高校生が大学を選ぶ基準は多様化
|
受験人口の減少など、大学を取り巻く環境が変わる中で、入試広報担当部署が担うべき役割も大きく変わってきている。学力試験を中心とする入試の企画、広報、実施という入り口部分に限定された業務に終始していては、学生募集は困難だ。ユニバーサル・アクセス時代に向け、従来の入試広報業務から大きく踏み出した組織が必要だという考えに立ち、それをここでは「アドミッションズ・オフィス」と呼ぶことをまず確認しておきたい。
では、日本の大学におけるアドミッションズ・オフィスとは今後、どのような役割を担っていくべきなのだろうか。1990年度に慶応義塾大学の湘南藤沢キャンパス（SFC）がAO入試を日本で初めて実施して以降、AO入試を実施・運営する機関そのものをアドミッションズ・オフィスと称するケースが増えた。その後、その他の入試選抜や入試広報業務まで含めて担うケースも出てきたが、それとて従来の入試広報課の業務と大差のないまま、組織の名称だけをアドミッションズ・オフィスと変えた大学も少なくないのではないだろうか。
そこで、アドミッションズ・オフィスの役割を考えるにあたって、その前提として高校生が大学・短大選択時の基準としてどのような項目を重視しているのかについてベネッセ教育研究所が調査した結果を見てみると、最も重視しているのは「学びたいカリキュラムがそろっている」で、57.2％が「とても大事」と答えている。（「モノグラフ・高校生VOL.57」99年発刊より）。次いで「取得できる資格がある（49.3％）」「授業料が安い（41.7％）」「研究施設や設備が充実している（37.4％）」「就職率が高い（35.9％）」となっている。
ここで強調したいのは、「受験科目（25.3％）」や「自分の学力と大学難易度ランキングが合っている（24.7％）」といった選抜方法に関する項目よりも、前述したような大学入学後の付加価値に関する項目の方がはるかに関心が高いということである。
高校生の選択基準が多様化すればするほど、進路指導担当の教員もそれに応えて適切な助言をしたいところだろうが、資料や情報を集めるだけで手一杯というのが実情のようだ。こうした中、アドミッションズ・オフィスの専門職員は、選抜方法のみならず、自大学の教育や就職指導についても精通し、さまざまな観点で強みが語れるようになっておく必要がある。
|
 |
学生の満足度向上とその成果のアピールを
|
また、広報の仕方についても再検討すべきだろう。大学に入学してから得られる付加価値を重視する高校生が増えつつある中で、在学生の満足度を上げながら、その成果を募集活動にも生かしていくような手法が求められている。例えばある大学では、学生に帰省費を支給し、母校の高校に立ち寄って大学生活について報告してもらうという形で、大学のアピールを試みている。学生を広報の手段として活用することはかえって逆効果になるのではとの危惧もあるだろうが、エンロールメントマネジメントをしっかり行っている大学にとっては、大学職員が宣伝するより、はるかに効果的な手法といえる。
また、募集戦略の立案にあたっても、かつてのような選抜方式の在り方だけを考えれば良い時代ではなくなってきている。今後は、最初に接触してきた受験生の好感度を上げて、それをいかに受験に結びつけられるかや、合格者に占める入学者の歩留まりをいかに上げるかといった戦略が求められている。このことは本特集でも龍城正明氏が、「『ふるい落とすための試験』ではなく、志願者に『入学してもらうための方策』を考えるべき」と指摘されている。具体的手法としては、上田千尋氏が紹介されているアメリカの大学の取り組み事例が大いに参考になりそうだ。最近では日本の大学でも、オープンキャンパスに参加した受験生に定期的にメールマガジンを送るなど、積極的な働きかけが広がりつつある。
一方、組織体制については、東京家政大学のように入試広報部門と就職関連部門を一体化することで、教育の中身や出口の情報も理解した職員が高校を回る体制を作る大学も出てきた。
しかし、学生のキャリア支援や就職指導を担いながら募集広報も行う場合、同大学の岩井絹江氏も指摘されているように、入試広報の専門部署というイメージを与えるアドミッションズ・オフィスという名称を名乗ることは、かえってデメリットを生じかねない。
一方で、入試広報の専門部署であっても募集戦略の立案から実行まで責任を持って担えるのであれば、それはまさにあるべきアドミッションズ・オフィスの姿だと言えよう。結局、問われているのはアドミッションズ・オフィスという名称にするかどうかではなく、組織として果たすべき役割なのである。
|
|
合否について教授会に提言できる権限が必要
|
それでは、具体的にどのような役割が担えればよいのであろうか。大学によってかなり事情が違うので一概には言えないが、基本的に以下の5点があげられよう
（1）自ら大学の募集戦略を立案し、教授会の理解を得ながら実行できる。
（2）推薦入試やAO入試などで合否について、専門職員として教授会に提言できる権限を持っている。
（3） しっかりとした高大連携の視点に立って受験生の募集広報ができ、ターゲットとなる高校と深い関係が築ける。
（4）募集戦略に関するプロジェクト等の運営が全学的課題として位置付けられた中で、中心的役割を担っている。
（5）エンロールメントマネジメントの視点を持って、学生のカリキュラムやキャリアアップに関する部門と密接に連携し、受験生に伝えるべき情報を共有化している。
（1）のように募集戦略を実行に導いていくためには、教授会を説得できるような客観性のあるデータを作成し、提示しなければならない。立案した募集戦略のしっかりとした裏付けとするためには、その根拠となる部分がより明確になるよう加工の仕方を工夫することも必要であろう。
また、（2）（3）については、特に高校生の潜在能力を推し量る形の対話型AO入試を実施する場合には、高校と密な関係を築き、信頼のおける高校教員から推薦を得られるような専門職員の養成が必要である。また同時に、職員に合否について相応の権限がなければ、高校との信頼関係を維持することはできない。
そして（4）（5）は、部署ごとの縦割りとなっている職員組織に風穴をあける上でも重要である。最近では、各部署から若手の職員を集め、「進学アドバイザー」として、高校訪問や進学説明会に送り出す体制を敷く大学も増えつつあるが、アドミッションズ・オフィスが彼らの研修も含めて中心的な役割を担うことになる。
このように考えてくると、組織として活性化できるかどうかは個々の専門職員のスキルアップが図れるか否かにかかっていると言えそうだ。個々のスキルとは、大きくは
（1）専門性・先見性――自大学を取り巻く入試環境がどう変化し、受験生やその保護者が何を求めているのかが理解できる。
（2）営業力・人間力――対高校教員であっても対学内（特に対教員）であっても、「彼の頼みなら断れない」「高校とのパイプは誰よりも持っている」といった周囲の認識がある。
（3）戦略立案能力――短期でも中長期でも自大学の募集戦略がきちんと描けていて、着実に布石が打てる。
の3点にまとまるのではないだろうか。
ではこのようなスキルアップを図りながら、実質的なアドミッションズ・オフィスとしての機能を発揮するためにはどのような条件が必要であろうか。龍城氏は「専門の教員と専任の職員からなり、各大学をアピールできる方策を常に画策し、大学への入り口業務を一手に引き受ける組織作りが必要」と指摘されている。同様に荒井克弘氏も、「職員の方も一緒になって、それぞれの大学の性格、付加価値などのデザインを作り上げて、本学はこういう学生を対象にしているから、このような教育努力をしてほしいといった提言を相互にしていけばいい」と述べている。さらに野沢和範氏は「教授会の厚い壁を切り崩すことと、専門職員の選別登用と育成が要件」と言及している。
これらの指摘に共通するのは、「専門職員と教員とのパートナーシップの確立」であろう。つまり、これまでの教授会主導型の入試選抜方式を改め、能力のある専門職員を育て、彼らにふさわしい権限委譲を図ることで、業務の効率化や組織の活性化につなげることが重要な課題となってくる。
今後は入試広報業務についても、ルーチン・ワーク的な業務はどんどんアウトソーシングされるようになるだろう。そのときに問われるのは、職員一人ひとりのスキルに裏打ちされたプロの専門家集団となれるかどうかであり、期待は尽きない。
|
＞トップへもどる
＞大学・短大トップへもどる
＞バックナンバー |
