Between 2002.11
特集 国際化時代の留学生受け入れ

【寄稿】 「国際交流業務だからこそ求められる大学全体の活性化」

 

富田 勇一産能大学留学生センター留学生アドバイザー
JAFSA(国際教育交流協議会)研修委員会委員
富田 勇一

 


教学と生活支援の両面から業務を担う担当職員

 「留学生受け入れ10万人計画」のもと、渡日前から帰国後までの体系的施策を推進する体制整備が本格的に始まってから20年目を迎えようとしている。その間、1996年度から97年度にかけて一時的に減少傾向が見られたものの、留学生受け入れ総数は対前年度伸び率平均値10%強という順調な伸びを示し、量的には計画目標の達成段階へと近づいてきた。今後は留学生受け入れに関する質の向上をキーワードに、政府、地域、留学生支援団体、大学間連携のもとで受け入れ業務を見直していくことが重要な課題となる。では、留学生受け入れ業務の質的向上とは一体どのようなことを指すのであろうか。
 留学生には日本の学位取得を目的とする長期留学生もいれば、それを目的としない短期交換留学生もいる。さらに、日本国政府の奨学金によって渡日する国費留学生もいれば、自ら学費、生活費等留学費用を負担する私費留学生もいる。あるいは「出入国管理および難民認定法」に法律上定められている「留学」の在留資格を持つ者もいれば、「就学」や「研修」、それ以外の資格を持つ者もいる。また、母国の高校や大学を卒業後直ちに留学する者もいれば、職場勤務を経て留学する社会人経験者もいる。最近では、マスコミで報道されたように、入国するための隠れ蓑として留学生を装う者も、一部の例に過ぎないが存在する。
 担当職員は、このように多様なバックグラウンドを持つ学生の学習支援のため、次のような教学関連業務を入り口から出口まで幅広く担っている。
(1)学生募集、入試および入学審査
(2)オリエンテーションやガイダンスの実施、運営
(3)日本語、日本事情科目等の授業支援
(4)履修指導、単位評価、成績および学籍管理
(5)各種奨学金、授業料減免、国費留学生関連実務
(6)進路指導と卒業後のフォロー

 加えて、生活面に関する支援業務もおのずと担当職員に要求される。なぜならば、留学生は各々目的を達成する過程で、多くの困難や問題に直面するケースが多いからだ。例えば、経済的問題、住居・保証人問題、同伴家族の問題、文化・習慣の違いからくる異文化適応問題、日本語によるコミュニケーションのギャップ、病気や交通事故といった健康上の問題等枚挙にいとまがない。担当職員はこれら諸問題に対処できる専門的知識、技能を備え、効果的アドバイジングやカウンセリング等相談業務を行ったり、必要であれば組織、地域に対する協力依頼や提案等の働きかけを行うことにより、留学生が所期の目的を達成できる環境を整備するという大切な役割も担っている。具体的には次の項目が生活支援関連業務として挙げられる。
(7)出入国・在留管理
(8)アルバイト・宿舎斡旋
(9)医療、保険に関する実務
(10)課外活動、学内交流イベント企画運営
(11)地域交流、コミュニティプログラム推進

 なお、ここで注意しておきたいのは、支援とは留学生の代わりに物事をやってあげることではない。あくまでも本人が判断し、行動するまでのプロセスをサポートすることで、個人の成長を促す行為なのである。この意味で、留学生担当者は教育的役割も担っている。



奨学金支給も競争原理が必要

 これら(1)〜(11)の中でも重要な業務の一つが、(5)の各種奨学金、授業料減免、国費留学生関連実務である。国際社会の発展に貢献する人材を積極的に育成するため、奨学金、授業料減免措置など経済支援策の充実は未来へ向けた教育投資という重要な意味を持つ。物価が高い日本に留学するためには、渡日前の段階で十分な財政計画を立てていることが前提条件となる。しかし、国家間の経済格差は留学希望者の経済的負担をより重くし、留学前の大きな関門となっている。このような事情から、法務省は留学生に一定の範囲内でのアルバイトを認める資格外活動許可申請制度を設け、在学中にアルバイト収入で学費や生活費の一部補填ができるように計らっている。
 さらに、留学生に対して多くの奨学金、援助金制度が設けられている。その内容は、文部科学省による国費留学生採用、私費外国人留学生学習奨励費、授業料減免援助金制度をはじめ、200近くの民間、財団による奨学金制度、地方公共団体による奨学金および家賃補助、大学による独自の奨学金制度などさまざまだ。ここでは、政府が推進する国費留学生、学習奨励費、授業料減免援助に関する経済支援について述べてみたい。
 国費留学生給与と私費留学生学習奨励費は、在籍する大学を通じて留学生本人に支払われる給付型奨学金である。02年度の「わが国の留学生制度の概要」(文部科学省留学生課)によると、留学生交流関係予算総額は544億2200万円である。その内訳として国費留学生関連に235億1200万円、私費留学生学習奨励費関連に135億9400万円の予算が計上されている。これら二つの奨学金をあわせると全体予算の7割近くに及ぶ。
 このうち、国費留学生奨学金の月額支給は学部等14万2000円、大学院18万4000円となるうえ、入学金、授業料、渡日および帰国旅費も支給という好条件となっている。それに対して私費留学生学習奨励費の月額支給は学部等で5万2000円、大学院でも7万3000円程度で、しかも受給対象者は私費留学生7人に1人の割合という採用の少なさである。現時点での国費留学生と私費留学生在籍者数の割合が約1対7.5と圧倒的に後者の占める率が高いことから考えると、限られた予算の範囲内であっても、私費留学生に対する待遇改善の余地は残されていると思う。
 また、授業料減免援助制度については、「私立大学等の正規課程に在籍する私費外国人留学生を対象に授業料減免を実施する学校法人に対して、授業料の30%を限度として援助金を支給する」という趣旨のもと、87年から実施されている。これは留学生支援を行う大学に対する機関補助で、本年度は約30億円の予算措置がとられている。
 このような、留学生であれば授業料減免の対象者となる援助制度は諸外国でも類を見ない。逆に、アメリカの州立大学では、その州の居住者よりそれ以外の者の方が授業料は高く設定され、留学生は当然後者に属する。またイギリスの場合、政府が大学に支給する奨学金により国民が支払う授業料の4分の3以上がカバーされるが、留学生の場合は正規の授業料を要求される(フルコスト政策)。
 以上のことからも日本の留学生に対する経済支援策は非常に手厚いことがわかる。ただ肝心なことは、それに相当するメリットを投資する側とされる側がともに享受しているのか、さらにそのことに対して十分な社会的評価がなされているかどうかである。加えて、こうした国による投資に見合うだけの教育が提供されているのかも確認する必要がある。何をもって奨学金の投資効果とするかといった測定や実証は困難を極めるが、これら支援の原資は国民の税金であることを忘れてはならない。
 奨学金が定員確保のための人集め対策の費用として使われたり、単なるばらまきに終わっているなどといった批判をされないよう、担当職員はコスト意識とアカウンタビリティを負いながら厳格な対応業務を行うべきである。そのためには奨学金支給もある程度競争原理を導入することで工夫し、留学生支援における教育の質を向上させる必要がある。あわせて、担当職員の人材育成に向けての投資策も必要だろう。



大切なのは業務に対する積極的な姿勢と心構え

 担当者に求められる能力の範囲は幅広い。学内における管理運営、実務処理能力のみならず、学外関連団体に関する知識やネットワーク構築力も要求される。もっとも、これら能力のほとんどは大学職員あるいは組織人として要求される共通領域(ゼネラリスト的資質)に含まれる。しかしながら、留学生担当者であるがゆえに特に必要とされる専門的領域(スペシャリスト的資質)も存在する。
 そこで、担当職員にどんな能力がどの程度必要とされているか等を把握するために「国際教育交流に携わる職員の能力開発に関するニーズ調査」(98年JAFSA調査・研究助成プログラムにより富田・渡邊が調査)の結果を紹介したい(図表)。ちなみに、JAFSA(Japan Network for International Education=国際教育交流協議会)とは、主に日本の大学や日本語教育施設等の国際教育交流分野で活躍する教職員、国際教育交流団体の役職員、民間の国際交流ボランティア等によって組織されている非営利団体である。同調査で「担当職員に求められる知識やスキルは何か」と聞いたところ、国際交流担当者167人から得た5段階評価のうち、「5=極めて必要である」と回答した割合が全体の40%を超える項目を並べてみると以下のようになった。
(1)学術面の知識…異文化理解とコミュニケーション(56%)、異文化適応(Cultural Adjustment)(48%)。
(2)法律・制度面の知識…出入国・在留資格(64%)、留学生の権利と義務(44%)、諸外国の教育制度(42%)。
(3)社会、政策面の知識…日本の留学生政策(46%)、日本事情(社会・文化・生活・習慣)(43%)、諸外国事情(社会・文化・生活・習慣)(40%)。
(4)スキル関連…アドバイジング力(54%)、英語能力(49%)、カウンセリング能力(45%)
ただ、このような専門的知識やスキルを身に付けていくまえに大切なのは、担当業務に対するしっかりとした心構えや積極的な姿勢(スタンス)を持つことである。そして、それらはまず、それぞれの大学における留学生教育交流の理念やミッションを理解することから始まる。
 ちなみに、「Statement of Professional Competencies for International Educators」(NAFSA 1995)に掲げられている「担当職員が持つべき心構え・姿勢」は、「辛抱強さ」「自分の判断」「結論を押し付けない」「異文化に関心を示す」「他人を尊敬する」「曖昧さに対する寛容さ」「社交性」「優しさ、親切さ」「包容力」「思いやり」「柔軟性」「好奇心」「自分を持っていること」「ユーモアのセンス」などとなっている。


図表



能力開発の場として大学を活用

 現在、民間企業の職場環境は、終身雇用や年功序列制度といった伝統的雇用形態の崩壊に見られるように、長期雇用を前提とした組織経営の仕組みが見直され、実力・能力重視の方向へとシフトしている。そのため、組織という枠組みを超え、職種(フィールド)あるいは他の職場でも十分通用する能力や専門性を身に付けたいといったプロフェッショナル志向が強まっている。このような変化によって、個人は組織から与えられた業務をただ受動的にこなすだけといった指示待ち状態からの脱却と意識改革が迫られている。
 大学においても、職員が多様化する教育ニーズを満たす発想で新たな仕事の領域を開拓、創造することが求められている。そのためには、職員が自らのキャリアプランを策定し、計画的に能力開発を進めていく必要がある。では、前述したような専門性を担当者が身につけていくためにはどのような能力開発方法があるのだろうか。
 個人の能力開発に関しては、職場内での訓練(On The Job Training)と職場外での訓練(Off The Job Training)がある。もちろんOJTが基本ではあるが、あわせて研修プログラム、文献、関連情報等のリソースを最大限に活用する方法が効果的である。その意味で、大学は能力開発の場として最適であり、研修プログラムの宝庫とも言える。身近な手段として、本人のコミットメント次第で効果的な能力開発へと結びつく方法を以下に紹介する。
(1)学位の取得(修士号、博士号「生涯学習」「高度な専門職業人育成」という時流を受け、最近では国際交流、異文化コミュニケーション、カウンセリング、大学行政管理関連分野の社会人対象専門大学院が設立されている。
(2)国際交流関連の学会や団体への入会…学会への参加は、関連分野の専門知識を深めるために効果的である。単なる入会、学会誌の購読や研究会への参加だけでなく、積極的に委員を引き受けたり、論文寄稿や研究会での発表を行うことが能力向上への近道となる。特に留学生受け入れ分野は新しい研究領域として、実務サイド(現場)の研究および提言が期待される。また、同じ問題意識をもつ担当者との人脈形成の場ともなる。なお、留学生教育交流分野に関連する学術専門団体として、
 JAFSA、NAFSA(Association of International Educators)、EAIE( European Association for International Education)、UMAP(University Mobility in Asia and the Pacific)、異文化間教育学会、日本比較教育学会、異文化コミュニケーション研究会、日本カウンセリング学会、日本学生相談学会、日本語教育学会、留学生教育学会等がある。
(3)授業の受講と活用…大学のカリキュラムには、関連知識を高める授業が意外と多い。さらに、業務改善に関する質問や相談を教員にもちかけ、彼らのアイデアを役立たせることもできる。
(4)学内留学プログラムへの参画…協定校への交換留学生派遣、海外語学研修実施時に学生引率業務を引き受けることで、語学力を向上させたり、研修先の諸事情を学ぶことができる。また、海外提携校と学生や教員レベルの交換プログラムがあれば、職員レベルの業務交流(インターンシップ)を企画することも可能であろう。
(5)JAFSA研修プログラム受講…JAFSAでは研修委員会を中心に国際教育交流に携わる職員のためのProfessional Development Programの開発、運営を行っている。 昨年度からは夏期研究集会を含め分野別、階層別に体系化された一連の研修プログラムを年間を通じて開催している。
 大学も人事異動があり、ゼネラリスト養成的色彩が強い職場である。しかし、担当職員はスペシャリスト並みの専門知識も不可欠とされる。ただし、スペシャリストにつきものの「タコツボ的視野」はゼネラリスト的視野の広さを以って克服されなければならない。今後はもはや、スペシャリストとゼネラリストといった対峙関係での捉え方ではなく、幅広い政策的視野を備えた専門家育成へ向けての能力開発が望まれる。



大学が抱える諸問題解決のツールとして活かす

 21世紀を迎えた日本の高等教育界は、18歳人口減少による全入時代の到来、大学設置基準などの各種規制緩和策、国立大学の独立行政法人化等に見られるように、政府主導による護送船団方式から、市場原理導入による大学の自律と自己責任追求の方向へとシフトしている。また、IT技術を利用した学習形態は、場所的、時間的制約という枠を取り払い、世界との距離を一気に縮小した。このような環境変化の中、大学は国内外に通用する競争力を備えるための新たなデザインを迫られている。
 その中でも留学生関連部門は重要な役割を担っている。その理由は他部門に比べ、世界各国や地域の政府、自治体、留学生関連団体、関連他大学あるいは、異なる文化や教育制度を背景とした学生、教職員とのインターアクションが多い部門であり、社会の動向やニーズを敏感にキャッチできるポジション(学内と学外の接点)に位置しているからである。つまり大学運営の国際標準化へ向けた政策を積極的に提言することで、学内改革を率先する役割を担うことが可能な機能を有しているわけである。例えば学期制の在り方(完全セメスター制の導入)、学費の在り方(単位従量制授業料の導入)、学生の授業評価によるFD、GPAやアカデミックアドバイザー制度導入、パートタイム学生・社会人学生・留学生などノントラディショナルな学生の受け入れ教育等、教育の舞台を世界においた場合に必要とされる諸システムに関するノウハウと情報を持ち合わせている。
 このように、現在の大学が抱える諸問題を政策的・戦略的に解決するツールとしての国際交流業務を大学運営と連動させていくことによってこそ、組織発展の道が拓けるのではなかろうか。もはや、高度経済成長期に象徴された右肩上がりの経済と豊かな18歳人口市場の下での大学組織にみられた「アクセサリー」や「ファッション」的傾向をもつ国際交流業務とは別れを告げるべきだ。これからの国際交流業務はオプション(外付け)ではなく、全学的な施策のなかにしっかりと組み込まれた形で、大学全体を活性化させるものでなければならない。


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