Between 2002.9 特集　学生へのキャリア支援　Part 1 〜低学年からの取り組み
【レポート（4）】 国際学院埼玉短大 長年の就職率100％は先輩をロールモデルにした「人づくり」教育の成果
国際学院埼玉短大は、資格取得を目指した実践的教育はもちろんのこと、凡事の徹底（当たり前のことが当たり前にできる）が「人づくり」教育の柱となっている。まさに高校にも通じる学生主体のさまざまな取り組みが功を奏している。 開学以来、抜群の就職率を誇る 　新卒者の就職において厳しい状況が続く。その中、国際学院埼玉短大は1983年度の開学以来ずっと就職率100％を達成している。しかも、これは就職希望者に対する割合ではなく、卒業者に占める割合である。抜群の就職率を達成してきた理由として、同短大が挙げる中の一つが「専門的な知識や技術の習得」だ。 　同短大は、幼児教育科と食物栄養科の二つの学科がある。幼児教育科では幼稚園教諭二種免許と保育士資格が取得でき、保健児童ソーシャルワーカーの受験資格も得られる。一方、食物栄養科では栄養士免許のほか、フードスペシャリスト、保健医療ソーシャルワーカーなどの受験資格も得られる。 　つまり、専門知識を習得できる教育そのものが、キャリア教育の一部になっているというわけだ。01年度の卒業生のうち、就職を希望した学生のほとんどが両学科とも専門知識や資格を生かせる職場に就職している（図表1）。 　この点について、大野博之副学長は次のように話す。「この十有余年で世の中は大きく変化しています。それに対応できるよう、コンピュータリテラシーやプレゼンテーションのスキルを身に付けさせるための方策を試験的に導入したり、カリキュラム化したりして社会のニーズに対して早め早めに取り組んできました」。 積極的に学外評価を受ける 　幼稚園教諭や栄養士の資格を取得するためには、実習が義務づけられている。同短大でも幼児教育科で教育（観察）実習、保育実習、食物栄養科で校外実習などを実施しており、大野副学長は「学外実習はよい機会だととらえている」と話す。 　同短大では、実習終了後、実習先に書面で学生の評価をしてもらうのに加え、責任者を招いて直接、評価についてインタビューする懇談会を設けている。「ピアノは譜面ではなく、園児の顔を見て弾くようになど、場合によってははっきり『これでは現場では通用しません』と言われることもあります」と大野副学長。 　同短大にとって耳の痛い話も出てくるため、この懇談会に臨む教員は通知表を渡される学生のような気持ちになるという。しかし、「生の声には紙の評価に書き表せない深みがありますから、どんな評価でもきちんと受け止めて、対策を立てるようにしています」。さらに評価はすべて、教職員はもちろん学生にもフィードバックし、足りない部分、弱い部分を補い、得意な部分を伸ばすための指針にしてもらう。高等教育における第三者評価の必要性が指摘されるようになるかなり前から、同短大ではこうしたシステムを取り入れてきた。 魅力的な人づくりを重視 　専門知識を身に付けさせ、かつそれが実際に通用するよう現場の声に真摯に耳を傾けて教育内容を改善していく取り組みが功を奏しているのは間違いない。だが、それだけで就職率100％が維持できるほど、今の社会情勢は甘くないはずだ。同短大の就職実績を支えるもう一つの要因は「豊かな人間性の習得」だ。 　「当短大に入学を望むのであれば、茶髪にしたりピアスをすることは厳禁です。茶髪・ピアスがしたければどうぞ他の大学・短大を目指してください」と進学説明会に集まった受験生を前に大野誠学長は公言してはばからない。この進学説明会は年8回実施しており、毎回300人を超える受験生が同短大に集まる。そこでは、学生が中心となって受付、会場案内や個別相談、さらにキャンパスライフ等についてのプレゼンテーションまでしている。どの学生も非常に礼儀正しく、マナーがいい。また派手な服装の学生は見あたらず、相手が教職員、学外の人間、学生同士にかかわらず、みんな必ず大きな声で挨拶する。 　始業前に学生が職員らとともにキャンパスを掃除しているのも、同短大では毎日当たり前に見られる光景だ。清掃会社は入っておらず、学内の掃除はすべて学生と教職員が行っているという。「当たり前のことが当たり前にできる凡事の徹底も教育方針の重要な柱の一つです。そのためにオフィスアワーのほか、あらゆる機会における学生と教員のコミュニケーションを大切にしています」と大野副学長は言う。 手本を身近におく仕掛け 　しかし、入学してくる時点で、全員がきちんと挨拶でき、マナーを守れるわけではない。毎年4月に実施されるフレッシュマンキャンプでは、最初、声をかけても恥ずかしがったり、私語が多いためにアナウンス内容がなかなか伝わらなかったりする。ところが、わずか2泊3日の研修を終える頃には1年生の態度が目に見えて良くなってくるという。なぜか。それは「2年生がチューターとして密着することで、その人が手本になり、1年生はチューターをすてきだとあこがれ、まねようとするから」だと大野副学長は明かす。 　掃除についても同じだ。同じキャンパスで2年生が率先して掃除している姿を見ると、動かない自分が恥ずかしくなってくる。だから、自然に動くようになる。学生たちに聞いてみると、「挨拶とか掃除とか、日常でやっていることを学校でも普通にやっているだけです」というように、特別なことをしているといった意識はない。 　挨拶にしても、掃除にしても、時間厳守にしても、同短大では教え込んでやらせているのではない。確かに「なぜ大切なのか」をきちんとロジックで教えはするが、口酸っぱく「やりなさい」と繰り返し、強制しているわけではない。あくまでも、そうする方が気持ちいいと感じさせ、自然にできるようにさせる。もちろん、そのためには2年生だけでなく教職員も率先して実行する。そしてこのような習慣が身に付けば、社会に出てからも自然と行動に表れるようになる。だからこそ、企業をはじめとし、学外からマナーの良さに高い評価を得ているのだ。 　ただ、2年間という短い期間だけに1年生の生活指導に失敗すると、2年生になってもロールモデルとならないために、とたんに翌年の新入生にも悪影響がでてくる。入学時点で茶髪にしたりピアスをしたりすることを厳禁しているのもそのためだ。大野副学長は「茶髪にしたりピアスをしたりすることが決して悪いわけではありません。しかし、そのようなことに気を取られる暇があれば、もっと自己の内面を研さんすることに時間を費やしてほしいのです」と言う。 きめ細かい親身な対応 　同短大の「人づくり」の教育は、挨拶や礼儀だけにとどまらない。授業や行事など、あらゆる部分に必ず「人づくり」の要素が織り込まれている。例えば、2年次に行われる全員参加の海外研修では通常のクラスとは違う新たなグループが作られる。そのため、学生は限られた時間の中で、それまでのよくわかっている仲間とは違う新しい友人を作らなければならず、人間関係構築に必要なスキルが身に付く。学生にとっては大変なことだが、同年代の中でそれができなければ、社会に出てさまざまな年代の人と人間関係を作ることなど、到底できないだろう。 　また、毎年2月に行われる卒業研究論文発表会も「人づくり」教育の一環である。これは2年間の学習の集大成として全員が取り組むもので、代表者は学外のホールで発表する。論文は図書館に永久保存するほか、題目についてはインターネットでも公開している。 　この他にも体育大会、五峯祭（いつみねさい、大学祭）などの行事で、各学生が委員を務めることでリーダーシップ能力が磨かれる。「何も先進的なことをやっているわけではないし、就職指導がすばらしいから就職できるわけではありません。企業が本当にほしがる人材を育成しているかが重要なのです」との西田常夫事務局長の言葉は、国際学院埼玉短大のキャリア支援教育を象徴している。 　同短大の就職率100％は、専門知識の充実以上に、多面的な「人づくり」の教育があってこその結果だ。そのため、教職員はそれぞれが学生一人ひとりのことを考え、いいものを引き出し、よりよい人生が築けるようにと、授業以外でもさまざまな形で学生と向き合っている。 ＞トップへもどる ＞大学・短大トップへもどる ＞バックナンバー
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