Between 2002.6 特集　変化する高校にどう対応するか
【視点】 新課程でこう変わる （株）進研アド　大学改革支援室長　遠山　智一
■募集戦略・戦術の再構築が求められている大学入試 　大学入試がまた激変期に突入しようとしている。高卒人口が再度の減少期に入るのをはじめとして、小中高校の完全週5日制や新学習指導要領（新課程）への移行、国立大学の統合・再編と独立行政法人化の動き、さらに大学入試センター試験の内容変更や国立大学の5教科7科目利用……が今後数年の間に一挙に押し寄せる。 　ここ数年、高卒人口の減少が“踊り場”状態だったことから、学生募集面でホッと一息ついた大学も少なくはなかったと思うが、再度の荒波を前に、募集戦略・戦術の早急な再構築など新たな対応が求められようとしている。特に高校や受験生の激しい変化が予測されるが、多くの大学は、「大きな変化は2006年度の新課程入試の時で、まだ先のこと」とみている節が強い。しかし、高校・受験生の変化は新課程だけではないし、変化の内容も非常に大きく、かつ多様である。そこで高校・受験生の変化を中心に、大学として、どんな点に、どんな視点で注意を払う必要があるのかについて触れてみたい。 ■入試環境の変化 ■完全週5日制の影響で懸念される学力低下 　今春から小中高校で完全週5日制が導入された。隔週5日制から完全5日制に変わったことで、1年間に約60時間も授業時間が少なくなる。03年度入試の受験生は高校3年の1年分・約60時間授業時間が少なくなった者たちだが、04年度では高校2〜3年の2年間が完全5日制だった受験生になり、次は高校3年間分というように、当分の間、今春の入学者に比べ、高校までの授業時間数が毎年約60時間ずつ少なかった受験生になっていく。当然、学習量の減少に伴う学力低下が懸念される。 　高校生の家庭学習時間は年々減少傾向にあり、高校1年では、平日の家庭学習時間が30分以下という生徒が半数以上（ベネッセコーポレーションによる調査）になっている。高校では「完全週5日制でこの傾向に拍車がかかり、学習内容の定着がますます難しくなるのではないか」という声も強い。 ■入学時点の学生対応が重要 　学力低下とともに、目的意識の希薄化や意欲の低下も懸念されている。大学入試センターが国立大学の学部長を対象に行ったアンケート結果でも、学力低下とともに、意欲・関心の低下を指摘する声が過半数を占めた。受験人口が最も多かった92年度入学者をピークに、4年間での卒業率が年々低下し続けていることもこうした変化を裏付けているとみていいだろう。 　週5日制やこれから述べる新課程に意識変化が加わり、大学入学者の進学目的、大学生活に対する意欲、基礎学力などはますます多様化する。そうした中で、大学として （1）入試方法、試験科目、問題内容など選抜の在り方を見直すこと （2）入学時の学生の基礎学力を的確に把握し、不足する学力を補充する仕組みを作ること （3）大学選択時の関心、入試時の意欲を持続させるような動機づけを継続的に行うこと （4）ガイダンス教育を見直し、大学生活に必要な学習方法や心構えなどをきちんと教えること （5）多様な学習歴、進学目的の学生の期待に応えるきめ細かな対応ができるようなカリキュラム編成や学生支援体制作りを行うこと （6）学生を引きつける授業方法やコミュニケーションの取り方などを一層工夫すること など、特に入学時点を中心とした学生対応の仕方が非常に重要になってきている。 ■意欲・関心の変化 ※大学入試センターが98年に行った国立大学の学部長アンケート。94大学361学部回答。 ■早急に求められる新課程対策 　新課程への移行で大学として特に留意しなければならないのは、（1）現行の教科科目との違い（2）総合学習の取り組み、の2点である。 新しい学習指導要領の要点（普通科） ・「ゆとり」の中で「特色ある教育」を展開し、自ら学び自ら考える「生きる力」を育成する ・総合的な学習の時間を創設（3ないし6単位） ・「情報」を新設 ・総単位数 　（現）80単位以上→（新）74単位以上 ・外国語、情報を必修とする ・必修は複数科目からの選択必修を基本にする ・必修科目の最低単位数 　（現）38単位→（新）31単位 　授業時間数の減少と学習内容の精選による学力低下を懸念する声が強くなっている。文部科学省では「学習指導要領は最低基準を示すもの」との見解をとっており、高校現場では宿題の増加や補習の実施などで不足を補おうとする動きも強まっている。土曜を完全休日にするのは公立高校の約3割（私立高校では1割）で、補習などの教科指導に当てるという高校が約1割、生徒の自主学習のために教室を開放するのが約2割（ベネッセコーポレーションによる調査）もある。 　また、学校行事の精選や、3学期制を2学期制にしたり、授業時間を50分から45分や55分、65分に変えるなどして総授業時間の確保を図る工夫をしている高校も少なくない。 　教科書検定が済み、教科書選定に向けての動きが進むにつれ、「大学入試はどうなるのか」との関心が高まっている。すでに新課程に対応した大学入試センター試験の試験科目案が発表になった。また、指導要領の改訂のような大きな変化時には個々の大学は2年前に入試概要を発表することになっており、遅くとも04年度中に発表しなければならない。 　新課程は現在の高校の最大の関心事の一つである。ベビーブーム期ならば対応が不十分でも受験生が集まってきたが、「全入時代前夜」（もしかすると全入時代に突入しているかもしれないが……）では、きちんとした対応ができていないと学生確保の命取りになりかねない。 　大学側も、新しい教科書の内容把握、高校での履修状況、他大学の動向などを把握した上で入試内容を決定するためには、早急に学内に新課程対策委員会を設置し、検討を開始すべき時期にきている。 ■大学自ら変化を乗り越えるアプローチを 　新課程では「総合的な学習の時間」が必須になる。一部00年度から先取り実施されていることもあり、どんな取り組みになりそうかが見えてきている。 　普通科では「進路学習」に使う時間が相当な割合になりそうである。進路学習では、最初「自分発見と職業観の育成」、ついで「学問研究（学部学科研究）」、そして「大学研究」というステップを踏みながら、進路イメージを固めさせるというのが一般的である。その結果、大学には （1）低学年時から大学情報を求める動きが強くなる （2）入試の場面より、教育、学生生活、卒業後の進路など、入学後や卒業後に関する情報ニーズが強まる （3）出前講義、大学での体験授業、大学見学など「高大連携」の動きが一層強まる （4）高校内で大学の話題が頻繁に取り上げられ、大学のイメージが高校内で形作られる などの影響が考えられる。 　受験人口が減少する中での学生確保は、併願人気で延べの受験生数を増やすよりも、その大学をよく理解した、入学意欲の高い受験生をいかに増やしていくかが重要になる。そのためには、従来とは違った受験生への情報発信と関係作りが必要になるとともに、大学と高校の連携がより重要になる。 　大学は、高校・受験生の変化が定まるのを待つのではなく、積極的に高校・受験生の声を聞き、変化を乗り越えるためのアプローチをしていくことが望まれる。 ＞トップへもどる ＞大学・短大トップへもどる ＞バックナンバー
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