Between 2002.9
特集 学生へのキャリア支援 Part 1
〜低学年からの取り組み

【レポート(3)】 明海大学

実社会に通用する能力を養成するプログラムを1年次から必修科目として導入

 明海大学は浦安キャンパスにある3学部のカリキュラムを改編し、2002年度から「ヒューマン ディベロップメント プログラム」を1・2年次の必修科目として導入した。入学時から学生に自分の将来や就職について考えさせ、実社会で必要とされている能力を身につけさせることを目的としたもので、授業は外部講師を招いて行われる。



低学年から就職を意識させ実践力を高める

 明海大学では、外国語学部・経済学部・不動産学部のカリキュラムを改編し、02年度にリテラシー教育プログラム、課題探究プログラム、専門主専攻コースプログラム、副専攻・キャリアアッププログラムの四つの柱からなる新プログラムを導入した(図表1)。この改編は、もともと3学部共通の外国語・情報関連プログラムを運営する学内組織INT教育センターが中心となって行い、新カリキュラムでは、リテラシー教育、副専攻・キャリアアッププログラムを同センターが、課題探究、専門主専攻コースプログラムを学部が運営する形をとる。
 リテラシー教育プログラムのなかでも「ヒューマン ディベロップメント プログラム(HDP)」は、学生に自分の将来をとらえ、就職や進路を真剣に考えるきっかけを与えるとともに、社会常識や実務能力などの基本的なビジネススキルを修得させるものだ。
 こうしたプログラムは、従来、3年次以降の希望者を対象に就職指導の一環として行われてきた。1年次から、しかも必修科目としてHDPを導入した理由について小泉允圀副学長はこう語る。
 「就職活動の直前になってあわてて職業のことを意識し始める学生が多く、自己の将来観もビジネス能力も付け焼き刃のものでしかありません。それでは就職難の現代に太刀打ちできない。そこで、低学年から就職を意識させながら実践的な能力を育成するシステムが必要だという意見が出されたのです」
 進路や就職にかかわる指導は、大学教育の本筋から逸脱するものという意見は根強くある。実際、HDPを導入した今でも、学内でこうした声を聞くことがあるという。しかし、社会で必要とされる能力であるならば、一般教養科目と同様、カリキュラム上できちんとした教育を行い、実社会に通用する能力にまで高めていくことが重要だと小泉副学長は強調する。
 「HDPは大学として初めての試みでもあり、その成果を見極めるには、時間が必要です。しかし、何もやらないぐらいなら思い切って実施し、問題はそのたびに修正していけばいいと、学長をはじめとするトップで判断して導入を決めたのです」


図表1



グループワークを通して自己の新しい側面を発見する

 HDPは、「パーソナル ディベロップメント プログラム(PDP)」と、「ソーシャル ディベロップメント プログラム(SDP)」で構成される(図表2)。PDPは、アメリカの教育研究機関TPI(The Pacific Institute)が開発した教育研修メソッド「IIE(Investment in Excellence)プログラム」を大学生用にアレンジしたもので、将来を考える動機付けと問題解決、自己表現、コミュニケーション能力の育成に主眼を置く。このプログラムは、企業の教育研修などで採用されてきたもので、明海大学では企業の人事研修も担当するインストラクターが講師を務める。
 02年度のPDP Iは、入学式直後の3日間に集中講義として実施された。学生は学部・学科の区別なく6人のグループに分かれ、10人のインストラクターのもと、グループワークやディスカッションなどを行った(図表3)。
 受講後のアンケートでは、9割を超える学生が「授業を受けて良かった」と答え、「『他人から見た自分』と『私が思う自分』が違っていて驚いた」「これからは目標をはっきりと持ち、自分を向上させたい」という感想も多かった。


図表2


図表3



新聞をテキストに実践的な経済知識を修得

 一方、SDPは社会性の醸成を図ることを目的としたプログラムだ。経済の基礎知識を修得するSDP Iと、業界研究などを通じて将来の進路を考えるSDP IIで構成される。
 SDP Iでは、日本経済新聞の記事を教材として授業を行い、1年次から社会や経済のしくみ、時事問題に関心を向けさせ、考えるトレーニングを積み重ねていく。授業では、四半期や月単位で動く日本の経済の仕組みを前提にテーマとなる記事を選び、経済用語の解説を交えながら「動いている経済」を体感させる。講師には、日本経済新聞の元記者(専任1人、非常勤3人)を迎えている。
 同大学のプログラム実施前の調査によると「新聞を毎日読んでいる学生は極めて少ない」という結果だったが、なぜ一般紙でなく、経済紙を選んだのか。また、経済や不動産など経済に関係ある学部だけでなく外国語学部でも必修としたことについて小泉副学長は「外国語学部の学生でもほとんどが一般企業に就職するわけで、学部にかかわりなく経済の知識は必要不可欠です。確かに日本経済新聞を読み込むことは社会人でも難しいでしょう。しかし、完全に理解できるかどうかは別として、学生が経済を身近に感じ、興味を持つきっかけとしてほしいのです」
 PDPは学生におおむね好評だが、「SDPは少しレベルが高く、難しい」という声もあるという。いずれにせよHDPは端緒についたばかりであり、授業効果を見ながら3〜4年間は試行錯誤を続けていきたいと小泉副学長は言う。



航空会社との提携によりツーリズムや面接スキルを学ぶ

 一方、自由選択科目であるキャリアアッププログラムの一つ、「JALツーリズム・ホスピタリティ プログラム」が学生の人気を集めている。これは、日本航空鰍ニの提携により、同社の研究員や国際線乗務員などを講師に迎え、ツーリズムやCS(顧客満足)・サービスについて実践的な授業を行うもの。空港やホテル、旅行会社などの見学の他、ビジネスマナー、自己表現力の習得、面接対策のための授業も含まれている。将来、旅行やサービス関連企業を目指す学生にとっては業界研究の場となり、就職活動と直結した講義内容が人気の理由であるという。
 インターンシップを就職支援プログラムとして採用する大学は増えてきているが、特定の企業と提携し、実学的な授業をカリキュラムに導入したこのプログラムは、産学連携教育の新たな例として注目できる。


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