Between 2002.5 特集　大学職員のキャリアアップ
Case 1 明治学院大学 コンピテンシーフレームに沿った多面評価を導入し、職員の意識向上に着手 　明治学院大学では、1997年度から課長（相当）職以上にある管理職に対し、2年目以上の全職員がその経営管理能力や指導力を匿名で評価する制度を実施。その結果は人事異動にも反映されている。評価項目は毎回改良が続けられており、同大学独自の価値観の形成を担う職員の育成や、事務組織の改革に寄与している。
■積み上げ式改革の反省に立ち、トップダウンによる改革を断行 　明治学院大学では、少子化などの経営環境の変化に対応するため、1994年から本格的な人事諸制度改革を開始した。まず、経営コンサルタントと共同で業務分析を行い、96年にその結果を提言としてまとめた。提言には経営体制の強化や業務のスリム化などに加え、サービス業務から職員を撤退させて、職員数を半数に抑えることなども盛り込まれていた。 　提言がそのまま実行されたわけではない。櫛田繁輝人事課長は、「学生のニーズを吸い上げるには、窓口業務は不可欠。窓口にこそ優秀な職員を配置すべきです」と、教育事業におけるサービス業務の重要性を強調する。ただし経営コンサルタントの視点を生かし、職員数の採用縮小は実施。当初206人いた職員を現在192人まで削減し、最終的には160人程度まで絞り込みたいという。 　この提言後、人事課に「特命事項担当（兼務）」を設置して改革に取り組むが、実施上、必ずしも順調ではなかった。直面した問題を櫛田課長は三つあげる。 　一つは、外部依存型の改革の限界だ。一般的に経営コンサルタントは、営利団体である企業を顧客としており、その分析ノウハウが教育という特殊なサービスを提供する大学にそのまま生かせるとは限らない。 　二つ目はプロジェクトチーム型の改革でよくみられる、最終的な責任の所在がはっきりしないという問題である。 　三つ目は、ルーティンワーク兼務型の改革の問題。各部署の中に改革の担当者をおき、そのセクションの中で改革を進める方法だが、日常業務に埋もれてしまうことも多く、各部署のピラミッド構造に阻まれて成功する率は低い。 　こうした試行錯誤を経た後、2000年に「総務部長付改革担当」を新設し、ここを担当部署として総合的な構造改革に取り組むことになった。責任者を務めた櫛田課長は改革案をすぐに理事長や学院長、学長などの経営トップ陣に提示、トップダウンによって一気に改革を進める手法に出た。これまでの積み上げ方式が何度もくずれてきた経験があるからだ。「改革にはスピードが必要です。今回は時間がないため、どうしてもトップとの意思疎通を緊密にする必要があったのです」（櫛田課長）。その結果、法人事務局長の常務理事就任や、教職員を含めた給与体系の抜本的見直し、定年制度の改正などの大きな改革が成功あるいは実現に向けて動き出している。 ■全職員に提出を義務づけた「多面評価」制度を導入 　制度面でのハード改革と並行して、職員の意識向上というソフト面での改革にも乗り出している。その最も端的な例が、管理職および管理職候補者の「多面評価」制度で、97年度から2年ごとに実施し、すでに3回目を数える。 　被評価者は、主事および技師以上の身分または課長職以上の職位にある大学専任職員で、評価は勤続1年以上の全大学専任職員が行う。被評価者は自分の上位者、同位者、下位者のそれぞれから“多面的な”評価を受けることになる。 　評価対象は、評価対象期間の2年間に、（1）同じ部署で勤務した人（2）日常の業務または会議や入試など部署横断的業務などで複数回関わった人で、一人で何人を評価してもいい。被評価者は同じ形式で自分自身も評価をしなくてはならないことになっている。 　評価自体は義務ではないが、評価しない、あるいはできない理由を明記して白紙で提出することも含めて、多面評価シートの提出は全員に義務づけられている。そのため全職員の95％以上が、一人平均10人程度を評価している。ちなみに櫛田課長は50人くらいから評価を受けるという。 　多面評価のメリットは、いろいろな立場の職員の意見を取り入れることができる点にある。「上位者の評価があまりパッとしなくても、同位者や下位者からは評価されているケースなどは、上司の見ていないところで良い仕事をしているんだということがわかります」（櫛田課長）。被評価者に対しては、全体の平均点と自己評価の結果が返されるため、自分自身に対する意識のズレも確認できる。 　一方、デメリットとして、仕事を発展させず部署の中だけで仲良くまとまろうとする上司の評価が高くなる可能性も指摘できる。 ■多面評価システムの評価画面 ■評価項目を厳選し完全加点主義への移行も 　多面評価の評価項目は、当初は企業ベースのものを参考にしたため、「書類の作成は早いか？」などの技術的な設問も含めて30項目ほどあった。しかし、同大学の管理職として本当に必要な事柄は何かというポイントから項目を削減し、第3回では10項目まで絞り込んだ。 　この“本当に必要な事柄”を策定するのに用いられたのが、同大学独自の「職員コンピテンシーフレーム」だ［表1］。同大学の理念を実現するための実務や資格をはっきりさせ、教育事業に不可欠な人間対応力や、受験生の動向を左右するイメージなども加えてある。このコンピテンシーフレームに基づいて、（1）経営管理能力（2）指導・統率力（3）責任性（4）規範性（5）専門性（6）交渉・調整力（7）判断・決断力（8）対話・対応力（9）企画力（10）積極性の10項目を評価項目とした。評価基準として、最高点の場合以外に最低点の場合も例示して評価させる方法をとっている［表2］。 　多面評価の今後の課題について櫛田課長は、「本学の職員として必要な資質とは何かを、さらに追求した設問や評価方法へと改善していきたい」と言う。具体的には、コンピテンシーフレームをさらに設問に反映させることや、あら探し的な要素を排した「完全加点主義」評価にすることなどが検討されている。 　評価制度本来の目的は、評価そのものではなく、あくまでも職員の能力や意識向上にある。明治学院大学がその個性を発揮するためには、その個性を体現する職員が必要であり、多面評価もそうした目的に沿ったものにならなくてはならない。 　現状では大学職員の評価として何が正しいのかという軸は形成されていないため、同大学でも多面評価を実験段階と捉えている。しかし、「その実験を諦めずに繰り返していくことしかない」（櫛田課長）という強い姿勢で取り組んでおり、今後の大学職員のあり方を考える上で、注目すべき試みだといえる。 ［表1］明治学院大学の職員コンピテンシーフレームの構成要素（例） ［表2］評価項目説明表（抜粋） ＞トップへもどる ＞大学・短大トップへもどる ＞バックナンバー
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