学生へのキャリア支援の取り組みと課題 Between 2002.9

Between 2002.9
特集　学生へのキャリア支援　Part 1
～低学年からの取り組み

【座談会】

学生へのキャリア支援の取り組みと課題

　学生の目的意識や職業観の低下が企業の採用担当者からも指摘されている。学生の指導にあたる大学のキャリア支援担当者はこうした現状をどうとらえ、支援を行っているのか。四つの大学の職員に話し合ってもらった。

出席者
相模女子大学就職課　長谷川友
立教大学キャリアセンター　平井光世
聖学院大学就職センター所長　岡村紀男
國學院大學就職課主任　城所俊哉
司会『Between』編集長　足立寛

依存度が高く自己判断力に欠ける学生

司会　まず、最近の学生の進路や就職に対する意識についてお話しください。
長谷川　本学には短大もあるのですが、短大生を見ていると、目的意識が希薄な学生が目立ちますね。4年制大学では、1・2年生に対してまだ就職関連の具体的なアプローチを始めていないのですが、おそらく短大生と意識は同じではないかと思います。
岡村　私たちが通常対応するのは3年生で、時期は秋頃ですが、その時点で、何の目的意識も持っていなかったら話になりません。本学では、3年前から3年生の最初に学生を20人程度の小グループに分けて面談を行っています。「今まで何をやってきたか」を問い、何もやっていなかったら「3年の秋までに何かをやりなさい」と。その後、自己PR文などを書かせるのですが、何もやっていない学生は書けない。
長谷川　本学でも企業面接のポイントとなる志望動機と自己PRを学生に書かせていますが、自己PRとなると、筆が止まる学生が多い。自分自身のことを掘り下げて考えるという訓練をしてきていないんですね。
城所　大学受験には偏差値があり、学力ばかりが重視されてきたせいか、就職で自分の個性をどう売るかという時、その方法がわからない学生が増えています。サークルに入る学生も減っていますし、それが就職活動でも、自分から何かをやるという意識の希薄化に繋がっているのだと思います。
長谷川　高校でも生徒が自発的にやる部活動は減っていると聞きますね。
平井　本学は今年度からキャリアセンターに改称し、1・2年生にも力を入れ始めました。4月に新入生向けのキャリアガイダンスを行い、「充実した学生生活の延長線上に就職の成功があるのだから、まず学生生活の目的を持ち、意識的に充実させよう」と話しました。
　また、卒業生の東海林のり子さんに講演を依頼したところ、ご自身の経験から「肩に力を入れず、楽しみながら生きていくのもいい」といったお話をされたのですが、その後の学生のアンケートを見ますと「もっと気楽にやりたいことに挑戦していいんだと気付いた」とか「肩の荷がおりた」という声もけっこうありました。それまでは、学生はあまり問題意識を持っていないのかと思っていたんですが、実は「何かやらなければ」という気持ちを持っているんです。
　一方で何をどうやっていいのかわからず動けない学生もいる。それに気付いたので、こちらからただ「目的意識を」と言うのではなく、目的意識の中身を説明し、「自分でできることをやってみたら」という導き方をしていかなければと思うようになりました。
長谷川　高校生も受験が近づいてくると、受験対策ばかり考えてしまうのでしょうが、決して自分なりの夢や考えを持っていないわけではない。たぶん大学生も同じで、いざ就職の時期が近づいてくると採用試験ばかりに頭がいき、自分が何をやりたいのか考える時間がなくなるんでしょう。
城所　それは、私たちの押しつけが影響しているのかもしれない。1・2年生と話をすると、中には文学部に入学して、将来は犬の訓練士になりたいと言う学生がいる。その学生なりの夢は持っているわけですが、そこでこちらは「一般企業は？」と、最初から枠にはめたガイダンスを行っているのかもしれません。
平井　高校までは自分の将来を具体的に考える時間がなくて、大学で初めてそうした夢に向き合ったりするのかもしれない。
城所　彼らにとってはあくまで夢のレベルなのです。低学年にみられる傾向として、なりたいものはあるのですがそれについて調べていない。自分で判断し、行動するというレベルまでは達していないんですね。
平井　依存度が高い学生が増えていますよね。こちらが丁寧にすればするほど、頼られてしまう。「やり方は教えるけど、やるのはあなたですよ」という支援をしないといけない。それは就職支援でも同じでちょっと会社の情報を例として教えると、「他にもないですか」と自分で動かず何度も聞きに来る学生もいます。
岡村　入学願書を請求する時も親が電話してきたりするんですから（笑）。そういう学生が入学してくるわけです。ガイダンスに出ていれば就職できると思っている学生が増えていますよね。
平井　今の学生に必要なのは、自己判断して自己決定するということです。高校までは偏差値という物差しで評価されてきたのが、大学では何もかも自由で、自分の判断で決定し、やっていかなければいけない。大学卒業後の人生すべてにおいても同様です。長い目で見れば、その次の人生を踏まえて常に自己判断し、決定する力を身に付けさせることが大きな意味でのキャリア支援なのだと思っています。

“コンピテンシー採用”で求められる能力とは？

司会　では、企業が求める学生像についてお聞きします。大量採用していた時代と比べ、採用方針も変わってきているようですが。
岡村　かつては大量に採用して各部署に向く人間をそれぞれの場所に配属していったのですが、今は部署によってこういう人材がほしいと職種を限定して募集しています。会社に向くということでなく、各部署に向く人材でないとなかなか受け入れてもらえない、そういう時代になってきたと思います。ですから、学生は本当に企業が求めているものは何なのかを捉える必要があります。また、私たちも企業側の考えを把握し、いろいろな角度から学生を指導するのですが、やはり力があるにもかかわらず道が開けない学生というのは、企業が求めているところと違うんだろうなという気がしますね。
長谷川　企業側が求める人材要件というのが世の中に一つあるのではなくて、企業ごとに出てきたということなんですよね。
城所　流行の言葉で言えば、コンピテンシー採用ですね。
平井　本学の学生の傾向を見ていると、私たちから見ても「この学生はいい」と思う学生はあらゆる会社から内定をもらっています。つまり、企業が欲しい人材は同じということ。どの会社も求めるコンピテンシーのコアには共通しているものがあるのだと思います。学生生活の実績を踏まえて自信を持って自分の可能性を示せれば、どんな企業でも採用したいと思うのです。苦労する学生は、表現がうまくないこともありますが、やはり学生生活の実績とその裏付けが弱い部分を感じます。
長谷川　自分の考えがあったり、いいものを持っていても、表現力がないと伝わらないということもあると思いますね。
平井　企業のほしい人材要件にはコミュニケーション能力に長けた人というのもありますしね。
城所　それは昔から同じですよね。今の時代だから特にコミュニケーション能力が必要なのかといえば、そうでもない。就職で苦労する学生は、伝えるものがない学生と伝えるスキルがないものの二通りがあると思います。いずれにしても企業が共通してほしい人材というのはありますね。その上で、会社独自のカラーもある。
岡村　本学から定期的に採用していただいている会社があるのですが、「おたくの文化とうちの社風が合ってるんだよ」と言われます。各企業がわが社はこういうコンピテンシーの集団であると、そしてこの部分にこういう人が欲しいという目で見ていると思いますね。
司会　企業が求めるコンピテンシーのコアというのは何でしょう？
平井　やはり自分で考え、行動できる力です。企業はこういう時代だから変革してほしいと言っています。変えるためには、自分から動いて変えていかなければならないわけです。
城所　言ってみればファストフードのアルバイト的なマニュアルどおりの人材はいらないんですね。
平井　問題発見・解決型とよく言われますよね。やはり企業を取り巻く環境が変わってきているので、それに合わせて厳選して採用するという傾向が強くなっているのを感じます。
長谷川　昔の企業は大量採用して、新入社員は仕事をしながら力を付けていけばいいという余裕があったのかもしれないけれど、今は入社したら、「即ダッシュして」という感じですよね。
司会　では採用時に企業は何を見ているのでしょう？　学生は学業よりもアルバイトやサークル活動の経験をアピールすると聞きます。
平井　学生時代に打ち込むものは何でもいいと思うのですが、やはり自発的に動いているかということと、常に問題を解決しながら、自分の目標を達成しているかというところでしょう。
　最近、授業の内容を突っ込んで聞く企業が増えていませんか？　ある企業の面接でも、「自分の勉強の領域でプレゼンテーションしてください」と言われたといいます。ですから、今までは「体育会出身です」というだけで受け入れられていたものが、これからは学問の領域と両立させていることも求められてくると思います。

聖学院大学就職センター所長　岡村紀男氏

ガイダンスに来ない学生にこそきっかけを与える必要がある

司会　そうした変化の中で、大学ではどのようなキャリア支援を行っているのでしょうか。
城所　本学では2年前から課外講座として低学年に向けたプログラムを始めました。これは約50人の学生を対象に、大学時代に取り組む問題を見つけようという自己啓発を目的としたセミナーです。1・2年生から職業観を築いてもらい、3年生から実践していける力を付けていく実際的な取り組みとしたい。ただ、問題なのは受講生が30人しかいないということです。今、取り組むべき課題は、いかに多くの低学年の学生に考えるきっかけを与えるかということにあります。
　もう一つは、教員や教務部の協力を得て、600人規模の教養総合科目の授業を突然休講にし、パフォーマンス度の高い講師による講演を行うんです。就職部主催のガイダンスには、目的意識の高い学生しか集まってきませんから。何も考えていない学生にきっかけを与えるのが私たちの目的で、おおむね好評を得ています。
岡村　本学では卒業生に占める就職者のデータをとっているのですが、昨春、初めて60％を下回ったんです。就職しなくても、司法試験を目指したり大学院に進学する学生が多い大学もありますが、本学はそうでないため危機感を持ちましたね。しかし、選択科目で就職ガイダンスを行っても意識の高い学生しか来ない。そこで、各学科の就職希望者や内定者のデータを教員に見せたところ、このままではいけないということになりました。
　昨年からですが、クラス単位で120人ほどを対象にセメスターの通年科目として必修の授業を始めました。6コマのうち1コマは私が担当し、後は外部講師に依頼しています。しかし、私が講義してもなかなか頭に入らないだろうと思い、4年生を連れてきて、就職活動の感想をはじめ、大学生活でやってきたことがどんなふうに役立っているかなどを話してもらいました。すると、次の授業では学生の意識が変わってきましたね。
長谷川　本学でもそうした方向性に動いていて、来年4月から全学共通科目でキャリア支援の科目を実施する予定です。現在も短大の国文科の「文章表現」という科目では1クラス50人ほどの規模ですが、4年ほど前から夏休みに入る前の授業で「女性と職業」というテーマで私が60分程度の話をしたりしています。
城所　学生数の多い大学で必修科目にするのは難しいことですよね。
平井　本学では全学部共通の選択科目ですが、科目名は「仕事と人生」といって、開講して今年で3年目になります。1年目が1・2年生中心に約600人、今年は池袋キャンパスの授業だけで約480人が履修していますから、受講者は多いほうだと思います。キャリアセンターでも1コマもらっています。授業の提案はキャリアセンターですが、あくまでも正課として行っており、教員とのタイアップで成り立っていますので、教員にコーディネーターをお願いしています。
　就職のためのテクニカルな支援というより進路支援の領域のものなので、この科目をとったからといって就職活動に有利になるわけではない。学生と社会人の生活には溝があるので、普段は意識しない大学生活の先にある世界を授業という形で早めに気付いてもらい、なんらかの意識を築くという職業観育成が狙いです。
長谷川　就職活動支援じゃなくて、まさにキャリア支援なんですよね。
岡村　どの大学でも問題意識の高い層の2割は、放っておいても就職して卒業していくんですよ。問題は意識の低い2～3割の学生をどうするかということでしょう。

学生による自発的なキャリア支援に期待

長谷川　本学が一昨年から始めた就職ゼミというのは、逆に意識の高い層の2割を集めようと始めたものなんです。就職ガイダンスは通常、数百人単位でやりますよね。それだと、学生は話を聞いてはいるものの一般論として受け止めてしまい、自分のこととして捉えなくなる。そこを補う個別相談にも限界があると感じていました。そこで、やはり中間の小集団を対象に行ったほうがいいだろうと。その時に意識の高い2割の学生と低い方の2割、その中間の層と対象を変え時期をずらして行えばいいと考えたわけです。まず先にトップランナーの就職意識をしっかり作れば、後は中間層がけっこう引っ張られます。意識の高い学生を早いうちに育てるというのも有効な手段だと思います。
司会　学生同士のインターアクションには何か仕組みがあるのですか？
長谷川　学校の規模や学科がそう大きくないこともあり、学科内で2割の学生が就職の話をし始めると、やはり周りが影響を受けます。
平井　本学では昨年から就職支援の一環として10人程度でグループワークを行い、学生の顔を見ながら話をする機会を設けています。学生同士も知り合いになり、お互いに良い刺激になっているようです。中でも意識の高い学生が自発的に就職支援にかかわってくれ、今年は学生自らが後輩をサポートしたいという動きもあります。学生とタイアップしながらキャリア支援の一部を進めています。
城所　いいですね。本学でも7年前から相模女子大学と同じように、100人単位の学生を対象に「有力企業就職セミナー」という就職講座を行い自分の行きたい企業が自分にとって有力企業なのだということを伝えています。課題をこなして12月までに完結させた上で合宿を行い、企業の採用担当者と面接させるのですが、それに参加した学生を15人くらい集めて、私たちにはできない学生の立場での就職支援をやってもらおうと思っています。
平井　そうした意識の高い学生は成功のロールモデルなんですよね。私たちが言っても聞かないことを、学生や有名人が言うと、すごく素直に聞く学生が多いので、協力できるところはどんどん協力してもらおうと思っています。
岡村　本学では「絶対就職するための研究会」という名のチューター集団を設け、その年にいい就職活動をした学生、つまり自分が納得できる就職活動をした学生に後輩の指導をしてくれないかと声をかけました。昨年度は15人程度ですが今年は20～30人に増やしたいと思っています。本学でも後輩の指導をしたいという学生が出てきていまして、効果を期待しています。また、指導された学生以上に指導した学生がものすごく伸びるんですよね。
長谷川　これまではクラブ活動で自然に培われていたものなのでしょうが。クラブ活動の衰退でこうした学年を超えた支援というのがなくなってきているんですよね。
城所　「学生が自発的に」っていうところがいいですね。学生のネットワークで面白い学生が集まって、「就職活動っていろいろあるよ」とやってくれればいいと思いますね。
長谷川　半年から1年、海外留学するという学生に対して「戻ってからだと就職活動が大変だから留学先でこういうことはやっておいた方がいい」とアドバイスしても、「そうですね」とその時は聞き流すんですね。4年生の春に戻ってきて「（就職活動が）やはり大変でした」と言うんです。そこでその学生に「じゃあ、その体験を後輩にちょっと話して」と頼むわけです。学生は成功体験だけを聞きたいわけじゃないですから。

國學院大學就職課主任　城所俊哉氏

教員と連携したサポート体制が必要

平井　キャリアセンターなどの就職関連の部署がやる支援には限界があります。協力してもらえるところとどんどん連携していかないと、十分な支援はできません。私たちも教員に実績を話すことで教員の意識を喚起しようとしています。学生もうまく巻き込んで、三位一体型の連携を図った支援というのがこれからの大学には求められるでしょうね。
岡村　教員はゼミや講義を通して我々以上に学生にかかわれるのだから、教員が学生をとらえていなければならないわけです。
平井　教員が学生の意識の変化に気付き、かつ社会の求める人材という大学の外の意識にも気付いてくれなければ、私たちがどんなに学生を育てようとしても限界があるでしょう。
城所　最近私が思うのは、小規模で学生数の少ない大学の方がまさにかゆいところまで手が届く指導ができるということですね。
長谷川　本学はまさしく小規模大学なので、教員の方が私たちより学生をよく知っていますよ。
平井　もう一つ気になる点は、就職関連の登録カードを出すように言っても、年々提出してくれる学生が減っていることです。
長谷川　本学では今年から入学時に登録カードを記入させるようにしました。1年生から全員に提出させるようにしたのは、個別相談時に前回何の話をしたかがわかるようにしたかったからです。
平井　以前は必然的に就職部を頼らなければ学生は情報を得られなかったけれど、今はインターネットでできます。私たちの支援も環境に合わせて変えなければいけないところにきているんですね。
長谷川　これから有効なのはメールでしょう。携帯電話のメールアドレスを把握できたら一番いいですよ。学生はすぐ返事をくれます。
平井　本学ではキャリアセンターを1・2年生にもっと利用してもらうことを目的に個人相談を利用してくださいと呼びかけ、「進路支援ウイーク」という期間を設けました。また、低学年を対象にした企業工場見学会も企画しています。こうしたプログラムの告知の仕方も工夫をし、1・2年生に向けた進路支援と高学年に向けた就職支援とを分けて掲示しています。
　そうした結果、今回のキャリアセンター講演会は参加者の7割が1・2年生でした。こうした1・2年生のニーズに対する支援がうまく機能すれば、将来的には3・4年にも繋がっていくと考え、プログラム上でも進路支援と就職支援の連携を図ろうとしています。

立教大学キャリアセンター　平井光世氏

入学希望者や卒業生へのケアも必要に

司会　では、これから期待されるキャリア支援部署の在り方や職員のスキルについてお話しください。
平井　テクニカルな支援だけを行うのではなく、学生に生きる力を身に付けようという意識を常に持つことが必要だと思います。また、各部署や教員が連携しながら取り組んでいくことですね。外部への情報発信も必要ですが、学内にも学生や社会の現状を伝え、連携していくことが求められていると思います。
　それから、今、キャリアカウンセリングという言葉が流行っていますが、学生が多様化していますから私たちもカウンセリングマインド的なノウハウを身に付ける必要があると思います。また、これからは卒業生とのネットワークがカギになると思います。出口の部分でかかわった学生を、いかにまた大学に巻き込むかは、就職担当者のかかわり方によっても違ってくると思いますね。
岡村　おそらくこれからは低学年から卒業生までかかわることになるのではないかと思います。それから、若い職員にはキャリアカウンセラーの資格をとりなさいと言っています。そうした知識を身に付けることによって卒業生にもきちんと対応できるでしょうし。
　結局、大学教育の結果というのは卒業生がどれだけ母校に帰ってくるかということなんです。そのためには、低学年の在学生から経験を積んだ社会人まで幅広く対応できる能力が我々に求められている気がしますね。
城所　しかし、我々にはジョブローテーションがありますよね。キャリアカウンセラーの資格をとったとしても、その後、大学職員というキャリアの中でどう生かせるか。学内でキャリア支援のプロとしての位置付けを明確にするなど、大学全体として取り組んでいく必要があるでしょう。ジョブローテーションの中の一時期だけというのでは、本当の支援はできないのかなと思います。
平井　カウンセリングマインドは、学生と接する部署であればどこでも生かせるとは思いますよ。
長谷川　大学の中で経験を積むにはいろいろな部署をまわった方がいいけれど、スペシャリストとしてやっていくためにはなるべく長い期間同じ部署で経験を積んだ方がいいでしょう。
　また、カリキュラムで単位を出す形でキャリア教育を行う場合、学科がプロデュースしている大学が多いようです。一方で、就職課が主宰するものは課外というふうに正課内か外かをこちらは意識しがちです。でも、学生にとっては、自分の支援をしてもらえるのなら、カリキュラムであろうが何であろうが、役に立つものをやりたいという気持ちだと思うんですよ。
平井　気を付けなければいけないのは、私たちが独立して正課に入っていけば、就職予備校になりかねないということです。そういう意味では、あくまで教員と共同でやる姿勢を忘れてはならないと思います。学生生活に刺激を与えるような、大学教育に繋げられる支援でありたいと思っています。
城所　やはり、教員と職員がうまくパートナーシップを組めているところが就職にも強い、学生にとって頼もしい大学ということになるのかなと思います。
長谷川　学問的な価値も重要ですが、やはり人間としての価値を身に付けさせる必要があります。これはキャリア支援という部署だけのことではなく、教職員全体が連携してやっていかなければならないでしょう。
司会　最後に、これからのキャリア支援についてご自身のお考えをお話しください。
長谷川　キャリア開発というのはあくまで学生が中心で、私たちがサポートできる部分は限られています。でも、支援者として自分たちが何をすべきかはしっかり把握していなければなりません。先ほどの話にも出ましたが、これからのキャリア支援に必要なのは自己発見力、自己判断力、自己決定力を付けさせることです。就職しても3割の人は3年で転職するという時代ですから、常にキャリア開発をする必要がある。そうした力を付けてあげる。それは大学の4年間だけでは無理なので、卒業後も面倒をみてあげなければならない。低学年の問題が我々の課題になっていますが、卒業生や入学希望者に対するキャリア支援もテーマの一つなのです。
平井　こうした支援はきりがないんですね。時代が変わり学生も変わっていますから、私たちもやり方を変えていかなければなりません。そこでより良い支援をするためには、今何をすべきかということを常に私たち自身が考え、自覚し、学生と教員と一体となって大学を運営していく力を持たなければならないのだと思います。まさに卒業生の評価が大学の評価となるわけで、出口に関わる者としては、大きな責任を担っていると思っています。
城所　自己理解が未熟になっている学生に対して徹底したキャリア支援が必要だと感じています。また、大学がそれをどれだけできるかが、出口評価に繋がっていくと思います。例えば、大学にもホームルームがあってもいいと思うんです。教員と職員がかかわって、留年してしまう学生も把握できるような環境が理想ですね。それがキャリア支援にも繋がっていくのだと思います。
岡村　大学の難易度に関係なく、就労観に対する学生の意識が低くなっていることは否めない。その学生たちをどうやってやる気にさせるかが本来のキャリア支援なんですが、いわゆる就職するための支援も重要じゃないかと私は思っています。進路を決めないまま卒業する学生を認めるような大学だったら、社会も相手にしてくれなくなるだろうと。単なる就職率ではなく、卒業生に占める就職者の割合が重要なのです。
　今年、造語で「進路率」というのを作りまして、就職あるいは大学院進学が決まった者の割合を言うのですが、これからは、この「進路率」がどうかということが問われていくんです。目的をもって社会へ出ていくという仕組みをまず教員が作り、それを職員がサポートしなければならない。そうして卒業生がこの大学でよかったと母校に帰ってくる、そういう大学でないと生き残れないでしょう。

相模女子大学就職課　長谷川友氏

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