増加した現状維持タイプの若者
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自己の目標を持たない若者が増えているとの話を聞くようになり、我々の時はどうだっただろうと考えることがよくある。少なくとも今の若者よりは目標を持って行動していたような気がする。しかし、これは、時代の進展に伴い社会全体が豊かになって価値観が多様化して、目標が見えにくくなったためではないかと考えることができる。こうした状態が続けば、次代を担う優秀な人材は育ちにくくなり、わが国の将来が危機的状況に瀕することになる。この課題を解決するためのあらゆる方途を提唱し、具体的なスキルを打ち出し実践していくことが求められている。
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自分探しの旅を具現化
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本校は、現在1学年10クラス、計30クラスの規模の全日制普通高校である。「進取･明朗・端正」を校訓に掲げ、1964年の創立当初から「鍛えるスパルタ進学校」というイメージで後に続く新設校のモデルとなってきた。しかしながら、私が赴任してきた93年頃は、生徒にやや活気がないのではと感じたことを覚えている。転勤して1年後、1年生の担任となり、生徒が主体的に生き生きと勉学にいそしめる方策はないものかと、学年主任を中心に皆で論じ合った。
高校教育を実りあるものにするためには、人間力を高めさせる必要があることはいうまでもないが、その際は「授業」を中心にしながら取り組ませることが基本となる。そのためには、「授業」に対して生徒自身が能動的かつ主体的に取り組む姿勢を培うことが肝要で、一方的な強制力により勉強させるだけでは不十分である。生徒自らが勉強しようとする意欲を、いかに喚起させてやることができるかが重要であろう。
そこで本校では、「ドリカム・プラン」と名付けた取り組みを始めた。これは生徒に興味・関心に応じた主体的な行動を起こさせ、将来の夢をより鮮明に描きながら「自分探しの旅」に3年間取り組み、夢を具現化するためのスキルを自ら養っていけるしくみになっている。この結果、将来像や職業観が育成されると同時に、「授業」に対しても興味･関心がめばえ、意欲的に「勉学」に励む資質が培われ、学力へのフィードバックが期待できると考えた。
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ドリカム・プランの概要
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（1）ドリカム・プランとは
Dreams come trueとは 文字通り「夢の実現」。高校3年間は自分の夢を実現するためにあると位置付け、そのために
（a） 興味や関心をもとに自己の将来設計を描いて、自分をよく知る（自己理解）。
（b） 社会の中で自分をよりよく生かす道について、体験を通して検証する（自己啓発）。
（c） 実現に向かってひたむきに努力する（自己実現）。
といったプロセスを学年進行の形で系統化して、「自分探しの旅」を支援する組織的・体系的プログラムである。
（2）ドリカム・プランの目的
生徒の主体的な自己選択能力、進路設計能力の育成を通じて、社会の変化に対応できる力を育成し、生涯学習の基礎的な力を培う。高校3年間を「生涯学習の一里塚」と捉え、自らの夢に基づいて自分自身の将来設計をし、意欲を喚起することで、生涯にわたる自己実現を果たそうとするものである。これは、従来の偏差値中心の大学選択から、自己実現の可能性を図る大学選択へと、進路指導の在り方の転換を試みることでもある。
（3）活動形態
志望系統別「ドリカムグループ」を基本とする。これは従来のクラス編成とは別に、同じ志望系統を持つ者を集めたミックス・ホームルーム形式の学年横断組織で、1ドリカムグループはさらに10人前後の班に分かれる。完成年度の96年度からは学年縦断組織も可能となった。
（4）活動時間
学校裁量時間（3年生）やホームルーム、放課後、休業日および長期休業中などの時間を活用するほか、00年度から「総合的な学習の時間」（1、2年各1単位）もこれに充てている
（5）3年間の進路学習体系
学習体系は図表の通りとなっている。ちなみに本校では「総合的な学習の時間」を地域教育、家庭教育との連携や高大連携を視野に入れた内容にしていることから「ジョイント」と呼び、ドリカム・プランの一環として位置付けている。具体的な目標としては、
（a）変化の激しい社会の中で、自己の在り方生き方、将来像はどうあるべきかという進路設計をする過程において、課題発見･解決、コミュニケーション、情報活用、表現力等の能力を高め、自己実現能力の向上を図る。
（b）1年次においては自己理解と職業理解を深め、将来の職業生活につながる目的意識を育てる。
（c）2年次には、自分の進路探求や社会を取り巻いているさまざまな事象の中から、自らかかわるべき問題を発見し、課題として設定し、啓発的体験と調査活動を通して、その解決に能動的に取り組んでいく貢献的な態度を育成する。
― があげられる。
中でも「ジョイントセミナー」と称して、大学の先生等を講師に迎え、各学問分野の紹介を兼ねた入門講座を実施している。初年度は地元の大学を中心に協力を仰ぎ、年を追うごとに県内外で協力してくださる大学が増加している。
この「ジョイントセミナー」は生徒へも良い刺激になっている。例えば、「21世紀の世界に通用する国際コミュニケーション能力」というテーマで講義を聞いた2年生のある生徒は、「いかに表現するかではなく何を表現するかが大切という言葉に共鳴した。日常生活において人とのコミュニケーションはなくてはならないものである。いかなる状況でも自分の意見を相手にわかるように伝えられれば、議論も活発になり、充実した内容になると思う。そのためにも学校という場をもっと活用していきたい」と答えている。
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期待されるドリカム・プランの継続拡大
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このように本校のドリカム・プランは、94年度のスタート以来、年を重ねるごとに定着しており、以前に比べて生徒の「勉学」に対する意欲も高まり主体的に取り組む生徒が増えてきた。しかし、高校3年間だけの取り組みでは時間的な制約もあり、将来的な職業観が十分身につかないケースも見受けられる。
従って、こういった取り組みを大学でも継続、拡大させることにより、さらにしっかりした職業観を身につけることができるだろうし、真の自己実現を図る場も提供できるのではないかと考えている。大学では、高校よりも時間的なゆとりがあり主体的に体験学習を中心とした調査研究等を行える条件も揃っている。これを有効に活用し、職業観や人生観を確立させる絶好の機会として捉え実践していくことが必要ではないかと思う。具体的には低学年を中心に、このようなキャリア形成の取り組みを履修単位として認定する等の工夫を凝らすことによりさらに定着を図ることができるのではないかと思われる。
またそのことにより、学生が自分の将来像と相対化させながら大学の学問領域にアプローチするシステムになれば、大学における知的財産が有効かつ有意義に活用できるようになり、今までは、主に自己実現の場が学外にあった学生たちも学内に呼び戻すことができると思われる。そして何よりもこのことにより、「勉強しない学生」から「自ら勉強する学生」への転換を図るきっかけとなるのではないかと期待している。
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