特集 つながる小中の「学び」―小学校から中学校、その接続を考える―

安彦忠彦

早稲田大・教育学部教授

安彦忠彦

あびこ・ただひこ◎早稲田大教育学部教授、専攻はカリキュラム学。日本カリキュラム学会代表理事、日本教育技術学会理事などを歴任。05年からは中央教育審議会の委員も務める。『カリキュラム開発で進める学校改革ー 21世紀型授業づくり』(明治図書)をはじめ著書多数。

VIEW21[中学版] ともに語る、考える。ベネッセの教育情報誌
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【インタビュー】
早稲田大・教育学部教授
安彦忠彦

子どもの発達段階を理解した初期指導を

思春期を迎え、精神的・肉体的に不安定な状態にある新中1生の学習意欲を引き出すためには、どのような初期指導を展開すべきか。
子どもの発達過程および脳科学研究の側面から、早稲田大教授の安彦忠彦氏が、その方向性を提案する。

「脳の発達」からカリキュラムを捉える

 小学校との違いに対する戸惑いをなくし、学習をスムーズに展開させるためにも、中1の初期指導は非常に重要です。小学校と中学校の教科内容の段差に課題があることも事実ですが、教師はまず、新中1生がどのような状態で入学してくるのか、その発達段階を理解しなくてはなりません。そのうえでカリキュラムを練るのが、本来の形といえるでしょう。
  まず、脳科学の側面から子どもの発達を説明します。周知の通り、脳はさまざまな領野で構成されていますが、それらはすべてが同時に発達するというわけではありません。まず、3歳までに急速に発達するのが、運動や皮膚感覚、視覚などを司る領野です。いわば生きるための基本的な身体機能を支える部分です。そして、3歳から7歳のころ、つまり小学校低学年までは、言葉や数を司る領野が優位に発達します。この時期の子どもは「早く大人と同じになりたい」という願望が強く、貪欲なまでに知識を得ようとします。しかし、物事の理屈にまでは理解が至りません。「どうして?」という質問はたびたび発しますが、仮に筋の通らない答えを返しても意外と簡単に納得してしまいます。
  ですから、小学校低学年までは、理屈抜きで、計算問題などの単純な技能を習熟させるのにふさわしい時期といえます。この年代の子どもは、繰り返しの学習を嫌がりませんから、ドリルなどの問題を数多く解かせれば、ほぼそれだけ効果が上がります。
  一方、9歳ごろから、つまり小学校中・高学年には、徐々に論理的な思考が芽生えてきます。このころから、理屈をこねて議論をすることを好むようになり、大人を言い負かすことに無上の喜びを感じるようになります。更に、表層的な言葉や数だけでなく、抽象的な概念も理解できるようになるので、そのような学習に重点を移していく必要があります。逆に、一見、意味を見いだしにくいドリルなどの学習は嫌うようになり、飲み込みの能率も悪くなります。
  こうした脳の発達過程に鑑みて、技能を習熟させる時期、概念を理解させる時期と、メリハリのあるカリキュラムを編成するのが理想的です。繰り返すようですが、技能は「習熟」、概念は「理解」が目的です。それを教師が認識していないと、教え方が曖昧になり、子どもはなぜこんな勉強をしなくてはならないのかと、疑問を抱きます。例えば、時間の制限を設けずにドリルの問題を解かせ、1回でも解ければよしとする。これでは技能は習熟しません。制限時間を設け、同様の問題を繰り返して解くことで、自動的に答えが導けるようなレベルに達することが「習熟する」ということです。
  そのようにして習熟した技能は、容易には失われません。そして、それは、その後の発展的な学習の大切な土台となります。


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