Between 2002.11 特集　国際化時代の留学生受け入れ
【レポート4】 龍谷大学 学費の一律50％減免やチューター制など徹底した生活支援が口コミで広がる
積極的に国際交流プログラムを展開している龍谷大学では、現在、24カ国から400人近い留学生を受け入れている。これだけ多くの留学生を確保している背景には、私費留学生の学費を一律50％減免するなどの徹底した学生生活の支援がある。 収入源としてではなく大学の付加価値を高めることが目的 　18歳人口の減少により、留学生の受け入れを収入源確保の一環と考える大学もあるようだが、国際課の森田孝宏課長は龍谷大学ではそのようなことは考えていないと明確に否定する。「留学生の受け入れはあくまでも国際交流の一環として、大学の付加価値をさらに高めるために行っています。決して日本人学生が足りないための穴埋めとして留学生受け入れを考えているわけではありません」と説明する。 　同大学が留学生受け入れに積極的に動き出したのは1985年頃のこと。ちょうど当時の文部省から10万人の留学生受け入れ目標が出され、各大学がさまざまな方針・施策を打ち出した時期にあたる。 　しかし、「いきなり多くの正規留学生に入学してもらうというのは難しく、交換留学制度を並行して充実していこうと、国外の大学と協定を結び、学生を相互に送り出すことを始めました」と森田課長が言うように、当初は交換留学制度の充実が重視されていた。 　それが日本への留学希望者が増えるにしたがって、次第に同大学の外国人入試を経て入学してくる正規留学生が多数を占めるようになってきた。現在では386人のうち7割強の295人が正規留学生で、交換留学生はわずか21人となっている。残りのうちの59人は同大学が85年度から設置している日本語教育を行う留学生別科に籍を置く学生である。 2号館（深草キャンパス） 国際文化学部開設を期に志願者が大幅増加 　96年度には、国際文化学部を開設。入学定員360人のうちの留学生定員60人の入学生を確保するため開設当初から新たに海外の高校や日本にある日本語学校とも留学協定が結ばれた。 　また、留学協定校以外でも問い合わせが来れば、大学側で費用を負担して資料を郵送し、書類選考のみで合否を決めて志願者の負担軽減を図るなどの留学生確保策がとられた。「それでも学部開設当初は60人枠を完全に埋めるのは難しく、せいぜい7割の40人を少し超える程度でした」と国際課の浅井久之氏は当時を振り返る。 　しかし、これらの確保策を継続した結果、今では定員枠を上回る志願者を集めるまでになっている。特に大きな原動力となったのは私費留学生の学費50％減免の実施だ。これは財団法人日本国際教育協会（02年度からは文部科学省）が実施している授業料の30％を限度とする「授業料減免制度」に大学が独自に上乗せする形で00年度から始めた。しかも、減免されるのは授業料だけではなく、入学金、施設費、実験実習費を含むすべての学費だ。 　私費留学生の経済事情には厳しいものがあると森田課長は言う。「留学生は生活するために一生懸命で、大変な状況にあることが切実に伝わってきます。それだけに留学生の生活支援は非常に大きな課題です」。私費留学生にとっては奨学金の支給が一番ありがたい支援となるというのが同大学の考えだ。それならばいっそのこと、学費を無条件で半額にすれば、公平な支援策としてかつ広く受け入れられ、アピールもできるのではないかということになったのだ。この措置は非常に効果的で01年度の志願者数は、前年度の約3倍増を記録した。 寮や賃貸保証人制度で住環境支援を充実させる 　留学生に対する支援は学費減免だけに留まらない。同大学には現在、計180人ほどを収容する四つの留学生寮がある。この寮には日本人学生がチューターとして同じ寮内に居住し、留学生との交流を促進するだけでなく、彼らの生活支援にも大きな役割を果たしている。 　例えば、寮内の設備に不備な箇所があるという声が留学生からあがると、自主的に寮生にヒアリング調査し、結果をまとめ、国際課に報告書を提出して改善を求める。それも、単に問題点を指摘するだけでなく、改善方法まで提案するなど、非常に積極的だ。指示されて動くのではなく、自ら考えて動く日本人学生の増加は、留学生受け入れによる波及効果の一つである。 　「チューターは1年契約で、採用は計9人ですが、その3倍から4倍の応募があります。しかも自分がチューターとなって留学生から何かを得ようとするのではなく、留学生のために役立ちたいという学生ばかり。うれしいことです」 　また、住環境の整備については、京都府、京都市、京都府内の国公私立大学、公的な留学生支援団体からなる「京都地域留学生交流推進協議会」のもとで「京都地域留学生住宅保証機構」が昨年6月に立ち上げられ、留学生の生活支援を行っている。留学生の場合、賃貸物件を個人で契約する際に、保証人を見つけるのが難しいため、大学コンソーシアム京都に機関保証人になってもらうなど、組織的にサポートを行っている。これも地域として留学生の多い京都ならではの取り組みであり、同大学での留学生の生活支援をさらに拡大させることになった。 留学生の多国籍化が今後の大きな課題 　学費減免を中心にした留学生の経済的支援。寮のチューターや海外交流委員会という学生サークルなどを中心とした日本人学生との積極的な交流促進。加えて、教職員の留学生に対する面倒見のよさも同大学の特徴の一つだ。例えば、交通事故に遭ったと連絡が入れば、国際課の職員か所属学部の教職員が保険会社等との交渉に立ち会い、親身にケアしている。また、留学生はそれぞれにいろいろな悩みや問題を抱えるので、相談に来た留学生に対しては、国際課の職員らが30分でも1時間でも話を聞き、カウンセラー的な役目も果たしている。 　このような留学生へのサポートは、日本人学生1人に対する場合と比べると、何倍もの時間と労力を要する。しかし、学費減免とともにきめ細かなケアは同大学の留学生にとって大きな魅力であり、卒業した留学生が兄弟や親戚に同大学への留学を勧めるなど、口コミ効果を生んでいる。 　図表のように、85年以降、ほぼ順調に留学生数を伸ばしている同大学だが、まだ課題とされる点もある。その一つとして、森田課長は留学生の多国籍化の必要性を指摘する。同大学では交換留学制度によって、北欧やウクライナなど、遠方のためになかなか日本に来られない国の大学からも留学生を受け入れているが、日本人学生で相手先の大学に留学したいという希望が少ないために人数枠がなかなか広がらない。そのため、現状としては中国からの私費留学生が同大学における留学生全体の8割近くを占めている。再度、交換留学に力を入れ、さらに多くの国の大学と協定を結んでいくことの重要性を強調しつつ、森田課長は次のように語った。「今までとは違った形での留学生の受け入れがあってもいいと考えています。例えば欧米の学生が入試を受け、4年間本学で勉強しようというのはかなり志が高くないとできません。そこで、1年なり1セメスターなりの短期受け入れを増やすことで留学生の多国籍化を図りたいと考えています」。 　同大学は多様なプログラムの提供で、さらに多くの国から留学生を確保することを目指している。 21号館（深草キャンパス） ＞トップへもどる ＞大学・短大トップへもどる ＞バックナンバー
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