記念特集 中学校教育のこれまでとこれから
鈴木一由

すずき・かずよし 教職歴25年。保健体育科担当。教務主任。袋井市立袋井南中学校、森町立森中学校等を経て、2007年度から同校。

VIEW21[中学版] ともに語る、考える。ベネッセの教育情報誌
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【私の指導エピソード】挑んだ!越えた!あの瞬間

時間がかかっても待ったことが
生徒を一歩、大人にさせた

静岡県掛川市立栄川中学校教諭

鈴木一由

だれが壁に穴を空けたかは問題ではない

 職員室の私のロッカーには、お菓子の空き箱がいつも入っていました。生徒が壁に空けた穴を、空き箱の厚紙で塞ぐためです。10年ほど前に勤めていたその中学校の生徒は、特に荒れていたわけではありませんが、少し落ち着きがないところがありました。叱られると我慢ができずに、物に当たってしまう3年生が何人かいたのです。高校受験を控えて、気持ちがいら立っていたのかもしれません。体の成長に心の成長が追い付いていなかったこともあったのでしょう。
 「できるだけ早く対応したいですね」
 当時3学年主任だった私は、教頭や生徒指導の先生と今後の対応について話し合いました。こういうときは、とにかく穴が空いていたり汚れたりしているのを放っておかないことが肝心です。学びの場である校舎はいつも清潔できちんとしていなければなりません。壊れたまま、汚いままにしておくと、それが平気な学校になってしまうからです。
 私たち3学年団は、穴を塞げる大きさにベニヤ板を切って貼り始めました。でも、ベニヤ板を切り貼りするのは、結構時間がかかります。しかも、一つ修理をしても、しばらくすると別な場所の壁にまた穴が空いている――。この繰り返しで、ベニヤ板の在庫はすぐに底をついてしまいました。そこで出てきたのが、「板ではなく、紙でもよいのではないか」というアイデアでした。私たちは家にあった空き箱を学校に持ってきて、板の代わりに空き箱の厚紙を貼り始めました。
 実は、穴を空けている生徒の見当はついていました。でも、当事者を見つけ出して注意するだけでは意味がないとも思っていました。注意をするだけだったら、その生徒は一時的に物に当たらなくなったとしても、しばらくしたら隠れて空けるようになるでしょう。大切なのは、自浄作用の働くような学年集団、学校集団をつくることです。
 生徒自身が自分の行為が悪いことであると気づく。あるいは、まわりの生徒が注意する。そこに至るまでには時間がかかるとわかっていましたが、私たちは生徒を信じて、黙々と厚紙を貼り続けたのです。


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