Between 2002.11 特集　国際化時代の留学生受け入れ
【レポート3】 文化女子大学 留学生の母国語を話す職員が支援制度の活用をフォロー
文化女子大学では、1950年の開学以来、留学生に広く門戸を開いてきた。同大学で定期的に行っている「学生生活調査」の大学への満足度の設問では、すべての学生と留学生の満足度が項目によっては留学生の方が高いという結果が出た。きめ細やかな留学生支援体制を整え、留学生の立場に立ってフォローしていることなどが、成果を挙げている。 留学生の手元に届くバースデーカード 　文化女子大学は、服装、造形、文学部の3学部のほか、大学院と短大部を置いている。留学生は約400人で、その多くを韓国、台湾、中国の出身者が占める。同大学の留学生支援は、制度そのものも多くあるが、その運用を丁寧に行っているのが特徴だ。 　支援を行う組織としては、留学生の指導にあたる「留学生指導特別委員会」が教職員によって編成されている。同大学はクラス制で、それぞれ担任・副担任の教員がいるが、留学生はその枠を超えて、「留学生指導特別委員会」の教員に、学習や生活上の悩みを気軽に相談することができる。また、各クラスから、留学生1人と日本人学生1人ずつを選出し、「留学生委員会」を組織している。この委員会は、留学生と日本人学生との親睦を図るための行事などを企画・実施している。さらに留学生同士の交流を深めるために留学生全員が「留学生会」に入会、そこでは上級生が役員を務める執行部を中心に後輩のフォローにあたっている。 　留学生のための特別行事が多いのも特徴だ。新入留学生対象の特別ガイダンス、日本の文化を学んでもらうための1泊2日の研修旅行、留学生5人に対して教員3人という少人数で行われる懇談会などがあり、特に研修旅行は、新入生だけでなく留学生全員が参加する。 　また、2000年度から「留学生センター」が設置され、留学生はここで母国語の雑誌や新聞を読むことができるほか、国際電話やインターネットの利用もできる。 　その他、きめ細やかな制度の象徴としてあげられるのが、留学生一人ひとりの誕生日にバースデーカードを贈るという取り組みだ。01年4月からスタートした企画で、留学生からも好評だという。 　このような取り組みは、学生の満足度にも表れている。01年に行った学生生活調査では、留学生の満足度が大学全体と比べて高い数字となっている（図表1）。 母国語を話す職員の存在が留学生に安心感を与える 　充実した制度がある一方で、その制度を十分に使いこなせない留学生も存在する。言葉、文化、学習面での壁などが原因だが、そんな学生の悩みを察知し、すべての相談事についてアドバイスにあたっているのが、学生部で留学生の支援を担当する職員だ。その一人、宮本朱（あや）副主査に話を聞いた。 　宮本さんは現在、日本国籍だが、出身は中国で、89年に文化女子大学大学院へ研究生として留学してきた。 　「私自身、留学してきた時はあまり日本語が話せずに苦労をしました。当時、大学院では中国からの留学生は2人だけだったのですが、先生方や学生課のスタッフの皆さんによくしていただき、充実した学生生活を送ることができました」 　卒業後、学生課の職員として同大学に残った宮本さんは、93年から現在まで、多くの留学生のフォローに当たってきた。 　「自分がしてもらったことを、今度は私が留学生にしてあげたいという気持ちで仕事をしています。私が学生だった当時とは比較にならないほど留学生の数は増えましたが、サービスの質をきめ細やかにして一人ひとりに目が行き届く形を維持したい。例えば、留学生の学習奨励費は銀行振り込みにせずに、手渡しにして留学生とのコミュニケーションのきっかけにするなど、工夫しています」 　なにより母国語を話す職員の存在は、留学生にとって、心強いものがあるようだ。宮本さんは台湾や中国からの留学生の相談に当たるときに、そう実感することがあるという。 　「日本語で悩みを話せる学生はまだいいのです。悩みが深ければ深いほど、日本語では話せなくなってしまいます。そんな時、彼女らの母国語を話し、文化を理解しているスタッフがいることが、どれほどホッとさせるでしょうか。そうして話してくれる悩みの裏側に隠されている真意まで読み取れるのは、私が中国語を母国語としてきたからです」 　最近は韓国人留学生が増加しているが、宮本さんは韓国語の勉強の必要を強く感じるという。「日本語か英語でコミュニケーションをとるしかないのは、はがゆいです。できれば、すべての留学生出身国の言葉と文化背景を学んだスタッフがいればいいと思います」。 一人ひとりの悩みが具体的な取り組みに 　留学生の悩みは一人ひとり異なる。留学当初の悩みは学習面での問題が圧倒的に多い。日本語を学んでから入学した留学生でも、専門用語には四苦八苦するという。そこで、留学生指導特別委員会が教員に働きかけ、『留学生のための専門用語テキスト（図表2）』を作成した。服装造形学、服飾デザイン学、色彩学に関する専門用語を掲載した冊子だ。留学生には無料で配布しているが、日本人学生からも欲しいという声が多く、希望者には実費で配布している。 　テキストを見ると、例えば「人台（じんだい）」の項目には、「衣服を製作する過程で使用する、人体模型である。スタンと呼ばれる」とある。イラストも添えられているので、容易に言葉と物を結び付けることができる。留学生だけでなく日本人の学生が欲しがるのもうなずける内容だ。 　このテキストが好評だったのを受けて、さらに生活造形学、住環境学の用語集を作成中だという。『留学生のための専門用語テキスト』は、留学生のかかえる悩みへの、具体的な対応策として機能している好例といえる。 　学生部では、住宅斡旋についてもサポートしている。留学生が民間のアパートを借りる場合、一番困るのは保証人の問題なので、学生部長が個人名で保証人になっている。また、日本の制度や事情を理解していない留学生にとって、不動産屋との直接の交渉は難しいため、学生部が代行している。 留学生支援担当者に求められる資質とは？ 　留学生の悩みは大学の中だけにとどまらず、社会とのかかわりの中からも生まれてくる。 　「留学生にとっての4年間は、その後の人間形成にかかわる大切な時期です。私たちはそれに深くかかわる、大切な仕事をしているのだということを自覚しなくてはいけない」と宮本さん。 　それでは、留学生支援を担当する職員にはどんな人材が求められるのだろうか。 　「語学力や専門知識のほかに、留学生の母国の文化を知ること、担当者の母国が日本でない場合は、日本の制度や文化を理解していることが大事」。また、留学生に気持ちを向け、その立場に立てることも大切と宮本さんは語る。 　同大学では、留学生が帰国した後も、毎年7月に大学の近況報告を手紙にして届けている。これまでで2256人を数える留学生は、自分の国で、大学の良さ、日本の良さを伝えてくれるという。そのためか、門を叩く留学生は、留学経験者の口コミで情報を得たというケースが多い。留学生が学んだ成果を、母国でのファッションショーという形で披露する同大学の行事も、留学志望者増に一役買っているのだろう。 留学生ファッションショーの様子 ＞トップへもどる ＞大学・短大トップへもどる ＞バックナンバー
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