Between 2002.10
特集 学生へのキャリア支援 Part 2
〜企業が求める人材像

【レポート1】 ソニー(株)

自ら考えて行動し、アウトプットを出せる人が求められる


 大学生を対象にした就職人気企業の調査を見ると、男女、文系理系を問わず、常に上位にランクされているソニー。その人物の人となりを重視した採用をしようと、学歴不問採用をいち早く実施した企業の一つでもある同社は、時代の変化に対応できる資質と高い専門性を持った人材を求めている。



時代や世の中の変化への対応力の高さが問われる

 「かかわるすべての人に夢を与える企業であり続けたい」を理念とするソニーが求める人材は、一言でいうならば「変化への対応力が高い人」だと、人事センターの杉山潤太部長(採用担当)は言う。
 その理由として、時代そのものがアナログからデジタル、デジタルからネットワークへと変化する中、世の中も大きく変わっていることを杉山部長は指摘する。同社についてもテクノロジーの変化に伴って、テレビやウォークマンといった電化製品だけでなく映画やゲームも作れば、インターネット、銀行、生命保険もやるといったように、業務内容そのものが大きく変化している。「だからこそ、今の世の中の変化に対応していける力をもった人材を必要としているのです」と杉山部長は語る。
 経済が右肩上がりで成長していた時代ならばいざしらず、現在のように変化が激しい時代に企業が成長・発展していくには、その変化を先取りする能力が求められる。さらには杉山部長は、「アンテナを張って時代の変化をとらえ、それを乗り越えていくだけの資質をもった人たちをたくさん必要としている」のがソニーの現状だという。
 そこで、採用にあたって重視されるのが「大学時代にどういうことをやってきたか。また、どういう広がりや深さを持ってそのことに取り組んできたか」だ。いわば人間性の幅の広さが面接を通じて問われる。
 しかし、具体的に何をやってきたかがポイントになるにしても、ただ表面的に「これをやりました」「あれをやりました」と強調するだけでは評価されない。杉山部長は「自らの信念を持って突き進んできたかどうかや、今まで前例のなかったことにチャレンジしてきたかどうかが大切なんです。また、自分一人ではなく、どれだけ多くの人を巻き込んで活動してきたかも問われます」と話す。
 さらにもう一つ大きなポイントは、「実行したあとの成果を出してくること」だ。何かをやるだけではなく、どういう成果を出したのか。ソニーでは「成功体験の再現性の高い人」という言い方をし、そのような学生を求めている。
 つまり、「学生時代に成果を出してきた人は、おそらく会社に入っても同じように成功体験をするだろう。そのような人は変化の激しい時代にあっても、自ら課題を設定して、いろいろな人を広く巻き込みながら物事を進め、アウトプットを出してくれる可能性が高いだろう」と考える。
 しかし、成功体験の再現性を重視するがゆえに、一部分に自信が偏った学生の評価を高くすると、会社に入ってからそれが融通性のなさとして表れるという問題はないのか。杉山部長は、ソニーの場合、そんな危惧はまったくないと言い切る。逆に「とがっていようと生意気であろうと、全然かまわない。上司も若い頃はそうやって育ってきた歴史の中で、今のソニーがある。だから、無骨でもいいから何か光るものを持っている人材が求められる」という。



「ACT101」として具体的な行動指標を例示

 大学時代に何をやってきたか、どんな成果を出してきたかを問う。同社がユニークなのは、その一例として「ACT101」という非常に具体的な行動指標を出している点だ(図表)。
 しかし、杉山部長は「ACT101に書かれている事例だけがソニーが求めている人材像のすべてだと思われて独り歩きするのが怖い」ともいう。もともと、膨大な量を記入しなければいけないエントリーシートを書きやすくするためという意味もあって、作られたのがこの「ACT101」だ。従って、あくまでも例示であって、ソニーではこうでなければいけないと考えるものではないのだという。
 事実、「ACT101」にある最後の101個目のアクションは「(自由に設定)」とある。つまり中身が限定されていない以上、学生は最後の一つにどのようなアクションを当てはめてもよいし、何も一つである必要もない。また、例示された100個のアクションも、資格取得などに関するアクションは別として、いずれもアクションの中身については具体的でありながら、その成果の度合いについては個々の学生の主観に任せている。自分をはめこむための指標ではなく、あくまでもヒントでしかないのだ。
 とはいえ、「必要としている人材の最大公約数的な表現をする場合の一つの提示」であるからには、そこに同社が求める人材像が反映されているのは当然だ。では、ここから引き出される「求められる人材像」とはどのようなものか。それは前述の「変化への対応力の高さ」と「専門性の高さ」に尽きるようだ。
 同社では3年ほど前から学生のインターンシップを実施しているが、その根底にあるのは、優秀な学生に来てもらい、ソニーという場を提供する中で何か結果を出していってほしいという考えだ。したがって、募集に際してはどんなことをする部署でどのような能力をもった人を求めるのかを詳細に明記し選考を行う。なかには約1カ月ほどのインターンシップ期間中に特許を申請する学生さえいるほどで、各自の専門性を仕事にぶつけてもらうのが、同社でのインターンシップだ。そのため、採用の手段とは完全に切り離した位置付けになっている。
 そのようなインターンシップを実施していることもあってか、杉山部長は「何をやりたいかをはっきりさせて、採用に応募してくる学生が増えた印象があります。いわゆるソニーに入りたいのではなく、この会社でこれをしたい、逆に言えば、これをさせてくれないなら入らなくてもいいというように、目的意識のはっきりした学生が増えてきています」と語る。


図表



学問と企業活動の接点を増やして底上げを

 このように学生の目的意識が高まっているのは、一つには多くの大学でビジネスに直結するようなカリキュラムが広く取り入れられてきている結果だといえよう。杉山部長は個人的見解として次のように語る。
 「大学がキャリア支援の取り組みに熱心になったからといって、すぐに人が育つとは思えません。しかし、学問とビジネスを分けるのではなく、インターンシップや産学協同など、いろいろな局面で大学と企業が一緒に何かをやっていこうとすることが、結局はキャリア支援につながるのではないかと思います」
 ただ、キャリア支援の課題として、学生間で自己のキャリア形成に対する意識の格差が大きくなっていることも事実だ。このことについては、「学生により広く社会を知るチャンスを与え、学問と会社のつながりをもっとよく理解してもらえる場をつくり、キャリア意識の低い学生の底上げを図っていくことも必要でしょう」と指摘する。
 もちろん、大学教育のすべてを企業活動に合わせる必要はない。しかし、社会が求める人材を輩出することを目的とするならば、基礎をしっかり押さえた教育を行うとともに、社会との接点を増やし、将来への明確なビジョンを持たせる努力が求められる。


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