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『10万人』をほぼ達成
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1983年5月、中曽根康弘首相がアセアン諸国を訪問し、最後に立ち寄ったシンガポールで元日本留学生たちから「自分たちの息子や娘は日本には留学させたくない」と言われてショックを受けたという話は関係者によく知られている。帰国後すぐに当時の文部大臣に指示して私的諮問機関を設け、21世紀に向けた留学生政策を検討させた。同年8月末日、21世紀の初頭までに留学生受け入れ数を10万人にするという『留学生10万人計画』が発表される。当時のマスコミにも大きく取り上げられ、10万人という数字が一人歩きを始めた。
10万人という分かりやすい数字は当時のフランス並みにという受け入れ目標数である。折しもバブル経済の進展に伴い、『10万人計画』の実現に必要なさまざまな施策は、予算獲得にも大いに有利であった。大学などの多くの教育機関も国際化する日本経済・社会の需要に応えるべく、留学生の積極的受け入れに取り組んだ。それを支援する政府の予算もおよそ順調に増加してきた。
そして、周知のとおり日本でバブル経済が崩壊し、アジア通貨危機を迎えた90年代、一時の停滞と減少はあったものの、今日まで概して留学生数は増加してきた。01年末の法務省入国管理局の資料によれば、在日留学生数は約9万3000人であり、留学生・就学生の昨今の激増ぶりからすると、その数はほぼ10万人に達したのではないかと予測される（図表1）。
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日本の大学が今日抱える課題
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人数は10万人に達しても、大学などの受け入れ側の課題が必ずしもクリアされたわけではない。大学の対応次第では、むしろ問題がさらに累積する恐れもある。その意味で、『10万人計画』は、日本の高等教育機関の抱える問題点を顕在化させる「触媒」の役割を果たしてきたとも考えられる。つまり、日本の高等教育と社会が抱えてきた次のような点について解決を迫る性格をも有していた。
（1）たとえどれほど難関であっても、学部に入学さえしてしまえば、4年後にはほぼ自動的に卒業させられてしまう日本の大学システム
（2）欧米の学問の単なる請け売りで、何年も同じノートを棒読みするような講義をし、かつ休講が多い教員が通用すること
（3）大学で学んだことを将来の仕事に生かそうとせず、アルバイトやサークル活動に時間を割き、エネルギーを注ぐ日本人学生の存在
（4）大学の教育に期待せず雇用してからあらためて教育しようとする日本企業の体質
（5）カリキュラムの国際的同等性どころか国内的同等性すら十分に図られていない教育内容などである。
これらはすべて、夢と希望を抱いて日本に留学した者たちを失望させるだけであることは論を待たない。事実、筆者もこれまで多くの留学生から苦情とも諦めともつかぬ話を聞かされてきた。
こうした問題は、国内では何とかごまかしながらやってきたとしても、一度、海外へと門戸を開いたからには、改善に取り組まなければならなくなる。国際化とはそういった容赦ない性格を持つ。現に、近年、上述の問題点については部分的には改善されつつある。それは、ある意味では、国際化が改善を迫ったとも見ることができる。
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日本を取り巻く国際教育交流の変化
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これまで、国際教育交流を考える場合、日本では得てして「欧米対日本」という構図でとらえがちであった。それは戦後の世界の状況を考えれば、あながち的外れなことではなかっただろう。しかし、昨今の世界的なヒトの流れの多様化は教育の分野においても例外ではない。ごく最近まで顕著であった「途上国から先進国へ」あるいは「アジアから欧米・日本へ」といった単純な動向とは明らかに異なる学生の国際的移動が見られるようになってきた。これをうっかり見逃すと、今後の留学生受け入れ戦略の方向性を見誤ることにもなりかねない。ここで、戦後からのアメリカの戦略とオーストラリア、シンガポールの最近の動きに注目してみたい。
■アメリカに見る戦略的留学生受け入れ
戦後すぐに、アメリカはガリオア・フルブライト奨学制度を設け、日本も含め、当時、戦争で疲弊した国々から多くの優秀な留学生を受け入れ、そのプログラムは今日も継続されている。
この奨学制度を利用した留学生は、帰国後、自国で活躍する者が多く、これが世界の政財官学界に「親米派」を作り出すことになる。戦後から今日まで、アメリカの安定した世界的地位を築くのに、この奨学制度が有効に機能したという意見も強い。
また、かつてアメリカはフォード財団の力により、インドネシアのエリートたちをカリフォルニア大学バークレー校に招いて教育を受けさせるとともに、「親米派」を養成した。ある時期のインドネシアの閣僚を見ると、その多くがアメリカ留学経験者だったとも言われる。
日本からのフルブライト奨学生の多くもまた、留学後、日本社会で重要な地位につき、活躍している人々が少なくないのは周知の事実である。また、その多くが政財官学界での牽引役として、本人が意図するとしないとにかかわらず、アメリカ志向の日本社会の形成に大なり小なり貢献してきていることも事実であろう。
最近、中国政府の幹部300人が、5年間の計画でアメリカ・ハーバード大学ケネディ・スクールに留学することが報じられた。ハーバード大学は90年代初めから中国政府の幹部や軍関係者を受け入れているが、同スクールがこれだけの規模で特定の国の幹部を受け入れるのは初めてである。
留学するのは、大学卒で45歳以下の地方の最高幹部と中央の高級幹部。毎年60人が選ばれ、北京の清華大学公共管理学院で1カ月半の講義を受けた後、ケネディ・スクールに派遣され、政治や公共政策を学ぶという。
たとえ派遣する国側の意思ではあっても、このような計画は、受け入れ側に戦略がない限り、実現しないことは明らかだ。
■留学生受け入れは、オーストラリアの有力な輸出産業
ここ数年、オーストラリアが海外20カ国・地域、29カ所にAustralian Education Centre （AEC）およびAustralian
Education International（AEI）の事務所を開設し、リクルート活動を行っている。国を挙げて「オーストラリア第8位の有力な輸出産業」としての留学生受け入れに力を入れてきているのだ。その成果もあってか、オーストラリアの留学生受け入れ数は、90年の約2万人から00年には10万人へと飛躍的に増加した。
世界には現在、約180万人の留学生がいるが、国別の受け入れ比率を見ると、アメリカ32％、イギリス16％、ドイツ13％、フランス11％で、オーストラリアは8％で第5位である。ただし、受け入れ教育機関数を見ると、アメリカ3700に対し、オーストラリアはわずか40に過ぎない。GDPに占める教育支出はアメリカ2.6％に対してオーストラリア1.6％である。
オーストラリアの高等教育への政府の財政措置が占める割合は83年から93年の間に91％から61％に削減され、州政府の予算も3.1％から2.2％に削減された。オーストラリアでは、この予算削減分を埋め合わせているのが留学生からの収入で、留学生を受け入れるには、まず奨学金支給をと考えがちな日本の大学と大きく異なる。
オーストラリアでは、授業料を全額負担する留学生は全体の70％。例えば、メルボルン工科大学では、大学の総収入の4分の1が留学生の学納金による。そのため国際的に通用する教育プログラムの質が問われ、外部評価も厳しくならざるを得ないという。
■海外拠点で留学生を教育するオフショア・キャンパス
オーストラリアへの留学生数の増加は、各大学が海外に開設した「オフショア・キャンパス」と呼ばれる教育機関の広報活動によるところが大きい。
00年現在、オフショア・プログラムは35大学によって750のプログラムが開講されている。学生数は約3万人、英語集中プログラムの受講生は3万人以上いる。アメリカのコミュニティー・カレッジ（地域住民の職業教育や大学への編入学などを目的とした2年制の公立短大）と同等の専門学校への留学生は全体の約2割である。
このプログラムとインターネットを使った遠隔地教育がアメリカとの差別化に力を発揮すると考えられている。
アメリカとの比較で見ると、オーストラリアの教育機関における留学生比率が14.8％であるのに対し、米国の受け入れ数は第1位だが留学生比率は3％に過ぎない。また、オーストラリアでは学部への留学生が68.5％であるのに対し、アメリカでは工学および数学の博士号取得者の半数、コンピューター・サイエンスでも博士号取得者の40％が留学生と、大学院への留学が目立っている。注1
■シンガポールで「留学生15万人計画」
留学生受け入れ先として、アジアに目を転じてみる。現在、シンガポールには約5万人の留学生がいて、中でも中国からの留学生は1万5000人以上いる。かつてシンガポールは、東南アジアにおける「反共」の旗手であったが、90年に中国との国交樹立以来、様変わりし、すでに中国に同国の教育機関の分校を設立している。シンガポールの共通語は英語だが、国民の7割が中華系であるため、中国語が通じ、また留学生のための研究費や奨学金も潤沢である。この絶好の環境が中国人留学生の間での「欧米をしのぐ」という評価につながっているという。
02年になって、シンガポール経済再生委員会サービス業界小委員会の教育作業部会は、現在5万人の留学生を向こう10年間で15万人に増やすことや、海外の企業管理職10万人の研修生受け入れを提案した。同国の教育分野のGDP成長率への貢献率は現在の1.9％から10年後には3～5％に増加すると見込んでいるという。注2
英語と中国語の両方が通用する国の強みが発揮される分野であるという他にない。
■日本に求められる視野の多角化
では、日本の留学生受け入れにはアメリカのような長期戦略やオーストラリアやシンガポールのような経済的視点はないのだろうか。確かに、「留学生10万人を受け入れれば、年間3千億円の経済効果がある」などと説く者はこれまで日本にはいなかった。しかし、今年度の国の留学生予算は約540億円で、決してマイナスにはなっていない。それに、アメリカほど明確ではなくても、留学を通じて日本の理解者や知日家は世界に育ってきているはずである。確かにその速度は遅いかもしれないが。
また、日本は留学生受け入れに関して「知的国際貢献」注3という高邁な理念を掲げているが、それはそれで構わない。02年から開始された国費留学生の新カテゴリーであるヤング・リーダーズ・プログラム注4などは、その目標とするところはかなり戦略的と評価していい事業である。もし所期の目的が果たせるなら、東欧や中央アジアに知日家のエリートが多数育ちうる。
ここで、私たちに求められるのは、視野を多角化し、さまざまな観点で留学生受け入れをとらえることではないだろうか。
日本も国民の税金をつぎ込んで留学生を受け入れるなら、アメリカのように国家安全保障と学界、官界、産業界などの分野で地球的ネットワーク構築を構想してもよいのではないか。やり方さえ間違えなければ結果として「知的国際貢献」につながるだろう。もともと資源もない日本が、他の国々と協調してやっていくとすれば、知的貢献策を進めることは確かに重要である。
■アジアからの留学生動向の変化
ひと昔前までアジア人の留学先といえば、アメリカかイギリスであり、その他のヨーロッパ諸国がそれに次いだ。ところが、近年の変化を見ると、その予測は難しくなっている。
アメリカ、イギリス、ドイツ、フランスへの留学生は相変わらず多く、各国とも力を入れて留学生をリクルートしているが、最近のアジアの学生は、アメリカ、オーストラリア、日本を比較対照して留学先を考えることが多いようである。
それ以外にも、中国からシンガポールへ、マレーシアから台湾へといった中国語圏内あるいは華人ネットワーク圏内の留学、インドネシアからマレーシアへといったマレー・インドネシア語圏内の留学も見られる。
また、ラオスからタイへといったインドシナの近似文化・言語圏内の留学、もしくは、インドからシンガポールへの留学というような印僑ネットワークによる留学。さらには、英語が通用し留学費用も比較的安価だという理由でフィリピンへというように非常に多様化している。
こうして見ると、近い将来、アジアからの留学生の様相は目覚しく変わる可能性を秘めている。従って、日本の大学も、いつまでもアジアから留学生が多く来ると楽観的に構えてはいられないのが現実である。独自の理念に裏打ちされた大学ごとの受け入れ策を早急に講じるべき時は、実は、かなり前に来ていたといえよう。
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留学生受け入れ支援策の活用
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日本の留学生受け入れ施策は、57年以来、主に（財）日本国際教育協会を通して行われてきた。同協会は04年4月に、行政改革の一環で、日本育英会、（財）内外学生センター、（財）国際学友会、（財）関西国際学友会の4団体と統合され、新たな独立行政法人の一部として事業を行うことがすでに閣議決定されている。ただ、日本の留学生受け入れ政策の基本方針が変わらない限り、留学生交流事業が縮小されることはまずないと考えられる。
大学の国際交流に携わる職員にとって同協会は、留学生受け入れ・日本人留学生の派遣に関する業務で緊密なかかわりを持つ団体である。ただし、教員の中にはたとえ国際交流委員や留学生委員であっても、同協会の事業について必ずしもよく理解していない人たちがしばしば見受けられる。今後、同協会の事業の活用について、学内で、特に教員間で早急に周知をはかる必要があると思われる。
「短期留学推進制度」による奨学金支給や渡日前入学に道を開く「日本留学試験」、海外で多くの人たちに大学を直接広報する機会となる「日本留学フェア」などを始めとして、活用しなければ、その大学が不利になる事業が数多くある。
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ポスト10万人の留学生受け入れのために
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今後、海外からさらに学生を受け入れようとする教育機関は、何をポイントに戦略を立てていくべきなのか。まず、大学が留学生を受け入れる目的は何なのか、もう一度熟慮する必要がある。
単に、日本人の18歳人口減によるその穴埋め策として留学生受け入れを考えるなら、それは大変な思い違いであろう。中国からの留学生が大半を占める現在、教育以前の問題を引き起こしている某短大は極端すぎる例と言える。しかしそれ以外にも、留学生が学業半ばで姿を消してしまったという問題を抱える教育機関はあるはずだ。経営姿勢の問題として、ブローカーを使ってまで留学生をリクルートするという方法は、やはり健全な経営からは程遠い姿なのではないだろうか。
第一、教職員にとっては、100人の留学生を受け入れるのは、300人の日本人学生を受け入れることに匹敵する手間ひまがかかると考えるべきであろう。
一方で、欧米系の留学生を多く受け入れて、その大学の国際的イメージを作り上げて成功している大学があるが、「大学の国際化」とは何かの議論は別として、一つの経営戦略としては評価すべきことである。しかし、そのおびただしい数の国際交流協定を締結してきた苦労は並大抵ではなく、どこの大学でも真似のできることではない。
こうしたことを踏まえ、今後の留学生受け入れのための参考として、次のようなことを実施していく必要があろう。
■インターネットを活用した広報
まず、海外への広報の充実が挙げられる。多くの大学でホームページを作っているが、まだ日本語のみの充実を図っているものが多く、英語版ではとたんに貧弱になり、アジアの言語での作成例はほとんど存在しない。
海外では、学生は大学が発行する印刷物の入手以前に、まずインターネットで検索することが圧倒的に多くなっている現実を考えれば、ホームページをおろそかにはできない。試しに、日本語を知らない外国人が日本の大学への入学方法や専攻分野の詳細を調べようとしていると想定して、ご自分の大学のホームページを検索していただきたい。
ちなみに、アメリカではホームページから入学の一次申請ができる大学は珍しくないが、日本でこれが可能なのは、筆者の知る限り、新潟県の国際大学のみである。
■特色あるプログラムと卒業後のフォロー体制
次に、海外から留学生を引きつけるためには、特色あるプログラムが必要である。英語による特設コースという方法もあるし、日本語のインテンシブ・コースを組み込み、それを日本語学校と協力して運営するという方法も考えられよう。地元企業と結びついたインターンシップ・プログラムの開発もよいだろうし、国内の大学が連携してコンソーシアムを形成し、さまざまな専攻分野の留学生・日本人学生を受け入れやすくするという方法も考えられる。
さらには、地域や自治体などとの協力による住環境の整備や地域の日本人との交流プログラムなど、留学生やその家族のためにも優しい環境作りをするということも一つのポイントになろう。
もちろん、授業料の減免や独自の奨学金も準備できれば、留学生にとっては大きな魅力である。そして、卒業・修了生が、日本、自国、第三国のどこであろうと、望んだ仕事に就ける機会が多いほど、留学した大学を評価し、口コミで世界中に宣伝してくれる可能性は高い。
また、卒業・修了後のフォローアップ体制ができていれば、将来、帰国した人材を何らかの形で活用したり、紹介したりするチャンスもある。海外や日本で同窓会を開催することもできる。
ポスト10万人時代には、「15万人に増やす」ということになろうと「量から質への転換をはかる」ということになろうと、上述したように、言われてみればごく当たり前のことをきちんと押さえて受け入れを進めていく教育機関が、結局は良好な成果を掌中にすることだろう。特別な秘策などはどこにもないと思われる。
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スペシャリストとしての国際交流担当者養成
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さて、筆者が事務局長を務めるJAFSA（国際教育交流協議会）注5は、主に国立・私立大学、国際交流団体、専修・各種学校、およびボランティア組織などの国際教育交流に携わる教員・職員によって構成される任意団体であり、目下、法人化に取り組んでいる。留学生政策懇談会の報告に指摘されて以来、文部科学省の支援もあり、私学のみならず次第に国立大学も団体会員として加わりJAFSAの研修などに参加するようになってきた。
従来、欧米をはじめオセアニアやアジアの多くの国・地域では、国際交流担当者は、修士号や博士号を持ち、留学などの国際経験豊富な人たちが中心となっている。彼らはスペシャリストとして位置付けられ、専門領域を確立しており、大学の国際交流戦略の企画・立案・調査、国際交流協定締結、単位認定、外国人研究者・留学生のメンタルケア、地域との交流などに積極的に関与していて、大学経営陣の重要なブレーンの一部ともなっている。
ところが、日本の多くの大学ではローテーション人事があるため、大変に広範な知識と長年の経験、さらには国内外の強力なネットワークを必要とする国際交流の専門家を育てるのは極めて困難である。少なからぬ大学では、いわば素人集団によって、専門家である諸外国の教育機関と渡り合わなければならない状況のまま今日に至っているのが実情だ。これでは、アジアで欧米諸国の大学としのぎを削って留学生のリクルート合戦をするわけにもいかないのではないか。
JAFSAでは、個々の大学などがこのような困難な状況を多少とも克服する助けになるよう、会員のために初任者から中堅、ベテランまでの一貫した専門性開発のための研修プログラム（PDP＝Professional
Development Program）の開発と実施に力を入れている（図表2）。また、ユネスコ青年交流信託基金による事業の一環として、日本国際教育協会から受託し、EU、中国、韓国、タイの同種の団体と連携し、留学生受け入れ、派遣に関する国際交流担当者の研修プログラムを毎年実施。主に加入者686人のメーリングリストによって情報・意見交換を日常的に行っている。
さらに、各種委員会により、研修活動の他、出版広報活動、全国各地での研究会活動、入国在留情報・ネットワーキング、海外の同種団体との交流活動、組織強化など、さまざまな活動を行っている。
03年4月からは、各種専門部会を設置し、例えば、留学生のアドバイジング・カウンセリング分野、日本語教育分野、地域における交流分野などの業務に携わったり、関心をもったりする者が、その専門知識を高め情報交換がしやすい組織形態に整える予定である。
このように環境を整備していくことができれば、近い将来、大学などの教育機関において国際交流活動に携わる教職員やそれにかかわる地域の人たち、日本語教育に携わる人たち、奨学金団体や国際交流団体などのネットワーク化がさらに進み、また、それぞれの専門知識も次第に向上していくに違いない。これを背景に、日本の大学においても国際交流担当者が専門領域を確立する基盤が形成されるだろう。
その意味で、より多くの大学、学校、団体、個人がJAFSAの活動に加わることを強くお勧めしたい。なお、今後、JAFSAの趣旨に賛同する民間企業なども、賛助会員として積極的に加入をお願いしていく予定である。
そして、各大学においては、国際交流担当者を高い専門性を要するスペシャリストとして位置付け、そのための研修を受けさせて養成すること、国際化戦略上その職を重要なポストと見なしていくことが、今後の国内での大学の生き残りと海外での国際競争に勝つための一つの方策であるといえよう。
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注1
出典：Chris Shinn,"What's the big attraction?" International
Educator, Vol. IX,Fall 2000,NAFSA: Association of
International Educators
注2
出典：NNAニュース（ウェブ・ニュース）、2002年9月18日10時47分より
注3
出典：留学生政策懇談会「知的国際貢献の発展と新たな留学生政策の展開を目指して―ポスト2000年の留学生政策―」1999年
注4
アジア諸国や東ヨーロッパなどの各国において将来ナショナルリーダーとして活躍が期待されている行政官、経済人、学者などを対象に、指定する大学の行政・ビジネス・法律コースで修士号取得を目的とした教育を行うプログラム。カリキュラムでの使用言語はすべて英語とされる。
注5
68年創立。現会長は、瀬在幸安日本大学総長。国立・私立大学等の団体会員163、国際交流担当教職員などの個人会員424による協議会。事務局所在地：東京都江東区青海2－79（財）日本国際教育協会内 ホームページhttp://www.jafsa.org、電話
03－3570－2158 |
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