今回のセミナーは「熾烈な競争的環境下にあって“繁栄する私立大学”〜急がれる大学改革、今問われている私学経営手腕〜」とのテーマで開催された。終了後、同セミナーで提起された論点をもとに、日本私立大学協会の原野幸康常務理事と進研アド顧問の三木正伸が対談を行った。 【対談】
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▼原野幸康 氏 |
▼三木正伸 顧問 |
――慶應義塾理事・塾監局長の孫福弘さんは行政管理職、教職員の機能分化について話をされました。教育、管理運営それぞれのプロ化を進めるべきであり、スタッフと教員の両輪の必要性という話でしたね。
原野 孫福さんが行政管理学会を作ってくださったことに大変敬意を表します。協会としても、かねてから事務職員のレベルアップは大変重要な課題としてとらえ、新規職員を1年間教育する大学院大学づくりを事業計画に入れたことがあります。もう二十数年前のことです。ただ、これは実現しませんでした。
三木 そうなんですか。
原野 これからの時代は、孫福さんの言う通り、事務職員が動かなければ、財政の問題から戦略づくりまでどうにもならないと思うんです。事務職員には新しい仕事が生まれ、既存の仕事に変化が生まれているという内容でした。戦略的な企画から広報、学部支援、研究支援、特許、産学TLOの話、国際交流、財務資産運用、新規事業の展開、ネットワーク、危機管理など、新しい要素が出てきて、それぞれに専門職が必要になってきます。学校が発展していくためには、役員と教員と職員が三位一体にならなければいけないのだと思いますよ。
――アドミニストレーターをいかに養成するかは、教員のFD(ファカルティ・ディベロプメント)の問題とからめて非常に重要な課題ですね。三木さんはかつて学長として学部・学科の改組転換などをはじめ学校運営に携わってこられたわけですが、その中で学長ないしは理事長の支援組織、つまりスタッフのプロが必要だと主張されていたと思いますが……。
三木 以前から私が大学作りの際に言っていたのは、教員と職員はどちらかが上とか下ではなくて、両輪であるということです。その両輪は、駆動する側とそれについていく側に分かれるのではなく、両方とも駆動していく側であり、それぞれの役割は違うということです。
原野 おっしゃる通り、両輪のごとく職員が教員と並んで動かないことには、大学運営はできない時代になってきています。
三木 ところが実態はというと、職員は教員の支援という名のもとに、ある種、教員のしもべのようになっているケースが多いのです。つまり職員は、意思決定支援組織に参画できないようになっています。行政を担当している教員の指示を受けて業務遂行していくのが職員だと思われがちですが、私はそうではないと考えます。職員が大学の意思決定機関に参画していかなければ、適切な管理運営とはならないと思っていました。そのためにはプロ化に向けた、きちっとした職員研修が必要です。
原野 ついに日本でも桜美林大学のようにアドミニストレーターの養成機関ができましたし、学内でも職員研修はできるはずです。とはいえ、職員のレベルアップを図るのは大変なことで、各大学とも教員のFDとともに取り組まなければならない大問題です。
三木 私は孫福さんの話にあった行政管理と学術研究関係を教員と職員の分野から選抜していくことに大賛成なんです。ファカルティの中からも行政管理能力の高い人には行政職に就いてもらい、事務職員も含め支援組織を作る。理事会や学長の支援組織ですね。学長一人が音頭をとっても支援する組織がないとダメです。例えば、教職員で構成した教学運営会議のような支援組織があって、学長がリーダーシップをとる。理事会にも経営会議のような支援組織が必要です。そこには事務職員も入ってもらい、理事長が意思決定しやすい提案ができる組織作りが必要なのではないかと思います。
――ただ、個別の大学を見ると、それぞれの立場がうまく進んでいないように思うのですが、障害になっているのは何なのでしょうか。
原野 やはり教員の意識改革が一番の問題だと思います。しかし、同時に職員の意識改革も必要です。結局、煎じ詰めれば人の問題だといえます。今はいい人材をどう採用していくかが重要でしょう。
三木 職員採用は今まで以上に真剣に取り組んでいかなければならないということですね。また、教員についてはFDというか、第三者評価や学生の授業評価を受けなければいけないというのは大賛成です。しかし、よく考えたら、大学の構成員は、管理運営の理事会は別として、教員と職員の二つの職種で構成されています。ところが、職員の第三者評価については全然触れられていません。職員がもっと活性化し、積極的に大学改革に携わっていけば、日本の大学はまだまだ新しい個性化が図れるんじゃないかと思います。今は、教員のFDと共に職員のスタッフ・ディベロプメント、即ちSDの必要性が強く問われています。
原野 今後、有能なスタッフの需要はますます高まり、スタッフの流動化も促進されるでしょう。それは大学の活性化にもつながっていくと思います。
――私学高等教育研究所主幹の喜多村和之さんからはIT化、国際化をテーマに大変興味深いお話をしていただきました。学問をする場所であった大学が、IT・国際化の中でどう変わっていくと感じられましたか。
三木 グローバライゼーションが進む中で、大学は研究機関としてますます先鋭化させていかなければならないし、その一方で、教育という分野ではIT化によって多様な教育形態が生まれてくるのではないかというご提案でした。
原野 そうですね。サテライトやインターネットといったITツールによる教育は大切です。放送大学をはじめ、いろいろな試みを行ってきていますが、これは第一段階だったと思うんです。いよいよ第二段階に入ったという感じがしますし、インターネットの中で教育そのものが世界中を駆け巡るようになったと思います。逆にいえば、一定の時間、一定の場所に、一定の人を集めて行ういわゆる学校教育が、ある意味で崩壊または変形していかざるをえない事態に入ったという印象をもっています。
三木 これからはキャンパスに学生を呼ぶだけではなく、「バーチャル型」の大学が登場してくるでしょう。そうなると、これまでと違い、授業料をどうするのかという問題が出てきます。例えばマサチューセッツ工科大学(MIT)のようにインターネットで無料で授業資料を提供するオープンコースウエア(MIT Open Course Ware)を作る大学も増えてくるでしょう。そうなると、今までの一年間いくらという授業料制度の形がなくなるという話もされていました。今後はアメリカのように、一科目単位での授業料制度が主流になるのかなと思いましたね。
原野 今出たMITは2003年までに500科目、11年までに2000科目を公開するという報告でした。
三木 そうなると、出席しなくてもウェブ上で授業を受け、単位を修得すればいいという時代になってきますね。
原野 インターネットで世界中を駆け巡る教育システムが一般化し、オンデマンド型コンテンツが提供されるようになると、語学の問題があるにしても、学校を使わずに資格を取れるわけです。これは大変革ですよね。アメリカでは160万人がウェブでの教育を受け、単位認定をされていますが、世界的な競争という点から見ると、大変な話です。
――しかし、厳しい半面、教育内容のコンテンツがよければ、どこからでも発信できるのではないかとも考えられます。
原野 これは日本がWTOで外圧を受けている貿易問題と一緒で、いい教育内容を提供しますと言われたら、それを拒否する理由は何もなく、大変につらい話です。しかし、一方的に受ける側になるのではなく、例えば日本文化、伝統芸能、日本の精神文化、民族文化、テクノロジーなど、日本から提供できるコンテンツはかなりあると思うんです。ですから、それらを創造し、発信する努力が日本に必要になります。
――大学改革では、行政関係の動きも非常に大きな問題になっています。今回のセミナーで、文部科学省高等教育局大学課長の合田隆史さんにその時点での最新情報をご発言いただきました。最後に合田さんの話も含め、これからの文部科学行政について少しお話しいただきたいと思います。
三木 まさか文部科学省の方にセミナーであそこまでお話しいただけるとは思っていませんでしたが、その後、どんどんと実体化されてきているという気がしています。まさに国立大学の再編成はすごいスピードで起こってくるでしょうし、統合・再編成が数多く起こるということをおっしゃっていました。さらには公立学校も独法化が推進されるであろうということでした。中には国立と公立が連携することもある。国公私の連携、一体化が起こる可能性さえあると受け取れる内容でした。そうなると、設置形態がまったく変わるでしょう。設置認可制度がなくなり、設立後にチェックするといったスタイルになり、完全に競争の原理を取り込んだ形になっていくと思います。
原野 確かに合田さんは、日本の国立、公立、私立という三つの設置形態は、いずれ取り払わなければならないというところまで踏み込んでおられました。
三木 そうなると、キーポイントになるのが競争と共生であり、その中には「連携」というキーワードが出てきます。まだまだ紆余曲折はあるでしょうけど、私学は国立大学の独法化についてよく検証し、国とのいい競合、競争、提携をしていかなければいけないと思います。
原野 もう一つ、合田さんは、国立大学の運営が、その大部分を国民の税金で賄われていることをどのように説明するのかということを話されていました。これは私学についても同様です。国民に責任をもって説明できる組織づくり、これは今後の大きな課題の一つでしょうね。
三木 そこで国立大学に導入されるのが民営的な発想、経営手法だという話でしたね。法人化して役員や外部の専門家を入れ、経営責任を明確化する。戦略的に大学を運営することを考え、能力主義、業績主義にたった新しい人事システムを実施する。第三者評価を行って結果を公表し、評価結果に応じて資金を配分していくというわけです。しかし、どのような形になろうと、最終的に問題になるのは、やはり教育内容ですよね。学生たちのニーズ、創造性を引き出すような教育をどうするか。大学の目標はやはり人間教育なんですから。現在ただ今の社会の要請だけに応えた学問分野や、資格や就職だけを考えた教育課程で構成していては、大学としての存在価値は薄れるでしょう。人間形成教育をどうするかが一番の問題です。
原野 そう、そこが大学であり高等教育の原点なんですよ。原点を忘れたら意味がありません。