進路教育の低学年化やインターンシップの導入が、昨今の大学におけるすう勢となる中、いかにその効果を高めるかが新たな課題といえる。東北福祉大学では、学生の主体性を養うことを念頭に置き、低学年の進路教育の体系化を図るとともに、事前指導、事後報告会をセットとしたインターンシップの実施など、独自の取り組みを展開している。
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レポートを添削して学生にフィードバック
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東北福祉大学は、総合福祉学部の中に社会福祉、産業福祉、社会教育、福祉心理、情報福祉の5学科を置いている。学生数約4000人の中規模大学で、社会福祉士、精神保健福祉士の受験資格や児童福祉司任用資格など各種資格を取得でき、専門職に直結した教育内容となっている。こうした土壌から、目的意識の明確な学生が多く、それが就職率の高さにもつながっている。2001年度の就職率は93％（対就職希望者）。進路の内訳は、福祉施設、医療機関など保健福祉分野が4割、その他小売業、サービス業、製造業といった一般企業や公務員、教員で5割近くを占めている。同大学では、学生のキャリアアップへの取り組みとして10年近く前から低学年向けの進路教育講座やインターンシップ講座を設けている。
2、3年生対象の授業「人間と職業」は、当初から通年制2単位の選択科目として設置されている。早い時期から職業観を培うことを目的に、毎回、さまざまな業界の第一線で働く人を講師として招き、仕事内容や現場の雰囲気、業界の展望、課題などを語ってもらう。02年度は高齢者施設や障害者施設、児童施設や医療機関をはじめ、サービス業、小売業、マスコミといった企業、行政の関係者13人が講師となるが、現役市長も名を連ねるという多彩さだ。2年生も対象であるため、さまざまな業界の状況を知り、職業に対する視野を広げてもらいたいという大学側の狙いがある。
前・後期には、それぞれレポート提出が義務付けられている。「授業によって自分の職業観がどう醸成されたか」「職場で直面する問題に自分ならどう対応するか」といった職業観に関連するテーマを与え、1600字でまとめさせる。教員が、それを添削してコメントも入れ、学生にフィードバックする。就職試験の小論文対策としての文章力養成も兼ねており、本番さながらペンで記述させ、添削時は構成がしっかりしているか、内容に深みがあるかまで厳しく見るという。
就職部の阿部裕二副部長は、「この講座は学生が主体となって考えるための素材を提供するもの。学生の自立支援が目的なので、ただ『受ければいい』という内容にはしていません」と話す。
一方で、授業に対する学生のニーズの把握も重視している。毎回授業の終了時に、内容についてのアンケートを実施。「OG、OBの話を聞きたい」との要望が多かったため、それに応えて01年度からは同大学出身者を講師として多数招聘している。その影響か、01年度は150人だった受講生が02年度には230人に急増し、その3分の2は2年生だったという。
「どのような学生生活を送ったか、その中で進路をどう意識して活動を行ったかなど、就職に結びつくまでの過程も含めた先輩のメッセージが、学生に説得力を持って受け止められたのではないか」と、阿部副部長は指摘する。中には授業をきっかけに、そのOG、OBの職場を見学に行く学生もいるという。
02年度からは、この授業の前段階として1年生向けの進路教育も始めた。情操教育を目的とした「人間基礎論」という必修科目の中で、年間3コマを就職状況の講義や性格、職業観を見るテストなどに当てている。各年次の授業に進路教育を盛り込むことで、低学年指導の体系化を図っていく考えだ。
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研修の内容・感想を企業担当者の前で報告
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実際に職場を経験することで就職に対する意識を向上させようと実施しているのがインターンシップだ。何年次でも受講しやすいようにと、各学年にそれぞれ通年制2単位の選択科目として「インターンシップI、II、III、IV」を設置している。
ただし、学生ならば誰でもインターンシップを受けられるというわけではない。1年次を対象とした「インターンシップI」だけは座学で、その意義やマナーなどを学ぶ。これを修了しないと実際の職場研修を行う「インターンシップII」以降は受講できない。また、受講希望者には事前に面接を実施し、モチベーションが低いと判断された学生については受講を認めない方針を取っている。実際に、これまでにも受講前に振り落とされた学生が数人いるという。
職場研修は夏休みを利用して、2週間程度の期間で行われる。受け入れ先は、福祉施設の事務局をはじめ、楽器製作・販売業、食肉業、百貨店、スーパー、ホテル、マスコミといった一般企業、市役所、郵政局などの行政と広範囲に渡り、専門分野とは関連の薄い業界も多い。その理由を、就職部インターンシップ室の江尻行男室長はこう説明する。
「学科によっては資格取得のため現場実習が必修になっていることもあり、位置付けを変える意味で、異分野の企業・行政機関の仕事を経験させ、福祉関連施設についても実習では足を踏み入れない管理・事務部門などに受け入れをお願いしています。アルバイトなどとは違った角度から社会や職業を見てもらいたいと考えています」。今後は、NPOや東京にある企業などにもアプローチし、受け入れ先の幅を広げていく構えだ。
同大学のインターンシップの特徴は、事前指導による「導入」と、「事後」の報告会によるフォローをきちんと行うなど、教育として体系化されている点だ。前期には、毎週1コマを使って社会的ルールやマナーの研修、受け入れ先企業・業界の研究を行う。後期には、学生に研修の内容や感想、現場の技術や仕組みについての考察を報告書にまとめさせる。さらに、11月には、受け入れ先の担当者を招いて報告会を開き、全受講生が報告書をもとに発表を行う。インターンシップの成績は、この報告書と、研修時の受け入れ先担当者が積極性、理解度、コミュニケーション、研修態度、研修成果の5項目について4段階で判定する評価表にもとづいて決定する。
「2単位では少なすぎるほどハードな内容」と、江尻室長は言う。
この講座を側面から支援するのが、教員7人によるインターンシップ委員会と、就職部内に設置されたインターンシップ室だ。インターンシップ委員は、前述の学生への事前・事後指導のほか、研修先の事前訪問や、研修中に受け入れ先に出向くなど、企業・施設へのフォローも行っている。一方、インターンシップ室は、受講の手続きや問い合わせに対応するなど事務的な部分で学生を支える。
「インターンシップII、III」を合わせると、02年度は44人の学生が24の企業・施設などで研修を行うことになっている。受講動機は、専攻に関連した業界や将来入社したい企業を知るためといったものから、社会勉強や自分の適性探しという目的までさまざまだが、「自分が学ぶ分野について、実際の製造、流通、販売の流れを知ることができた」「言葉遣いなど一般常識を知らないことに気づかされた」「仕事における責任の重さを実感した」などの感想が寄せられており、学生の満足度は高い。
また、インターンシップを行った学生については、その企業・施設に就職する例は少ないが、就職率はほぼ100％となっており、就職支援としても効果は大きいといえそうだ。
「職場を実際に体験することで、早くから進路を意識して動くようになります。受講した学生が周囲を刺激して、学生全体のボトムアップにつながることを期待しています」と、江尻室長は話す。
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