「入れる大学」から「入るべき大学」へ
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私が現在、奉職している宮城野高校は1995年に開校した単位制高校である。普通科・総合学科・美術科の3科からなり、「生徒一人ひとりが輝く」ことを高校改革の中心テーマとしている。
掲げている進路指導は、「10年後を見据えた進路指導」である。10年後、自分がどんな職業に就き、どんな生活を送りたいのかをイメージして進路を考えさせる。そのため、社会人を招いての進路講演会や職場見学の機会を設けるなどの取り組みも行っている。自分の就きたい職業が見えてくると、その職業に就くためにはどんな知識を身につける必要があるのかがわかり、進むべき大学や学部・学科も自然と決まってくる。「何をやりたいか」を基準に「入れる大学」から「入るべき大学」を選ばせる指導といえる。
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本当に学びたい学問を見つける
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生徒にとって何より大切なのは、「本当に学びたい学問」を見つけることである。それができれば、生徒は、どの大学のどの学部、さらにどの教授のもとでなら自分のやりたい勉強ができるというところまで調べられるようになる。
本校でも、かなり早い時期から学問について生徒がじっくり考えられる機会を用意している。自分の特性を自覚するとともに、将来やりたいことや職業について考えたうえで、自分が興味を持つ学問について、生徒たち自身に研究させる。
例えば、その学問はどんな分野に分かれていてどんな職業につながっているのか、また、どの学問分野でどんな資格が取れるのかなどを調べ、発表する場を設けている。こうした過程を通じ、本当に興味がある学問を見極めたうえで探しあてた大学へのモチベーションは、驚くほど高い。「本当に学びたい学問」を見つけることこそ、本当に行きたい大学を見つける方法と言えよう。
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高大連携のメリットは知的な刺激を受けること
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高大連携における生徒にとってのメリットは、大学教授の話を聞くことで知的な刺激を受けることにある。某大学の理学部教授による出張講義「超伝導とは何か」に参加した生徒が以下のような感想を述べている。「超伝導は温度を下げていくと電気抵抗も減少していくので温度を下げていけばいつかは抵抗もゼロに近づいていき、そしてゼロになると思っていたけれども、実験を見て本当はある程度下がると一気にゼロになるのでびっくりした」
また、生徒が大学に行って参加した某大学の工学部・機械系の講義では、「機械というイメージから生物とは相反するものだと思っていたが、意外にも深いつながりがあることが分かった」といった感想が寄せられた。
本校では春休みに東京方面の芸術系大学見学ツアーも行っているが、そこでも「美術をやっている私にとって作品にじかに接する機会というのは本当に貴重。ちょうど春休みの時期だったのでキャンパスに学生さんがいなくて、作品をほとんど見られなかったのは残念だったが、大学教授のお話を聞けてすごく刺激になった」といった感想を述べている。
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本当に血肉になるのは失敗例
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自己実現のため努力は必要とわかっていても、特定の科目に偏らずに意欲を持って幅広く学習できる生徒は少ない。学年が上がるにしたがって、意欲がないと思われる生徒も増えてくる。しかし、意欲の最大の原動力は達成感である。達成感があればそれに比例して意欲が湧き起こってくる。大事なのは意欲があるかないかではなく達成感を得るために何をするか、なぜそれが必要なのか、そこを納得させてチャレンジさせることである。そのためには当然、生徒をバックアップし、フォローする指導体制が必要になる。意欲のなくなった生徒には意欲が湧いてくるようにし、意欲がある生徒にはなくならないようにするマネジメントが大切である。これまでの指導経験から、継続的アドバイスや励ましがあって意欲は更新され維持されるものだと実感している。
その際、きれいごとでは人を感動させたり、動かしたりすることはできない。「失敗した！」という危機感が飛躍のばねとなる。失敗は成功のもとという諺もある。本当に血肉になるのは失敗例である。「今学んでいることが、将来こういった場面で役に立つ」という到達点を生徒に示すことで意欲をかきたてる指導も重要であるが、逆に「こういったことをやってこないと失敗する」という失敗例を示すことも必要となる。
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生徒や保護者の関心が高い就職情報
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大学からの情報で不足していると感じているのは、「就職の状況と支援体制」「授業内容やゼミの内容」「資格取得の状況や支援体制」「研究実績や研究室の体制」「カリキュラム内容」などである。特に就職に関しては生徒や保護者の関心が高い。職種別情報、女子の状況、Uターン関連、求人情報、就職指導の詳細、出身高校への就職状況報告など生徒の志望が多い大学ほど知りたいという要望も強い。
大学のパンフレットなどにも紹介されてはいるが、どうも綺麗にまとまりすぎているように思う。生徒は飾られた情報でなく、詳細な実態・中身がわかる情報をより多く求めている。とりわけ「カリキュラム内容」「授業内容やゼミの内容」「就職状況」などは美辞麗句が多いように感じる。同じ系統の他大学とどこがどう違うのか特徴を明示して、何が学べるのかもっとわかるようにしていただければと思う。また、教授と研究テーマについても、よく知らない高校生が見て分かる工夫があれば、さらによい。
留学制度や留学への支援体制についての情報も、不足している。大学パンフレットに書いてあったとしても、分かりづらい。そのような大学は学生の留学にあまり熱心ではないということの証拠でもあるだろうが、実際には、留学に興味を示す生徒も多い。
また、コンピュータ教育や語学教育を大学の売りにしている大学もあるが、学んだ結果をどのように成果に結びつけているのか理解しづらい。
大学の教員が高校を訪問する場合、単に入試制度の説明だけではなく、高校側が不足、分かりづらいと感じているこのような事項の説明がぜひ望まれる。
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大学で何を学ぶかという目的意識を持つ生徒を育てたい
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大学との連携を必要とする本校の「学問の世界」「フロンティアタイム（「総合的な学習の時間」の先取りとしてスタートした自己啓発的な進路ガイダンス科目）」「土曜ゼミナール」の取り組みを通して、受け入れ先となる大学との問題を多く抱えていることも分かっている。しかし、フロンティアタイムに参加した本校の生徒からは「やって良かった」「今後は学力をつけたい」という意見が多く出された。特定の教科・科目に偏らない基礎学力を有し、自分の目で見、自分の頭で考え、それを自分の言葉で語る力を育み、大学で何を学ぶか、明確な目的意識を持った生徒を高校側では育てたいと思っている。大学側もそのような生徒を望んでいるはずである。生徒の適性や個性にマッチした進路指導を高大連携で行えば、青少年を学びと努力へと動機付けるシステムの再構築となり、変化に敏感に対応できる能力をさらに高め、生涯学習し続ける人間に成長できる。すべての課題を短期間のうちに改善していくことはかなり難しいが、高校も大学も一つでも多く改善していくことが必要である。今までの真似をして追いつくやり方でいいのか、高校も大学も教員の意識改革が課題である。
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