Between 2002.9
特集 学生へのキャリア支援 Part 1
〜低学年からの取り組み


 自らのキャリアに対する学生の志向が多様化し、大学を卒業した者の5人に1人がフリーターになると言われる現在、大学は、就職を中心とする従来の出口指導だけでは対応できなくなっている。学生の関心を高め、企業の求めるコンピテンシーを醸成していくために、キャリア支援のしくみや体制をどのように構築していけばよいのか。この特集では大学側の視点から学生へのキャリア支援の在り方を取り上げ、探っていく。企業側の視点は次号で特集する予定だ。

【インタビュー】 現代学生気質

〜「就社意識は強いが就職活動はできない」


菊地 信一現代職業工房主宰
菊地 信一

 1977年 早稲田大学商学部卒業後、(株)文化放送ブレーン入社、同採用事業本部所属。以後営業課、企画調査室、人事工学研究所次長を経て1990年に「現代職業工房」を主宰。人材採用をテーマに大学・学生・企業に対するコンサルティングを行っている。

 
 菊地氏は、キャリアアドバイザーとして年間5万人の学生たちと接し、そのうち約1000人とは、Eメールなどで直接のやりとりをしている。その経験から、就職観や実際の活動がどう変わったのか、その中の問題点に大学はどう対応したらよいかを話してもらった。



「18歳の春の偏差値」で自己を規定する傾向

 大学受験をする18歳の春の偏差値で自己を規定し、「私はこうなんだ」と決めつけてしまう学生が増えています。そのため、知名度があり、偏差値が高い大学に入学した学生は、「これでもう私は人生の成功者だ」と一安心してしまい、半ば勝利者のような意識になってしまいます。逆に、偏差値の低い大学に入った学生たちは「もうこういう人生しかない」と、あきらめてしまう。
 しかし、「有名大学=将来は安泰」と思うのは、偏差値の高い大学に入った側の勘違いでしかないし、偏差値が低い大学に入ってもそれで人生終わりというわけではありません。一部の学閥がある企業を除くと、社会に出て10年もすれば、どの大学出身かは話題にならなくなるのが一般的です。
 「自己規定」は、就職戦線の早期化が始まった頃からの傾向です。就職協定が廃止されたのは1997年で、それから企業はどんどん採用を早めていきました。
 就職活動では、まずエントリーシートを書きますが、企業は必ず「大学生活の中で何をやってきたか」と問います。ところが、これはまだ入学して2年半ほどの学生に、大学生活を総括しなさい、と要求することになります。学生にしてみれば、入学後に変わった自分や積み上げた自分を評価してもらうというよりも、入学時の能力だけが評価されることになってしまいます。



「あこがれ意識」は強いが現実感は希薄

 学生たちの多くは、いわゆる有名企業、人気企業に対して非常にあこがれ意識を持っています。例えばアナウンサーは特に女子学生に大人気ですが、イメージばかりが先行して、採用に至るまでにいろいろな段階があるということは考えていません。特に、偏差値の高い大学の学生に、この傾向が強い。せっかく偏差値の高い大学に入ったのだから、アナウンサーぐらいにならなくては、という意識があるわけです。
 しかし、現実感が希薄なため、就職活動を行って初めて採用人数の少なさなどを知り、「こんなに高い山だったのか」と認識する。アナウンサーには、地道な努力が必要な事など、入社後の現実の姿や仕事の中身は見えていません。
 女子学生に限らず、男子学生についても同様です。近年、採用が減ったと言われながら、実は減っていない職種があります。営業、販売関連の職種です。大半の日本企業は、まず営業や販売に配属して、何度かのジョブ・ローテーションを繰り返すという人事を行います。
 ところが学生たちは、「営業や販売の仕事はできない」と初めから決めつけ、「広報」「宣伝」「企画」をやりたいと言うのです。このような現象を私は「就社意識は強いが、就職活動はしていない」と言っています。イメージだけで、本当に何をしたいかがわかっていないのです。仕事に対する現実感が希薄なのは、新卒者の早期離職率にも表れています (図表1)。


図表1



同世代で群れるのは得意だが他者認識度は低い

 学生たちと接していると、面接が苦手だという人が多い。理由は、「同世代の友達としか話をしたことがないから」と言います。
 ところが、面接はだいたい3段階あって、最初の面接担当者は近い世代の20代後半、次に30、40代と上がり、最後の役員面接は40、50代ということになります。そうすると、年齢の上の人たちとの会話を全然していないことが面接ではっきりわかります。
 サークル活動は年上の人たちと話す一つの機会ですが、あまり属していない。アルバイトでも、何か怒られると、「怒る側が悪い」と、他者否定してしまう。同世代や親しい友達と、「あの上司は気に食わない」「あの人の言っていることはさっぱりわからない」とお互いを慰め合うのです。
 アルバイトなら、年上の人と話さなくて済む仕事を選ぶなど、サークル活動でも何においても、年上の人と出会うチャンスを逃しています。だから、私は年上の人との会話を勧めます。そうすれば、自分から年上の人に話題を提供できるようになるからです。
 同世代の結束も固いものがあります。例えば、教授が学生を否定すると、学生たちは結束して抗議行動に出ます。ある意味での正義感はあるし、物事の善悪もわかっていて、自分たちを単純に規定するような大人は嫌いだという意識はあります。しかし、自己防衛本能には長けているものの、一度叩かれると、ボロボロに傷ついてしまうのです。
 他者認識ができないのは、自己表現力が低下していることにも原因があります。
 就職活動では、自分を相手に理解してもらうための努力が大切なのに、学生は、理解しない相手が悪いと考えます。理解してもらうためには、言葉で相手に伝えることも必要だし、書いて相手に伝えることも必要です。ところが、この自己表現力が著しく低下しているのです。



自分は傷つかず相手にはよく見られたい

 インターネットを通じて学生からの個別の相談を受けていると、面接に関する質問が非常に多いと感じます。
 例えば、「こう答えたが、相手がどう思ったかわからない」「私は良いと思って話をしたけれど、相手は理解してくれない」「本音を言ったつもりが、相手は関心を示してくれない」などです。
 その後で、ほとんどの学生は「どうしたら自分に関心を持ってもらえるでしょうか。そのための正しい答えを教えてください」と聞いてきます。非常に驚きました。学生たちは傷ついたことがなく、傷つくのが嫌なのです。面接で「どうもあなたの言っていることは違うのではないか」などと言われると、すべてを否定されたと感じ、傷ついてしまいます。
 自分は傷つかず、できるだけ相手によく見られるようにして、面接を突破していきたい。これが学生の本音です。しかし、企業側は、面接は会社にとって本当に必要な人間かどうかを見極めるための場ですから、時には意地悪な質問をします。何より面接は会話であり、正しい答えはありません。話がどういう方向に進んでいくかは、面接官にもわかりません。それでも、学生たちは「台本を教えてほしい」「質問に対する模範回答は何ですか」と質問してきます。
 また、学生たちは「○○(企業名)が“圧迫面接”をする」と言います。圧迫面接には2種類あります。一つはセクハラ面接などの本来の意味での圧迫面接で、これは本当に怒っていいものです。しかし、それ以外の圧迫面接は、少し学生を困らせて反応を見たいというような他意のないものです。しかし、それらもすべて含めて“圧迫面接”と、学生たちは受け取ります。他者から否定されるのが非常に辛いからなのでしょう。自分を否定されることはすべて圧迫面接と感じてしまうのです。
 一方で、傷つくことは嫌なのに、「叱られたい」という願望があります。叱られる経験をしていない学生が多いからです。ところが、「叱る」と「怒る」を同じように考えている教員が非常に多いのが現実です。本来、叱るというのは、親身にその人の立場になって話すことです。その意味で、「適切に叱る」のは非常に難しいことだといえます。



「手抜き」をして「お手軽」な就職活動に走る

 就職情報誌が全盛の頃の学生は、手書きで100枚、200枚と資料請求ハガキを企業に出していました。ところが今はインターネットを通じて資料請求ができるので、その作業は必要ありません。ワンタッチで済み、これは「お手軽」どころではありません。何でもネットで簡単にできるので、会社説明会も軽い気持ちで申し込んでしまいます。その結果、02年の企業例でみると、会社説明会の出席率は5割程度というところもあります。残りの大半は無断欠席です。
 なぜこんなことが起きるのかというと、あまりに簡単に申し込めるので、申し込んだことさえ忘れているからです。そこで、理由を言って欠席する旨を一報すれば、企業はその学生を評価するかもしれない、そんな企業側の考えもわかっていません。
 お手軽さには続きがあります。送られてきた会社案内も、きちんと「読む」のではなく、ネット世代の今の学生は、「見て」終わってしまいます。企業紹介もネットで見ればいいわけで、現実感を伴わない「バーチャル就職活動」が行われているのです。
 しかし、お手軽なのは企業も同じです。大学2年半分の総括を見て、偏差値の高い大学の学生なら無難だと考えて採用を行っている企業も依然として多いのです。



驚くほどの国語力低下と時事問題への無関心

 今はメールでも何でも、同音異義語や同訓異字語など、必要な変換は機械がやってくれます。だから、漢字の変換ミスが非常に多い。
 国語力低下の問題は、仕事の中身とは違い、入社後の教育でフォローできるものではありません。また、偏差値でも判断できません。そこで、企業は対策としてエントリーの際に小論文を提出させます。多いところで4000字、少ないところで2000字ぐらいです。通常手書きが基本なので、間違いは一目でわかります。いわゆる一流といわれている大学の学生でも、400字詰めの原稿用紙1枚の中に1、2カ所のミスがあり、5枚の小論文だとすると全体で10カ所近い間違いがあります。
 これは、推敲していないからではありません。推敲してもどこが間違いかわからないのでしょう。例えば、書いた文章を添削して返却する時に間違いを指摘して「あっ」という学生は気づいています。でも、「は?」という顔をする学生が少なくありません。間違っていることがわからないのが一番の問題です。
 「日経新聞のどこを読めば試験に出るのですか」という質問も多い。学生には、志望する業界の関連ニュースが大事なのだということを一から教えています。また、新聞ほど最初に結論の出ているものはなく、新聞を読むトレーニングを続けていると、企業がわかりやすいエントリーシートを書くためにも役立つと教えています。
 最近は、グループディスカッションを面接の一つの手段として行っている企業があります。そこでのテーマは主に時事問題ですが、深い知識が求められるものではありません。ところが学生は時事問題にまったく関心がない。
 例えば円高で得する企業はどんなところだと聞いても、学生は「えっ?」と反応します。経済学部の学生も例外とは限りません。「円高になると輸出産業に影響が出て、採用がなくなる」と教えると、自分たちの就職に関係があるわけですから初めて真剣に考えます。



読む・書くなどのトレーニングがキャリア支援の具体策に

 企業が見ているのは学生の残した結果ではなく、努力の過程です。具体的には、挫折したこと、悩んだこと、苦しんだことをどう乗り越えたのか、その挫折や悩みを人のせいにするのではなく、きちんと受け止め、努力した内容です。
 そのために、入学した時点で偏差値のことを忘れさせる努力がキャリア支援を行う上で、一つのポイントになります。偏差値の高い大学に入った学生はその偏差値にとらわれずにさらに努力を続ける。また低い大学に入ったとしても、自分なりに努力を続けることが大事です。
 偏差値による自己規定を脱し、足りない点に気づけば、あとは書く、見る、話す、聞く、読むトレーニングを行えば良いのです。
 話すことは、特に違う世代との会話に力を入れる。見るトレーニングは、企業訪問で。これは、OB、OG訪問でなくても、ショールームや店舗、窓口に行ってみるだけでもいいのです。もう一つ、学生たちのために、親身になって叱り、アドバイスすることも大事なキャリア支援です。
 学生と接していると、いかに学生が飢えているかを感じます。それは愛情に対してだったり、今後の自分の生き方に対してだったりします。今の大学は、その学生の飢えをしっかりキャッチすることが必要なのです。


トップへもどる
大学・短大トップへもどる
バックナンバー

All Rights reserved. Copyright(C) 2002 Shinken-Ad. Co.,ltd