Between 2002.6
特集 変化する高校にどう対応するか


 高校では2002年度から完全週5日制が導入され、03年度からは新課程が実施される。意識や学力面で生徒の多様化が進む中、高校としてのスクール・アイデンティティーをより明確にする必要性に迫られている。一方、大学も自らのアドミッション・ポリシーに合った高校との連携をさらに深めることが求められる。変化する高校に大学はどう対応していくべきか。その方策を探る。

Part 1 高校・高校生の変化を探る

学習に関する高校生の意識と行動の変化
―「学習基本調査」の結果を手がかりとして


ベネッセ教育研究所研究員 木村治生


学習時間が減る一方で「いい大学」志向は変わらず


■学力と意識の関連性も分析

 近年、学力低下論争や学習意欲の減退に関する議論がさかんである。しかし、わが国において子どもたちの「学習ばなれ」が社会問題になることは、大学=レジャーランド論など大学生の問題を別とすればこれまでほとんどなかったといっていいだろう。むしろ、これまでは詰め込み教育や受験競争など「勉強のしすぎ」の方が日本の教育の問題であるという論調が強かった。たとえば、1996年に中央教育審議会が文部省(当時)に答申した「21世紀を展望した我が国の教育の在り方について」の中でも、過度の受験競争や知識を詰め込む学習が「生きる力」の成長を阻んでおり、子どもたちに「ゆとり」が必要だと主張されている。
 こうした論調は、90年代の教育改革を支える理論として機能してきた。90年ごろのおもな教育政策を概観すると、「新学力観」を提唱した学習指導要録の改訂(91年)、「生活科」の実施、学校週5日制の開始、業者テスト利用の自粛指導(92年)などがあるが、これらは受験競争や詰め込み教育に対する反省から行われたといえる。今の高校生は、こうした改革が行われた後に小・中学生時代を送っており、知識だけでなく関心・意欲・態度を重視する実践や評価を受けてきている。さらには少子化という環境変化もあり、以前と比べて相対的に受験圧力も減少していると考えることができる。
 では、こうした一連の動向は高校生にどのような影響を与えているのであろうか。ここでは、90年からベネッセ教育研究所で実施している「学習基本調査」(研究代表・耳塚寛明)の結果をまとめた『第3回学習基本調査報告書・高校生版』を手がかりにして、学習に関する意識や行動の変化を探っていきたい。また、今回の01年調査では、はじめて「進研模試」の結果とクロスさせ、学力と意識・行動の関連性を分析した。このデータを合わせて紹介することで、大学入試や大学教育に与える影響なども検討していきたい。



■調査の概要

 最初に、調査概要を確認しておこう。「学習基本調査」は、小学5年生、中学2年生、高校2年生に対して、学習に関する意識や行動について聞いている。第1回(90年)、第2回(96年)、第3回(01年)と、同じ質問項目でほぼ同じ学校に協力をいただいており、時系列の変化を正確にとらえることができるのが大きな特徴である。
 高校生は、全国4地域(東京都内、および東北、四国、九州地方の都市部と郡部)からサンプリングし、01年調査の対象は3808人である。このうち、「進研模試」も受験している生徒は3106人であった。調査協力校はすべて公立の普通科で、学力ランクが高めの学校が多い。ちなみに、希望する進学段階をみると、「高校まで」3.8%、「専門学校・各種学校まで」10.5%、「短大まで」2.8%、「4年制大学まで」69.9%、「大学院まで」8.5%である。調査結果をみる際には、約8割が4年制大学や大学院への進学を希望する層を対象としていることに留意する必要がある。



■学校外の学習時間が大幅減

 それでは、約10年で高校生の学習に関する意識や行動がどう変わってきたのか、特徴的な点をいくつかみていこう。
 まず、顕著なのは学校外での学習時間の減少である。図表1は、学習塾や予備校などでの学習も含めた平日の家庭学習時間を示しているが、「ほとんどしない」「およそ30分」と回答した生徒を90年と01年で比較すると、26.0%→37.1%と10ポイント以上も増えた。これに対して、2時間以上勉強すると答えた生徒は、43.9%→27.5%と大幅に減っている。学習時間の平均(概算)をとると、92分→71分となっていて、この10年間で21分減少したことになる。
 さらに、学習塾や予備校を除く家庭での学習日数(週あたり)を聞いたところ、「家ではほとんど勉強しない」と答えた高校生が17.3%→23.1%に増加しているのに対して、「ほとんど毎日する」は28.2%→19.5%と約1割減少している。大学進学希望者の多い普通科の高校生を対象にしているにもかかわらず、4人に1人は家庭で学習しなくなっている。高校生の「学習ばなれ」は進行しているといえよう。


図表1 高校生の平日の家庭学習時間

図表1



■進学意識と実態が乖離

 次に、意識面での変化はどうであろうか。図表2は、学力観や成績観をたずねた結果である。これをみると、数値は全般的に横ばいの傾向を示す項目が多く、この10年で大きく変化していないことがわかる。すなわち、半数以上の生徒が「できるだけいい大学に入れるよう、成績を上げたい」と考えていて、「どこかの大学・短大に入れる学力があればいい」とか「学校生活が楽しければ、成績にはこだわらない」という回答は、4人に1人の割合にとどまっている。「いい大学へ」という志向は、高校生の意識をみる限り弱まっていないようである。
 希望する進学段階(最終学歴)についても、90年と01年を比較すると、「4年制大学」+「大学院まで」が81.5%→78.4%の微減となっている。少子化の影響で大学に入りやすくなっているにもかかわらず希望率が増えていないことや、短大の希望が減って専門学校・各種学校にシフトしていることなどから、傾向としては学歴志向の弱まりを感じるところもある。しかし、普通科に在学する生徒の多くが大学以上の進学を希望していることに変わりない。
 こうした結果から浮かび上がってくるのは、意識と実態の乖離である。つまり、意識の上では大学以上の進学を希望し、それもできるだけいい大学に行きたいと考えているにもかかわらず、全体として学習量は減少しているのである。90年代になって、これまでずっと教育の問題として指摘されてきた「勉強のしすぎ」はやや解消されたが、その一方で、進学に対する意識は従来のままで根強く存在すると考えてよいだろう。ただし、受験が動機づけとして機能しているのは高校生までであり、小・中学生では学歴志向が弱まっている。(参考:木村治生「子どもたちの学習意欲の実態」『指導と評価』2002年5月号、図書文化)


図表2 高校生の学力観・成績観

図表2



■学力階層で学習意欲に格差

 さて、ここで考慮しなければならないのが、格差の問題である。学習量は学力階層によって異なり、上位層と下位層では大きな隔たりがある。また、学習意欲や学習方法なども大きく違う。01年調査では、「進研模試」(国語・数学・英語の3教科総合)の結果を4段階に分け、学力階層別の分析を行った。この結果をもとに学力と意識・行動の関連を検討しよう。
 図表3は、平日の家庭学習時間を学力階層別にみたものである。勉強すれば学力が上がり、しなければ下がるというのは当然の帰結である。とはいえ、学力階層による格差は、高校生の場合、小・中学生に比べて格段に大きいことが注目される。「ほとんどしない」+「およそ30分」と回答する高校生は、学力上位層(偏差値60以上)では16.2%だが、学力下位層(偏差値40未満)では67.3%と上位層の4倍以上に上っている。これを小学生でみると25.9%と52.0%でおよそ2倍、中学生では36.7%と42.8%でわずか数ポイントの開きしかない。高校生は勉強する層としない層がはっきりと分かれていて、下位層は家庭で学習する習慣がほとんど身についていないといっていいだろう。
 学習内容に対する関心や意欲も、学力階層によって大きく異なる。図表4は、それぞれの教科への関心や意欲について学力階層別に示したものである。例えば、「数学の考え方や解き方をすばらしいとか不思議だなと感じる」ことがある生徒(「よくある」+「時々ある」の割合)は、数学の学力上位層では7割を超えるが、下位層では3割程度である。同様に、「国語の教科書を読んでいて登場人物や内容に興味がわいてくる」生徒は、国語の学力上位層では7割を超えるが、下位層では5割に満たない。
 関心や意欲が先か、高い学力が先か、因果関係は明確ではないが、学力上位層の学習プロセスには、関心や意欲が高いがゆえに学習に十分な時間をかけ、しっかり学ぶためまた新たな関心や意欲がわくという好循環が生じていると考えられる。これに対して、学力下位層は、勉強しないために学習内容に関心が持てず、ますます勉強しなくなるという悪循環に陥っているのであろう。この結果からは、教科内容そのものの中に学習の面白さを見出せて意欲を高めるようなサポートが、とりわけ学力下位層に対して必要であることがわかる。


図表3 高校生の平日の家庭学習時間(学力階層別)

図表3


図表4 学習への関心や意欲(学力階層別) 「よくある」+「時々ある」の割合

図表4



■学習方法の指導の必要性

 ここまで学力が高い生徒と低い生徒で、学習時間や学習に対する関心、意欲に大きな違いがあることが確認できたが、学習方法について聞くと、上位層は成績を伸ばすために有効な手段をとっていることも分かる。
 例えば、授業の受け方について示した図表5では、「黒板に書かれたことをきちんとノートに書く」や「テストで間違えるとくやしいと思う」のは、学力の高低を問わず8割以上の生徒がある(「よくある」+「時々ある」)と回答している。しかし、さらに一歩踏み込んで、「黒板に書かれていなくても、先生の話で大切なことはノートに書く」や「テストで間違えた問題をやり直す」といった行動は、学力階層によって大きく差が開く結果となっている。結局、誰もがやることを同様にするだけではだめで、より積極的に授業を受けるかどうかが学力を分けるカギになっているようである。
 さらに、学習方法のタイプについてたずねた質問では、学力上位層に「できるだけ考えようとする」タイプが多いのに対して、下位層は「できるだけ暗記しようとする」タイプが多いという結果も出ている。こうしたデータは、学習内容だけでなく、それをどう学ぶかについても、学力下位の生徒たちに対して指導する必要があることを裏づける。


図表5 授業の受け方(学力階層別)

図表5



■大学への影響

 今まで述べてきたことは、学力が高い生徒が十分な学習時間をとり、学習内容に興味や関心を持ち、より積極的に勉強しているという常識的な結果である。逆に、学力の低い生徒は、家庭でほとんど学習せず、意欲も持てず、学習方法も身についていない。しかしながら、そうした学力下位層も、5割を超える生徒が大学進学を希望していることに留意すべきである(図表6)。
 希望する進学段階は大きく変化していないにもかかわらず、学習ばなれが進んでいる実態を考えると、きちんとした学習習慣も方法も身につけておらず意欲も低い生徒が大学に入ってくる可能性が高くなる。高校でそのような生徒をサポートする必要はもちろんのことだが、大学でもリメディアル教育の重要性がいっそう高まると考えられる。
 また、学力下位層の生徒は、一般入試よりも推薦入試やAO入試を希望する傾向がある(図表7)。受験圧力が弱まっている今日、大学側としては、学習に対する構えを備えた生徒であるかどうか見極める選抜方法やシステムを確立することが必要になるといえよう。


図表6 希望する進学段階(学力階層別)

図表6


図表7 希望する入試方法(学力階層別)

図表7


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