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特集 大学改革と経営手法[前編]

大改革時代に求められるのは強いリーダーシップ

 今回のセミナーは「熾烈な競争的環境下にあって“繁栄する私立大学”〜急がれる大学改革、今問われている私学経営手腕〜」とのテーマで開催された。終了後、同セミナーで提起された論点をもとに、日本私立大学協会の原野幸康常務理事と進研アド顧問の三木正伸が対談を行った。

【対談】
日本私立大学協会 常務理事 原野幸康 氏
VS 進研アド顧問 三木正伸

進 行:進研アド取締役 編集部長(Between編集長)高山裕司

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平等主義から競争主義へ 厳しい変革の時を迎えている大学

――主に私立大学の理事長、学長、事務局長の皆さんをお招きして開催したセミナーには、我々の期待をはるかに上回る120大学200人ほどにご出席いただきました。これは今現在、大学が置かれている厳しい状況の裏返しであろうかと思いますが、まず2日間のセミナーに参加されての所感からお伺いしていきたいと思います。
三木 高等教育を取り巻く環境は、ものすごいスピードで変わってきていると思います。特にここ数年は、ある種アメリカの大学を手本にするような形で積極的に大学改革が行われており、大変貌期を迎えていると感じます。
原野 このように大学が変化の時代を迎えているのは、終戦から五十数年が経ち、社会全体が大きく変わってきているからです。高度成長時代は、18歳人口の増加に伴い大学受験者数も増え、進学率も上がっていきました。そのような時代は、結果的に言えば、文部省の文教政策も我々がやってきたことも「結果良ければ、すべて良し」的なことでよかったんです。
三木 確かに第1次ベビーブーム、第2次ベビーブームで18歳人口が右肩上がりになっている時はそれで済んでいましたね。
原野 しかし、今度はそうはいかなくなりました。いわゆるプライバタイゼーション、私学化、民営化ということで象徴される時代に入ってきたわけです。その典型が国立大学の独立行政法人化であり、独法化が今、我が国の大学を大きく変えようとしています。この根底にあるのは高等教育にかかる経費を国だけでまかなうことが難しくなってきて、経営的手腕を入れながら国の経費を有効に使い、レベルを高くした教育・研究を進めようという考え方です。
三木 プライバタイゼーションを進める上で求められるのが「アカウンタビリティ」ですね。文部科学省の合田さんのお話に「他人のお金が自由に使える世の中ではなくなった」というのがあり、何事も第三者の評価を受ける時代にいよいよなってきたのでしょう。財政、教育内容、教育方法をすべて開示して第三者評価を受けなければいけない時代が来ているといえます。そして、日本はこれまでの平等主義社会から競争原理を持ち込んだ競争主義社会へと変わろうとしています。そんな時代だからこそリーダーシップが必要とされるのではないでしょうか。リーダーのいる組織へと日本は変わっていかなければならないという話は、4人の講師全員に共通していたような気がしますが、どうでしょうか。
原野 リーダーシップの必要性は、大学はもちろん、社会全体にいえることだと思います。同時に大学には、大学経営のスペシャリストが必要になってきているのも確かですね。

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徹底的な経営のスリム化と積極的な資産運用が求められる

――今回のセミナーでは、4人の講師にそれぞれ違ったテーマでお話を伺いました。まずは日本私立学校振興・共済事業団 財務相談支援センター長の深沢行雄さんですが、あらためて私学財政の厳しさ、戦略の重要性を感じさせられる講演だったと思います。特に日本私立大学協会の立場で原野さんはどう受け止められましたか。
原野 18歳人口の減少はすでに18年前にわかっていたことです。協会としては、これまで同様の学生募集だけを頼りにするのでは、いつか必ず経営が成り立たなくなる、そこで留学生や生涯学習で成人を対象にするなどの試みを考えるべきだと呼びかけてきましたが、現場の反応は鈍かったです。しかし、すでに債務超過で、資金繰りがショートした大学が四年制大学でも出てきたという現状で、経営コンサルトを担当する深沢さんのデータは大変参考になりましたね。しかも、深沢さんには、学生募集での定員割れ、社会のニーズに合わない学問分野を教育し続けている問題、過剰な設備投資、経営陣の経験の浅さなど、経営が困難になる基本的なシナリオまで示してもらえました。
三木 私は、深沢さんの講演は18歳人口の減少の中にあって、1998年の文部省の答申にもある「競争的環境にある自己責任」を謳い、大学の経営陣に対して非常に厳しい警鐘を鳴らすことがスタートになっていると受け取りました。非常にわかりやすい例をあげていただいたように思います。理事長や理事は財務を財務担当者や事務局長だけに任せるのではなく、少なくとも予算書の読み方や貸借対照表を理解できるようにしておかないと、いざという時に大変ですよ、という警告を発しておられたのだと思います。ですから私は、理事会全体で財務に関する理解度をより深めていくことが重要であると感じました。
原野 もはや大学も金融機関と同じで、護送船団で肩を並べてという時代ではなくなっています。個々の大学が努力をしなければならないわけですが、では何を努力するかといえば、人件費や無駄な経費の見直しによる支出削減、できるならばアウトソーシングでの財源確保や、優秀な学生の確実な確保です。深沢さんは、これらの問題点をすべて項目ごとにあげていました。我々はそれを中心に健全なる学校運営を行い、教育内容を世界的なレベルまでアップしていくためにも非常に参考になりました。
――詳細な財務分析、事例分析等の資料を用いながらの深沢さんの話は非常にわかりやすいものでした。
三木 他に深沢さんは資産運用を考えるべきだとも話されていました。例えば株式や国債の活用、その他の運用財産をどううまく活用していくか、アメリカの大学はこの資産運用を積極的に進めながら収入財源にしていきます。しかし、今までの日本の私学では、できるだけリスクの多いものには手を出さない方がよかったわけです。元金保証のあるものには使っていいけれど、リスクを負うようなものにはなかなか手をつけられませんでした。ところがこれからの自己責任、競争的環境の中では、ある種のリスクを負いながらも、資産運用や場合によっては収益事業を立ち上げることが私学運営に必要だと示唆されていたように思います。
原野 アメリカには1400億円以上の寄付金を集めた大学が33あり、資産運用を盛んに行っています。資産運用を行えば、当然、利益を生むこともあれば、損失を出すこともあります。しかし、大学は寄付金を集めることと、資産運用を行うことで経営するものだというコンセプトが定着しているため、損失を出した時でも、その度合いにもよるでしょうが、日本ほど厳しく責任が問われません。本当に大学経営についてのコンセンサスがきちんと出来上がっているからなんですね。この企業家的発想は、TLO(産学連携を促進する技術移転機関)の問題と含めて、日本の大学経営の大きな課題であることは事実で、それがやがて孫福さんの話につながっていきます。

▼原野幸康 氏
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▼三木正伸 顧問
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大学の活性化には、教員と職員の両方のプロ化が必要

――慶應義塾理事・塾監局長の孫福弘さんは行政管理職、教職員の機能分化について話をされました。教育、管理運営それぞれのプロ化を進めるべきであり、スタッフと教員の両輪の必要性という話でしたね。
原野 孫福さんが行政管理学会を作ってくださったことに大変敬意を表します。協会としても、かねてから事務職員のレベルアップは大変重要な課題としてとらえ、新規職員を1年間教育する大学院大学づくりを事業計画に入れたことがあります。もう二十数年前のことです。ただ、これは実現しませんでした。
三木 そうなんですか。
原野 これからの時代は、孫福さんの言う通り、事務職員が動かなければ、財政の問題から戦略づくりまでどうにもならないと思うんです。事務職員には新しい仕事が生まれ、既存の仕事に変化が生まれているという内容でした。戦略的な企画から広報、学部支援、研究支援、特許、産学TLOの話、国際交流、財務資産運用、新規事業の展開、ネットワーク、危機管理など、新しい要素が出てきて、それぞれに専門職が必要になってきます。学校が発展していくためには、役員と教員と職員が三位一体にならなければいけないのだと思いますよ。
――アドミニストレーターをいかに養成するかは、教員のFD(ファカルティ・ディベロプメント)の問題とからめて非常に重要な課題ですね。三木さんはかつて学長として学部・学科の改組転換などをはじめ学校運営に携わってこられたわけですが、その中で学長ないしは理事長の支援組織、つまりスタッフのプロが必要だと主張されていたと思いますが……。
三木 以前から私が大学作りの際に言っていたのは、教員と職員はどちらかが上とか下ではなくて、両輪であるということです。その両輪は、駆動する側とそれについていく側に分かれるのではなく、両方とも駆動していく側であり、それぞれの役割は違うということです。
原野 おっしゃる通り、両輪のごとく職員が教員と並んで動かないことには、大学運営はできない時代になってきています。
三木 ところが実態はというと、職員は教員の支援という名のもとに、ある種、教員のしもべのようになっているケースが多いのです。つまり職員は、意思決定支援組織に参画できないようになっています。行政を担当している教員の指示を受けて業務遂行していくのが職員だと思われがちですが、私はそうではないと考えます。職員が大学の意思決定機関に参画していかなければ、適切な管理運営とはならないと思っていました。そのためにはプロ化に向けた、きちっとした職員研修が必要です。
原野 ついに日本でも桜美林大学のようにアドミニストレーターの養成機関ができましたし、学内でも職員研修はできるはずです。とはいえ、職員のレベルアップを図るのは大変なことで、各大学とも教員のFDとともに取り組まなければならない大問題です。
三木 私は孫福さんの話にあった行政管理と学術研究関係を教員と職員の分野から選抜していくことに大賛成なんです。ファカルティの中からも行政管理能力の高い人には行政職に就いてもらい、事務職員も含め支援組織を作る。理事会や学長の支援組織ですね。学長一人が音頭をとっても支援する組織がないとダメです。例えば、教職員で構成した教学運営会議のような支援組織があって、学長がリーダーシップをとる。理事会にも経営会議のような支援組織が必要です。そこには事務職員も入ってもらい、理事長が意思決定しやすい提案ができる組織作りが必要なのではないかと思います。
――ただ、個別の大学を見ると、それぞれの立場がうまく進んでいないように思うのですが、障害になっているのは何なのでしょうか。
原野 やはり教員の意識改革が一番の問題だと思います。しかし、同時に職員の意識改革も必要です。結局、煎じ詰めれば人の問題だといえます。今はいい人材をどう採用していくかが重要でしょう。
三木 職員採用は今まで以上に真剣に取り組んでいかなければならないということですね。また、教員についてはFDというか、第三者評価や学生の授業評価を受けなければいけないというのは大賛成です。しかし、よく考えたら、大学の構成員は、管理運営の理事会は別として、教員と職員の二つの職種で構成されています。ところが、職員の第三者評価については全然触れられていません。職員がもっと活性化し、積極的に大学改革に携わっていけば、日本の大学はまだまだ新しい個性化が図れるんじゃないかと思います。今は、教員のFDと共に職員のスタッフ・ディベロプメント、即ちSDの必要性が強く問われています。
原野 今後、有能なスタッフの需要はますます高まり、スタッフの流動化も促進されるでしょう。それは大学の活性化にもつながっていくと思います。

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ITによる世界的な競争の激化は試練であり、チャンスである

――私学高等教育研究所主幹の喜多村和之さんからはIT化、国際化をテーマに大変興味深いお話をしていただきました。学問をする場所であった大学が、IT・国際化の中でどう変わっていくと感じられましたか。
三木 グローバライゼーションが進む中で、大学は研究機関としてますます先鋭化させていかなければならないし、その一方で、教育という分野ではIT化によって多様な教育形態が生まれてくるのではないかというご提案でした。
原野 そうですね。サテライトやインターネットといったITツールによる教育は大切です。放送大学をはじめ、いろいろな試みを行ってきていますが、これは第一段階だったと思うんです。いよいよ第二段階に入ったという感じがしますし、インターネットの中で教育そのものが世界中を駆け巡るようになったと思います。逆にいえば、一定の時間、一定の場所に、一定の人を集めて行ういわゆる学校教育が、ある意味で崩壊または変形していかざるをえない事態に入ったという印象をもっています。
三木 これからはキャンパスに学生を呼ぶだけではなく、「バーチャル型」の大学が登場してくるでしょう。そうなると、これまでと違い、授業料をどうするのかという問題が出てきます。例えばマサチューセッツ工科大学(MIT)のようにインターネットで無料で授業資料を提供するオープンコースウエア(MIT Open Course Ware)を作る大学も増えてくるでしょう。そうなると、今までの一年間いくらという授業料制度の形がなくなるという話もされていました。今後はアメリカのように、一科目単位での授業料制度が主流になるのかなと思いましたね。
原野 今出たMITは2003年までに500科目、11年までに2000科目を公開するという報告でした。
三木 そうなると、出席しなくてもウェブ上で授業を受け、単位を修得すればいいという時代になってきますね。
原野 インターネットで世界中を駆け巡る教育システムが一般化し、オンデマンド型コンテンツが提供されるようになると、語学の問題があるにしても、学校を使わずに資格を取れるわけです。これは大変革ですよね。アメリカでは160万人がウェブでの教育を受け、単位認定をされていますが、世界的な競争という点から見ると、大変な話です。
――しかし、厳しい半面、教育内容のコンテンツがよければ、どこからでも発信できるのではないかとも考えられます。
原野 これは日本がWTOで外圧を受けている貿易問題と一緒で、いい教育内容を提供しますと言われたら、それを拒否する理由は何もなく、大変につらい話です。しかし、一方的に受ける側になるのではなく、例えば日本文化、伝統芸能、日本の精神文化、民族文化、テクノロジーなど、日本から提供できるコンテンツはかなりあると思うんです。ですから、それらを創造し、発信する努力が日本に必要になります。

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競争と共生と連携をカギに大学の統合・再編成が進む

――大学改革では、行政関係の動きも非常に大きな問題になっています。今回のセミナーで、文部科学省高等教育局大学課長の合田隆史さんにその時点での最新情報をご発言いただきました。最後に合田さんの話も含め、これからの文部科学行政について少しお話しいただきたいと思います。
三木 まさか文部科学省の方にセミナーであそこまでお話しいただけるとは思っていませんでしたが、その後、どんどんと実体化されてきているという気がしています。まさに国立大学の再編成はすごいスピードで起こってくるでしょうし、統合・再編成が数多く起こるということをおっしゃっていました。さらには公立学校も独法化が推進されるであろうということでした。中には国立と公立が連携することもある。国公私の連携、一体化が起こる可能性さえあると受け取れる内容でした。そうなると、設置形態がまったく変わるでしょう。設置認可制度がなくなり、設立後にチェックするといったスタイルになり、完全に競争の原理を取り込んだ形になっていくと思います。
原野 確かに合田さんは、日本の国立、公立、私立という三つの設置形態は、いずれ取り払わなければならないというところまで踏み込んでおられました。
三木 そうなると、キーポイントになるのが競争と共生であり、その中には「連携」というキーワードが出てきます。まだまだ紆余曲折はあるでしょうけど、私学は国立大学の独法化についてよく検証し、国とのいい競合、競争、提携をしていかなければいけないと思います。
原野 もう一つ、合田さんは、国立大学の運営が、その大部分を国民の税金で賄われていることをどのように説明するのかということを話されていました。これは私学についても同様です。国民に責任をもって説明できる組織づくり、これは今後の大きな課題の一つでしょうね。
三木 そこで国立大学に導入されるのが民営的な発想、経営手法だという話でしたね。法人化して役員や外部の専門家を入れ、経営責任を明確化する。戦略的に大学を運営することを考え、能力主義、業績主義にたった新しい人事システムを実施する。第三者評価を行って結果を公表し、評価結果に応じて資金を配分していくというわけです。しかし、どのような形になろうと、最終的に問題になるのは、やはり教育内容ですよね。学生たちのニーズ、創造性を引き出すような教育をどうするか。大学の目標はやはり人間教育なんですから。現在ただ今の社会の要請だけに応えた学問分野や、資格や就職だけを考えた教育課程で構成していては、大学としての存在価値は薄れるでしょう。人間形成教育をどうするかが一番の問題です。
原野 そう、そこが大学であり高等教育の原点なんですよ。原点を忘れたら意味がありません。

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