ベネッセ教育総合研究所 ベネッセコーポレーション
   2/9 前へ次へ


先進事例の紹介(1)…非常に詳しい評価規準・基準をつくった福岡市
陣川先生陣川先生 福岡市では、昭和50年代に評価の「規準」と「基準」をつくったんです。ところが実際、学校現場ではほとんど使われていなかった。「形成的評価」については若い人が少し知っていたけれど、「診断的評価」も「総括的評価」も、それどころか、評価規準に対する観念がなかった。それが実態です。
 私は1985(昭和60)年に教育委員会に入り、指導課にかかわって、なんとかしなくてはと思って、少しずつやりかかけたんですが、なかなかうまくいきませんでした。とうとう、今日まで来たわけですけれども、今度、「学習指導要領の最低基準制度」「絶対評価」「高校入試の調査書の絶対評価制」等の流れのなかで、通知表も絶対評価になったんですが、保護者の評価に対する意識が非常に高くなってきています。「絶対評価になったら、子どものどこが変わるんですか」ということを言われました。そして「先生たちは(絶対評価をする)それだけの力があるんですか」といった言葉も出てくるんです。
 そこで、なんとかしたいと思って、まず、文部科学省が出した評価規準に基づいて、福岡市教育委員会としての評価規準をつくろうと思ったんです。ところが、「規準をつくっても、基準をつくらないと、学校現場では役に立たない」というのが私の考えだったんです。ベテランの先生は規準だけでも授業や評価ができるけれども、経験の浅い先生たちはできない。そう考えて、基準も含めた、お手元に差し上げたようなものをつくりました。
 これは小学校の社会科用(資料・福岡(1)参照)ですが、まず、学習指導要領、指導要録、それからある種の指導研究的なものを参考にして目標を4観点であげてみました。
資料・福岡(1)
<クリックすると大きくなります>
資料・福岡(1)
小学校・社会科
学習指導要領、指導要録、指導研究的なものを参考にして目標を4観点で整理
そして、次の「マトリックス」をつくったわけです。表の右側には、3、4年生の評価規準を観点に沿って並べて、左側に単元名を書きました。そして、この単元では何を大事にするのかということ示しました。例えば9単元を見てみてください。「ごみとわたしたちのくらし」という8時間の単元ですが、二重丸と一重丸が入っています。二重丸は、必ずこれはやってくださいという意味です。
 このマトリックスに基づいて、今度は各教科の、各単元の学習活動と内容、それから評価規準、それから情意面でいうと、「すがた」いうかたちで載せました。それが2001(平成13)年度の仕事でした。
 それは、先生たちが机上でつくったものなので、2002(平成14)年度はそれを実践段階で修正をしてくださいとお願いしました。そして、同時に、各学年、1単元ないし2単元だけは、全時間の学習活動と内容、並びに評価規準と基準、期待される姿を時間ごとにつくってください、と。
 評価基準をつくったら、評価のA、B、Cに該当する子どもの姿を考え、Aの子どもには、それをさらに伸ばすにはどうしたらいいのか、BはAにするためにどうしたらいいか、CはBにするためにどうしたらいいか、という手だても書いてください、と。
 そうしてつくったのが、次の「ごみとわたしたちのくらし」の指導計画(資料・福岡(2)参照)です。8時間中の第1時間目がそこに載っています。そこに、「学習活動と内容」、「評価規準と基準」を書いて、「児童の反応と手だて」の欄に「T児の予想」とか、いろいろ出てくるんですが、ここにB段階の様子を載せたんです。
 その次に、「指導児童の反応とその解釈」として、「Aの状況と判断される児童の反応の例」を書いているんです。こんなのが出てきたらA、Bというのはこんな反応が出た場合、Cはこう、と。そしてそれに対するそれぞれの解釈、そしてそれぞれの子どもたちへの支援、そうしたものまで入れたものを、各教科1単元ないし2単元つくってもらいました。多いところはいくつも出しているところもありますけれども。
資料・福岡(2)
<クリックすると大きくなります>
資料・福岡(2)
小学校・社会科
「ごみとわたしたち」の評価規準の例
 今年の4月に福岡市内の全学校に配布しました。それがCD−ROMにもなっています。小学校版はA4で1300ページくらい、中学校版は900ページくらいになります。
 福岡市の場合は、学校から教育センターに来て勉強する人たちのさまざまな研究組織がありますが、そこでも、それから学校の研修でも、この規準を中心に研修してくださいとお願いしていますので、今年度中にこれが洗い直されてくるだろうと思います。そして、少しでも使いやすいものにしたいと思っています。
 非常に詳しいものになったわけですけれども、基本的には、授業に役立つ、授業を充実させるための評価規準・基準、事例ということを中心に置いていたわけです。福岡市の先生たちは、これを見ておけば、指導案がなくても、おおむね授業ができるわけですが、なんとか修正していこうと、努力している段階なんです。
 梶田先生からは「詳しすぎるぞ」と言われそうです。去年、教育方法学会で水越先生からも、「福岡市のマトリックスは詳しいですね」と言われました。そのときも水越先生に、抗弁したんですけど、あえて言いたい。先生たちが一度本気で目標分析をしてくれたら、授業が変わります。目標分析をいい加減にして、「授業を変える」と言っても、小手先だけの変化にしかならないんじゃないかなと思っています。
 もう1点、研修で学校に呼ばれたりしたとき、あるいは小学校・中学校の校長先生、リーダーの先生たちの集まりで言っているのは、「評価規準は規準であって、授業の充実が大事。授業の中でも指導技術を上げなくちゃいけない」ということです。
 私は福岡市内だけでなく、県内のいくつかの教育事務所に請われていって話をするんですが、この評価規準が非常に役立っていると言われます。(市の教育センターのホームページにも公開していますが)非常にアクセスも多いそうです。評価から授業が変わっていけばいいなあと思いながらやっています。
福岡市の評価実践事例集 中学校版 小学校版
トップへもどる
中学校トップへもどる
目次へもどる
 
このページの先頭へもどる
   2/9 前へ次へ
 
本誌掲載の記事、写真の無断複写、複製、および転載を禁じます。
© Benesse Holdings, Inc. 2014 All rights reserved.