教員・職員としての経験から総合政策学部の留学生プログラムを策定 Between 2002.11

Between 2002.11
特集　国際化時代の留学生受け入れ

【インタビュー】

教員・職員としての経験から
総合政策学部の留学生プログラムを策定

南山大学外国語学部英米学科助教授
近藤　祐一

　「国際的であること」を教育理念の一つとして掲げる南山大学には、大学院、学部、外国人留学生別科あわせて毎年平均300人の留学生が在籍する。2000年度に新設された総合政策学部の学生の1割は留学生である。
　外国語学部英米学科で、異文化コミュニケーション・国際教育交流を専門とする近藤祐一助教授は、94年から3年間国際交流室課長として、留学生受け入れ、日本人学生の送り出しなどの業務に携わった後、学長補佐として総合政策学部設置の準備を行った。教員でありながら職員も経験した立場から話を聞いた。
―留学生別科との合同授業など、留学生と日本の学生が共に学ぶ機会も多いそうですが、反応は。
近藤　まず留学生は、日本人学生とは学業に対するモチベーションが違います。自分の将来を見据え真剣に学ぼうという姿勢がある。語彙が豊富で日本語能力の高い留学生も多く、同席する日本人学生の英語力よりレベルが高い場合もあるほどです。外国語が得意だと思っていた日本人学生はショックを受け、もっと勉強しなければという気持ちになるようです。
　私のゼミでは、留学生と日本人学生がグループでディスカッションしたり、時にはお茶を飲んだりという合同授業をしています。留学生から日本文化について質問を受け、日本人学生は一生懸命にコミュニケーションをとろうとします。留学生の視点を知り、世界観が変わる学生も多いですね。
―そうした刺激を学生だけでなく、大学自体も受けるのでは。
近藤　彼らの存在によって、日本の大学の弱点や問題点がわかることは多々あります。日本人の学生が言い出せないことの代弁者となることもある。いわば、外からの刺激となって大学の教育に風穴を開けてくれます。また、留学生の背後には世界の教育機関がありますから、彼らが大学に何を求めているかを理解することは、日本の大学の国際化につながると感じています。
―総合政策学部開設の際に留学生の声を反映した点は。
近藤　この学部を開設する際の命題は、留学生が不安に感じている要素を減らすことにありました。授業料などの経済的な問題や宿舎、日本語、入試方法などで、これらをすべて解決するよう努力しました。
　まず、南山大学後援会のご協力により、独自の奨学金制度を設けています。
　また、144人の学生が居住できる2棟の寮を新設しました。寮ではなく、「交流会館」と呼んでいますが、生活の場所であると同時にさまざまな国の人と交流できるもう一つの教室というコンセプトです。日本人のチューター1人を含む4人の学生が一つのフロアに住み、キッチンやバスは共有ですが、それぞれに個室を完備しています。
　日本語学習については、日本語学校で学んだ後、大学に入学するのが一般的です。しかし総合政策学部では、高校卒業後すぐに入学でき、入学してから十分な日本語教育を行い、卒業単位としても認めるプログラムとしました。このため、海外の十数校の高校などと協定を締結し、生徒の推薦を受け、渡日前入試も実施しています。
　留学生の悩みの一つに、友人づくりがあります。そこで、2カ月に一度「コーヒーアワー」というお茶会を催し、日本人学生や教職員と話をする機会を設けています。
　この場にはハンス　ユーゲン・マルクス学長も参加します。そもそも学長は本学の留学生第一号ですから、彼らの抱える悩みなどをよく理解しています。このように大学の最高責任者が参加することは、大学がどんな姿勢で留学生を受け入れているのかという学生へのメッセージにもなっている。
　講師陣には、欧米やアジアから多くの客員教授を迎えています。また、職員も多く新規採用し、うち1人は国際教育のマスターを持ち、留学生カウンセリングもできる人材です。

国際交流関連部門では職員が大学の顔になる

―職員にも専門的な知識が求められるということですか。
近藤　まず入国管理についての知識は必要でしょう。留学生に対して、きちんとアドバイスできる力を持つ職員が望ましい。
　また、できれば留学などの異文化体験を持っているとよいでしょう。多感な留学生にいかに共感できるかもキーになります。
　残念ながら、日本の大学では、異動などで担当の職員がすぐに代わってしまうことが多いようです。海外の教育機関の担当者にしてみれば、これは大きな問題です。新しい担当者に代わった途端、サービスの質が落ちることもあり得ます。大学によっては、英語が話せるアルバイトの人が担当していることすらある。国際交流業務に関しては、大学の顔は学長ではなく、担当の職員なのです。学生を送り出す際、その留学先に安心して任せられる担当者がいるかどうかは大切なことです。
　最近、欧米の大学では協定を結ぶ大学を選別し始めています。アカデミックプログラムがきちんと作られているのは当然のことで、留学生の十分なケアがなされているかも選別の要素になっています。これがしっかりしていないと、いくら日本では有名な大学であったとしても、重要な協定が切られる可能性もあります。

職員に求められる交渉力とプレゼンテーション能力

―そうした業務には、語学力も問われると思いますが。
近藤　留学生と直に接する窓口業務をする場合には、ある程度の語学力も必要ですが、それほど重要ではない。それより、大学間の協定締結や条件の調整などを行う交渉能力が必要です。相手の事情をとらえつつ、自分たちの利益を勝ち取らなければならないわけですから。日本流のコミュニケーションだけでは通用しませんし、また相当の経験が必要です。
　さらに広報としてのプレゼンテーション能力も大切です。さまざまな国の人を相手にするためには、その国の文化的知識が必要になります。これを理解した上で、根回しが必要なのか、仲介人を立てたほうがいいのか判断し、最も良い手段で話をするわけです。
　大学の職員はゼネラリストでなければならないとよくいわれます。確かに大学の業務をすべて内向きに完成すれば内部の評価は安定するでしょう。しかしそれでは外国の教育機関と丁々発止とやり合うことのできる人材は育たない。国際交流業務に関しては、もっと専門的なプロを育成すべきでしょう。そのことは、せっかく育てた人材を他の大学などにヘッドハンティングされるというリスクにもつながるかもしれない。それほど高い専門性が必要とされる職種だということです。欧米の大学ではマスター取得者がする仕事で、大学の国際戦略を考えるキーパーソンになっています。
―職員自身の意識も重要ですね。
近藤　教員も同様ですが、学生を教育していく職人であると共に経営者であるという意識への変革が必要でしょう。
　これは大学の組織についてもいえます。21世紀の人材を育成しようという時に19世紀と同じ体制では通用しない。これからの多文化社会には、海外から人材を採用することも必要です。職員として外国人を採用して初めて、言葉はもちろん、給与、雇用契約などの具体的な問題が表面化し、大学が国際化する時に何が障害になるのかが理解できるでしょう。
―教職員間での情報共有や連携もポイントとなるといわれます。
近藤　国際教育交流の分野でも日々新しい情報が発信され、いわば情報戦の時代ですから、常に最新の情報を得る努力が大切です。しかし、授業を持ち研究をしている教員にはなかなかその余裕がない。また、職員の方が学生の現状を把握していることが多いのです。職員が入手した情報を常に共有でき、これを基にして教員がカリキュラムを作るという連携が望ましいですね。
　日本の大学の教員と職員の間には、大きな溝があります。私は、国際交流室の課長として職員の立場を経験できたことがとてもラッキーだったと思っています。教員の目から見れば、職員の世界はまさに異文化。組織の構造もメンタリティも違うと感じました。しかし、互いをもっと理解して大学の経営や戦略プランを総合的に考えていかなければいけない時代になっています。職員は事務、教員はアカデミックという考え方はそろそろ改める必要があるでしょう。
―大学が留学生受け入れに関し留意すべき点は？
近藤　留学生を受け入れるというのは、その学生だけでなく、彼らの背景にある世界の教育機関を相手にするわけですから、まず、受け入れるかどうかということ自体に慎重になる必要があります。さまざまな国から学生が集まり大学が活性化するのか、受け入れの準備不足で世界中に大学の恥をさらすことになるのか、結果はそのいずれかです。これは大学にとってとてもリスキーなことといえます。
　しかしこれだけ国際化が進み、多くの国の人々と交流する機会がある現代に、外国人がいない社会など考えられません。大学のキャンパスにも留学生がいて当たり前なのです。そのためには日本的な考え方を自ら壊し、大学を改革する必要があるのです。
　留学生を受け入れることによって、日本人学生をどう教育していくのかが見えてくることもあるのではないでしょうか。

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