項目で、小学校と中学校の先生方の回答に明確な違いがみられたことなんです。小学校の先生は「小学校の範囲の教科力」や「人間関係づくり」を重視している。一方、中学校の先生は、「規則正しい生活習慣」や「家庭学習習慣」を身につけてから中学校に入学してほしいと考えています。
 この意識の違いが、小学校から中学校へのスムーズな移行を考えるうえでのポイントの一つになるかもしれませんので、アンケート結果をどうとらえるか、まずはそこから話を進めていきたいと思います。
玉置 小学校で「家庭学習習慣」のスコアが高くないのは、「家庭学習の習慣づくりについては、小学校ではかなり指導している」という意識があるからだと思います。ところが中学校側からみれば、「まだまだ足りない」と思えるんです。
 こうした意識のズレが起きる原因は、二つあると思います。一つは、小学校と中学校とでは、子どもたちへのかかわり方が違う点です。小学校は学級担任制なので、担任が一人ひとりの子どものようすをつかんでいます。家庭学習習慣や宿題の提出率にしても、「この子は、ここまで到達できたのだから十分」とか、「この子の力からすれば、もう少し頑張れるはず」というように、小学校では子どもの実態や学力に合わせた学習習慣の定着を目指しています。
 しかし、教科担任制の中学校では、小学校に比べて一人ひとりの子どもをきめ細かくみていく余裕がありません。ですから、宿題全般の提出率などで、家庭学習習慣が身についているかどうかを判断しがちです。そうした違いが、両者のスコアの違いになって表れていると思うのです。したがって、中学校では単に「小学校では子どもたちに家庭学習習慣を身につけさせていない」と考えるのではなくて、中学校も個に応じた指導を意識したほうがいいと思いますね。
 二つ目は、生活のサイクルが変わることがあげられます。中学校に入ると部活動が始まり、それまでとはまるで違う生活が待っています。とくに運動系の部活になると、子どもたちはすっかり疲れ果てて家に帰り、ノートなど開く余裕もなく、パタッと寝てしまうことになりがちです。これが生活習慣が崩れる原因の一つだと私は思っているのですが、この点についての指導も、中学校入学段階の課題です。
田中 確かに、3年生と1年生とでは精神面でも体力面でも大きな差があります。受験勉強や部活動を乗り切って卒業していった3年生と同じ感覚で入学してきたばかりの1年生を指導してしまうと、1年生にとっては、厳しすぎるのかもしれませんね。
牛田 中学校では、3年生を担任した次の年は1年生を担任することが多いですから、教員側の意識の切り替えが難しいのは事実です。1年生を担当する先生同士で、実態を踏まえ、新入生をどんな意識で迎え入れ、どのように指導していくかを話し合うことが大切になってきます。
田中 1年生に対しては、つい先日まで小学生だったことを配慮して、緩やかに指導したほうがいいのでしょうか。それとも、こちらが求める中学生になってもらうために、入学段階から厳しく指導したほうがよいと思われますか。
玉置 子どもたちも、「自分はもう中学生になったんだ」という気構えで中学校に入学してきています。ですから小学生みたいに扱われると、「なんだ」という気持ちになると思います。ただしその一方で教員は、まだ子どもたちが幼さを持っていることにも配慮しなくてはなりません。
 先ほど玉置先生が、生活習慣が崩れる原因の一つとして部活動をあげられたのですが、私の学校で1年生を対象にとったアンケートによると、「中学生になってから早起きになった」という声が少なくないんです。これは部活動の朝練の効果ですよね。部活動が、生活のリズムを整えるうえでプラスに働いている。ただしそうなるためには、月のうち何日かをオフにするなど、部活動が1年生にとってあまり負担にならないように、教員が配慮をしています。1年生にも、中学生としてきちんと部活動に取り組んでもらう。でも体力面での配慮もする。そういう指導が大切だと思います。


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