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特集 全入時代の学生募集戦略

立命館大学 1to1 コミュニケーション

リスト活用によるDMからネットへ ツールの進化を先取り

 全国の大学・短大志願者数がピークを超えた1993年度以降も、立命館大学では志願者を安定的に集めてきた。01年度には10万1600人で過去最高を記録している。その募集力の秘密は、常に新しいことに挑む攻めの姿勢とオリジナルの発想。そして、受験生一人ひとりにアプローチして確実な出願に結びつける“1 to 1 コミュニケーション”の手法も特徴的だ。DMからネットへ――。進化の過程にあるコミュニケーション戦略について聞いた。

■特典つきDMでイベント成功

 立命館大学は昨年11月下旬、東京・新宿でデリバリーキャンパスを開催した。出前形式のオープンキャンパスとして福岡と大阪では定着しているが、東京では初めて。参加者150人程度を見込んだが、ふたをあければ600人が押し寄せる盛況ぶりだった。
 当日のアンケートでは、参加者のほとんどが自宅に届いたダイレクトメール(DM)でイベントの開催を知ったと回答。入学願書無料プレゼントの特典がついたこのDMは、資料請求者の中から首都圏に住む受験生を抽出して発送したものだ。同大学は第二志望という参加者が、コメント欄に「京都まで行かないと見られなかった大学の中身が見られて、とても有意義だった」と記すなど、イベントのインパクトと誘導したDMの効果がうかがえる。
 同大学では近年の学生募集で、資料請求者のリストを最大限に活用してきた。イベント開催時には登録者の中からエリア限定で告知を出し、出願期間中には出願状況の情報を受験生に提供、判断材料にしてもらうという具合。
 入学センターでは4年ほど前からリスト整備を進めてきた。都道府県と高校をキーに、資料請求者を登録。高校は、同大学の志願者数や合格者数をもとに5段階に分類している。受験生についても志望学部のほか、どの媒体を介したレスポンスかなどの情報が付され、さまざまなクロス分析ができる。複数の媒体の葉書を使い重複して資料請求する生徒がいても、リスト登録時に1件に集約されるため、経費も削減できるという。

■「第一志望」「質の確保」も重視

 立命館大学の志願者は97年度からの低迷期を経て00年度には再び増加に転じ、01年度は5年ぶりに10万人を突破、過去最高となった(下図)。
 入試の目新しさで受験生を動かすことはもはや難しく、打つ手も出尽くしたというのが、大学関係者の一致した見方である。その中でのこの好調ぶりは、受験人口減少期の到来を見越して80年代後半から先手先手で打ち出してきた同大学の募集戦略が、短期的にも長期的にも着実な成果を生み出してきた結果といえる。毎年のように新方式を繰り出す入試改革で受験生にアピールし、年度ごとの志願者数を押し上げる。大学に対する注目度が徐々に高まる中で、学際化の流れをいち早く捉えたインスティテュートの導入など、教育の中身も積極的に改革。それがさらに受験生からの評価を高める―。こうした相乗効果が、入試改革への着手から15年以上を経て大きな差をつけているようだ。
 「これからは志願者の数ではなく、第一志望の者と優秀な学生を確保することが重要になる」との指摘が盛んに聞かれる。これに対して、同大学入学センターの小畑力人部長は「こういう時代だからこそ、大学の教育に対する評価の表れである志願者数が持つ意味は大きい」と揺るがない。マスとしての志願者確保と合わせ、個別アプローチを通して自校の位置を第一志望に引き上げたり、奨学金制度の充実で学生の質を担保するなど、多面的な取り組みに対する自信の表れといえそうだ。
 数の積み上げのため手立てを尽くす姿勢は、デリバリーキャンパスをはじめとする「受験生1万人に会おう」キャンペーンに象徴される。他大学が推薦入試などの業務に追われて広報活動が手薄になる10月から12月にかけて連日、全国各地で直前ゼミナールや大学説明会を開催。1万人という目標をにらみつつ告知のDMを出す。
 会場では、参加者一人ひとりの質問に耳を傾け、ガイダンスを行う。東京でのデリバリーキャンパスを担当した入学センターの片田賢史課長補佐は、「地元でのイベントに比べ父母同伴が多く、下宿など生活面の情報提供も必要なので、面談には十分な時間をかけます」と話す。こうした個別・双方向コミュニケーションの集中投下は、立命館大学を第二、第三志望校とする受験生の中から、第一志望にランクアップしてくれる者を掘り起こす作業となる。

■一般入試の志願者数推移
図

■「編入・大学院へ」再挑戦促す

 同様の個別アプローチは今後、インターネットを活用してさらに進化させる方向だ。昨年8月には、受験生を会員とする「Rits Net」を立ち上げ、11月末現在約3000人が登録している。ホームページでは、その場で採点結果が通知される過去問チャレンジや、1日以内に回答がもらえるQ&Aのコーナーなど、インターネットの即時性と双方向性を活用したサービスを提供。個人の入試スケジュールを書き込めるほか、学園祭など入試以外の情報もメールマガジンで発信して大学への親近感を深めてもらう。
 ネット上での会員化は、立命館アジア太平洋大学(APU)が先行した。大学開設準備中の3年前に「APUメイト」を立ち上げ、在学生が質問に答えるコーナーなど、受験生の目線に合わせた情報発信をしている。APUでは来年から、このサイトをAO入試にも活用する予定だ。英検や簿記検定など会員の資格情報に着目、一人ひとりの特技と個性に対応したAOへのエントリーを促し、担当教員から助言・指導するなどコミュニケーションを重ねる。
 APUでの手応えをみながら、Rits Netの方もサービスの充実を図るという。会員を1万人に増やすことが当面の目標。02年度入試からは理工学部情報工学科でネット出願をスタートさせ、将来的には、ネット上での合格発表も検討する。「そこから、AO合格者についてはネット上での入学前教育に結びつけられる。一般入試でも合格者一人ひとりをメッセージで励ますなど、入学手続きに結びつけるためのフォローが考えられます」と片田課長補佐。
 一方、ネット上での不合格者への励ましとフォローも考えている。同大学では数年前、不合格通知に「捲土重来」という草書体のメッセージを添えたことがある。こうした励ましも、メールによる双方向のやりとりで関係を築いた上でこそ伝わるのでは、との声もあるようだ。
 次年度の再出願を期待するこの試みには、さらに先がある。「同じく浪人を経ての秋季入学、他大学入学後の編入学、大学院への進学など節目ごとにメールを発信して立命館を思い出してもらい、出願を促す構想もあります」と小畑部長。「DM用のリストもRits Netも、数ある大学の中から立命館に興味を持ってくれ、資料請求したりホームページをのぞくところから始まる。その一人ひとりをとことん大事にして入学者として迎えたいのです」
 そのためのポリシーは「去年とは違う新しいことをやる」。そんな立命館大学の02年度入試のポイントは、(1)成績優秀者対象の学費半額免除制度を理工学部で7割免除とし、国公立大学より安くする(2)理工学部情報学科の定員を倍増(3)4教科型と3教科記述論述型の入試方式を導入――となっている。少科目化に流れついた入試改革をリードしてきた同大学が、多科目入試に舵を切る来年度は、これまで以上に注目を集めそうだ。

■Rits Netの会員用メニュー
図


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