10代のための「学び」考 広中平祐
VIEW21[中学版] ともに語る、考える。ベネッセの教育情報誌
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努力するプロセスから自分を発見

 大学3年生のころ、数学の道に進むことに決め、「代数幾何」の分野に取り組むことにしました。私の興味を惹いたのが「特異点解消」です。当時、この問題は世界的な数学者もさじを投げるほどの難問でした。私は、みんなが注目している問題には興味がなかったので、時間をかけてじっくり取り組むことにしたのです。
 特異点とは、文字や記号、グラフなどの交点や先端のとがった部分をいいます。しかし、数学の世界では特異点があると計算が複雑になってしまうのです。これを解消するには、特異点を「特異点のないもの」の「陰」と考えます。例えば、高速道路の立体交差を思い浮かべてください。道に映った影は交わっていますが、実際の道路はぶつかりませんよね。平面の世界に「高さ」という新しい次元を加えることで、特異点をなくすことができるのです。この考え方自体は既にありましたが、まだ証明されていませんでした。私は大学卒業後、ハーバード大学に留学し、研究に没頭。そして33歳のとき、ついにこの定理を証明したのです。初めてこの問題に出合ってから、10年以上の歳月が流れていました。
 今思えば、私が定理を証明できたのは、愚直なまでの粘り強さにあったと思います。私は一生懸命に授業を聞いてもその場では理解できず、2、3週間ほど経ってからわかることが多かったので、人の2倍の時間をかけて勉強しようと決めていました。特に大学生のころは、化学や生物など必要以上に多くの科目を履修し、3畳一間の下宿で猛勉強しました。この経験によって、自分には数学が最も合っているとわかったのです。
 皆さんも目標を見定めたいのであれば、勉強であれスポーツであれ、一生懸命に取り組んでみてください。そのプロセスがあるからこそ本当の自分が見えてくると思うのです。


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