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新卒採用のゆくえ
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今回は「学生へのキャリア支援・パート2」として、企業の人事担当者の取材や座談会を通じて、新卒採用の現状とこれからの展望を探ってみた。もちろん、学生の就職先は企業だけでなく、自治体などの公的セクターや、NPO等の非営利機関などさまざまだが、民間企業の動静から、雇用そのものの「その先」を占えるのではないかと考えた。
見えてきたのは、「新卒一括（大量）採用」の時代が終わりつつあるという兆しだ。これは終身雇用制度の崩壊と軌を一にしている。日本経済を支えてきた年功序列と職能資格制度は、企業環境の急速な変化によって風前の灯となっている。世界から見て「雇用の優等生」だったわが国は、リストラという名の人員削減や新卒採用の手控えにより、欧米並みの高失業率社会に向かっている。特に20歳代の若者の失業率が高く、無業者いわゆるフリーター問題として浮上しているのは周知のとおりだ。
■雇用はどうなる
シチズン時計（株）の「Career Build社員制度」は、“採用にあたっては、新卒も中途も区別しない”という宣言に聞こえる。企業は今や、明確な職業意識を持った人材を求めており、新卒といえども中途入社と互角に戦える「即戦力」を必要としている。新卒にはそのバックボーンとして、学業に加え、ベンチャー等の学外体験が問われることになる。このことから、企業が新卒者を時間をかけてじっくり育てるという時代が去り、個人は自分でキャリアをつくる、つまり生涯にわたる職業の歩みを自らデザインする時代に入ったといえる。会社は、以前のように長期の雇用を約束できない。個人と会社の関係が変わりつつあるのだ。
一方、企業側の声として、新卒の採用枠はあっても、実力的に見合わせざるを得ないというケースも多いと聞く。また、就職氷河期のわりには当の学生の就職に対する切実感が薄いという指摘もある。そのあたりの事情を、最近の若者の就職意識を分類した調査で見てみると、
（1）伝統的就労価値観
「会社中心志向」
終身雇用を支持し、出世・昇進を目標とする。そのためには家庭生活の犠牲もやむなし。従来型の伝統的な就労意識。
（2）新しい就労価値観
●その1「専門生きがい志向」
専門性を武器に、希望の仕事につくことが目標。社会的評価は低くても自分のやりたい仕事をしたいと考える。
●その2「快楽優先志向」
仕事はお金を稼ぐ手段。働かなくて済むのならあえて定職に就こうとは考えない。フリーターの多くはこの考えに基づく傾向がある。
●その3「能力至上志向」
能力主義を重視し、成果による処遇の差別化を支持する。転職や独立に対し前向きに考える。
（『ワークスタイルの多様化と生活設計に関する調査』生命保険文化センター／2001年） |
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新しい価値観では、卒業＝就職という図式が個人の側からも薄れつつあることがわかる。フリーターの増加は、労働市場の側の構造的な要因と個人の就労意識の変化との狭間に原因がありそうだ。
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労働力の流動化と人材の多様化
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■流動化のシナリオ
パソナをはじめとする人材派遣業とりわけ紹介予定派遣は、欧米のように業務の中心を占める時代がいずれやってくると思われ、その背景として次のようなことが指摘できる。
これからのビジネス環境は、短期間で小刻みな変動が続く不安定な時代に向かっている。そうなると企業は事業構造を弾力的に組み替えて対応せざるを得ないが、終身雇用の固定的な正社員の配置転換だけでは追いつかないので、必要な人材を必要な数だけタイムリーに採用することになる。新卒大量採用と終身雇用を前提とした閉鎖的な労働市場は縮小し、流動型の労働市場が拡大することになる。しかも、その新しい流動型市場では、雇用形態の多様化が進む。新卒も一括定期ではなく通年で採用する企業が増えつつあるが、雇用のミスマッチを防ぐ上でも、採用コストを下げる上でも、紹介予定派遣のような新しい雇用形態が今後さらに広まることは間違いない。
■企業の流動化促進事例
また、これまでの企業は、社員を終生会社につなぎとめておくために社宅や社員寮、社内預金などの便宜を図ってきたが、ここへきて、住宅資金貸付制度から利子補填制度への転換（NEC）、退職金・福利厚生費などの賞与上乗せ支給（松下電器）、あるいは福利厚生制度の廃止、転職支援制度、早期退職優遇制度等々の動きがみられる。これは逆にいえば、企業に取り込まれていた人材の労働市場への供給を促進する効果を持っている。
その一方で、金融先端分野の総合職中途採用の実施（日興コーディアル證券）、カーデザイナーの採用（日産自動車）等、基幹業務における転入者の受け入れも見られるようになってきた。ある広告代理店の部長の話によると、中途採用の契約社員の方が圧倒的に能力が高く、正社員を凌駕した仕事をすることが多いという。
以上のことから、これからの職業人はますます自己の業務スキルを磨き、それを生かせる職場に自らをエントリーしていく、キャリア・サーファー的意識が必要になってくる。
■エンプロイヤビリティについて
企業寿命30年説という言葉があるが、そう考えれば、個人の40年（人によっては50年以上）に及ぶ職業人生は、一つの企業の中では完結しないことになる。そこで、再就職・転職できる力（＝エンプロイヤビリティ）が問われることになる。資格やスキルは時間がたつと陳腐化するので、常にその先に有効な新たな武器を見いだしていく必要がある。最近はやりのコンピテンシーも、根底ではその人の動機や使命感が強く左右するので、ますます個の自立、アイデンティティーの陶冶が不可欠のものとなってくる。座談会でも「ポテンシャル」が取り上げられていたが、学部の教養教育（リベラルアーツ）はこの点に深くかかわっているはずだ。大学での位置付けはどうか、いま一度見直す必要がありそうだ。
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社会で求められる能力について
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■卒業時点と3年後の違い
図表は、日本労働研究機構による日本と欧州の学生および社会人に対する調査結果の一部である。（同機構『日欧の大学と職業』01年）
（1）は、日本の学生が卒業時点で身に付けたと考えている能力要件の上位10項目で、上から順に、「誠実さ」「集中力」「融通性」などが続く。これに対し、（2）は、社会人3年生が現場で求められる要件を順位付けたもので、「適応力」「問題解決力」「話す力」などが並ぶ。
（1）と（2）を比べてみると、社会に出て必要とされる能力要件は、大学の卒業時点での認識から大きく変わっている（（2）で網かけした項目は（1）の順位と大きな開きがあるもの）。
大学においては、学問それ自体が目的にされがちで、学問的な方法を用いて何を解決するかは二義的に位置付けられる場合が多い。最近は実学志向で、いくらかは実社会の課題解決に貢献することが目的にされてきてはいるが、その到達目標として上記のような能力要件に置き換えて論じられることはまだ少ないのではないだろうか。
「課題解決能力」について最近大学案内などで謳われることが多いが、正解のない現実の課題にいかに迫ることができるかが問われている。人間の能力の一つは基本的能力（ability）で、勉強ができる、運動ができるといった能力である。もう一つが社会的能力（competence）で、社会の中でいかに人とうまくやっていけるか、遅れず負けないで一緒になってやっていけるかというような能力である。インターンシップも、後者の能力を育成する機会として活用する必要がある。
■日本と欧州の違い
一方、（3）は欧州の社会人3年生が同様に職場で必要と感じた能力要件のランキングだが、こちらは（2）とも違った構成になっている。「独力で仕事ができる力」「自己決定力」「自分の意見」など、自己責任や個人の裁量にかかわる要件のウエートが高くなる。わが国でも今後は、集団より個人のウエートが高まり、これらの要件が求められるようになるのではないか。だとすれば、大学は、一歩先を読んだ教育でこれらを身に付けさせることを考える必要がありそうだ。
日本技術者教育認定機構（JABEE）が目指しているのは、こういった成果目標を教育に盛り込んでいくことであり、文系学部においても、例えば履修モデルのタイプ別に、目標とする能力要件の明示などが必要だと思われる。そうすれば、体系化されていない科目間、ひいては学部や学科間の共通の到達目標を共有できる可能性が開かれる。
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大学への期待
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■知恵と勇気を
山口大学で『ベンチャー論』を教える片岡勝氏は、元銀行員で現在は第三世界ショップなどを経営する市民事業家だ。氏の授業は一風変わっており、市内の商店街の2階で授業を行うなど、座学からの脱却を志向している。また、学生の起業を積極的に支援しており、県内外の投資家を募って事業プランの実現を支える基金（『チャレンジ若者ファンド』）を設立するなど、アメリカのベンチャーキャピタルに似た取り組みも行っている。そこから巣立った学生発の事業は、コミュニティTVやネットカフェ、自然体験広場などさまざまだ。従来の大学では見られない、知識ではない知恵と自らリスクに立ち向かっていく勇気を体験的に教えようというメッセージがそこにある。
氏は、アメリカの1980～90年代に、経営誌『フォーチュン』誌の年商ランキング上位500社の雇用者総数を女性の起業によるスモールビジネスの雇用者数が上回ったという事実に関心を持ったという。雇用は大企業がつくり出すものではなく、市民が自ら自発的につくり出すものだという信念がそこから生まれた。いい大学に入っていい会社（あるいは役所）に勤めるという図式をひっくり返したということで両親ともめた学生もいるはずだが、仮に失敗しても若いうちなら取り返せるし、むしろ若い時代に積極的に失敗体験を積んでいくべきだという精神がそこにはある。大学に入ることそれ自体が目的であった大学生は目的を見いだすのに時間がかかるのと同様に、有名企業に入ることを目的化した場合はその後自分自身の目的を見いだすのに苦労することになる。そう考えれば大学での学びを通して本当にやりたいことを見つけ、それを職業にするプロセスには大きな意味があるはずだ。
■自立のためのセルフエンプロイメント
千葉県の木更津そごう撤退に伴って地域活性化プロジェクト「Let's木更津」を試行しているのも、法政大学人間環境学部で氏の『ボランティア論』に影響を受けた学生たちだ。現代の若者たちの中には、利潤追求型の企業より、むしろ地球環境や世界の貧困に対して貢献したいというNPOあるいはNGOへの志向も強くなっているように思える。
冒頭に記したように、これからは大学を出たとしても、そこに新卒の市場が待っていてくれるわけではない。そこで求められるのは、自らがどういう人生を生きたいのか、何に価値を見いだすのか、といった個人の独立心そのものだ。金井教授も指摘されるように、節目での「探求」が必要で、なぜ自分はその職業を目指すのか、入学動機は何だったのか、2年生あたりで内省する時間がほしい。大学は、学生一人ひとりの潜在性を発掘し、社会に望まれるレベルまで押し上げるサポートが必要といえる。
■知識社会のインキュベーターへ
大学は産業界の要請に見合った人材を養成する機関ではない、ということが以前にはいわれていた。長期的な景気低迷が続く昨今ではさすがにそういう声は聞かれないが、今はむしろ、この主張が逆説的に響いてくる。
すなわち、国や産業界が雇用をつくり出し配給するのではなく、個人や地域社会が生きるために必要なことを事業化してゆくセルフ・エンプロイメント（＝広義の起業）が次代のテーマなのではないだろうか。
その意味でも、知識社会へのとば口に立って、大学は知識産業を牽引するリーダー育成を目指す必要がある。今こそ大学における研究を、過去の歴史や諸外国からの紹介にとどまらず、新しい社会の知識と価値観を創造する孵化器として再生する必要があるのではないだろうか。教員および職員も、大学以外の職場を知るべく、学生と同様に「インターンシップ（就業体験）」を行い現場の知恵を学び、具体的な課題解決能力を研究や業務に生かすという姿勢が強く求められる。
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