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一橋大学留学生センターは、全留学生の日本語授業、日本事情教育などを実施する日本語教育部門と留学生相談部門からなる。留学生相談部門には、専属の教官1人と各学部の留学生担当専門教育教官の4人が所属。修学や生活、経済的な問題、心の悩みなどの相談にあたる。留学生相談室では、10時から17時までスタッフが一対一で対応するほか、午前中のみ担当教員の研究室での相談も受け付けている。
また、日本人学生に向けた留学生理解のための国際交流誌「BRIDGES」や、日本人学生と教職員に向けた「海外留学・留学生交流ガイドブック」を発行。4月、10月の留学生受け入れ時に、出迎えやアパート探し、授業の履修の仕方などをサポートする学生主体の組織「ASSIST」の後援など、学内への情報提供や学生・教職員の連携の推進を積極的に行っている。留学生センターの心理カウンセラー、横田雅弘教授に話を聞いた。
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“よろず対応”で気軽に入れる相談室に
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――留学生相談室の役割についてお話しください。
横田 留学生が気軽に入れるような相談室を、ということで「留学生のよろず相談」とでもいいましょうか、道を聞く、日本語の添削をする、アルバイトの相談、何でもいいから相談に来てくださいという姿勢で運営しています。留学生は、日本語の習得や異文化適応をはじめ、学業、経済的な問題、青年期の発達にかかわる悩みなど、多くの課題を抱えています。しかし、日本人学生に比べて親身になって手助けしてくれる人は少ない。そこを我々がサポートするわけです。
相談は年間1200件もあり、多い日は相談室の外に学生が並ぶ場合もあります。予約してくる学生もいれば、突然やってくる学生もいます。カウンセリングにかける時間もケースバイケースです。
こうした留学生センターの活動を続けて15年になりますが、学内にも認知されてきており、留学生のコンディションが悪そうだと職員や教員、チューター、時には留学生のホストファミリーなどから勧められて来室する場合もあります。
――具体的にはどんな相談がありますか。
横田 一番多いのは修学の問題です。次が経済的な問題、そして健康の問題の順になります。健康の中には心理的な問題も含まれていますが、これは全体としては多くない。ただし経済的に困窮すれば、心理的に追い込まれることもありますから、一概に少ないとはいえませんね。
最近、学内で留学生の危機管理対策の必要性が指摘されています。例えば、留学生が深刻な事故に巻き込まれた場合、授業を休まなければならない、奨学金受給やアルバイトの継続が難しくなる、治療費の問題など、日本人の学生に比べて大変な負担になるわけです。場合によっては家族を日本に呼ぶ必要もあります。こうなると、留学生一人だけでは乗り越えるのは大変ですから、どうしても支援が必要になります。
――相談に訪れる留学生の国籍や年齢などで何か傾向はありますか。
横田 最近は、母国の大学に在籍していて、1年間だけ日本に留学する「短期留学」が増えています。学位を取得したり、受験などの必要性がないぶん、心理的には楽であるといえるでしょう。
経済的な面から言えば、国費留学生と私費留学生では、生活が大きく異なります。私費留学生も、もちろん奨学金を得られればよいのですが、卒業まで通してもらえる奨学金は少なく、不安定であるといえます。私費留学生の中には経済的に非常に厳しい状況にある人もいますが、だからといって彼らのほうが悩みが多いとは限りません。私費留学で「大変な状況」を覚悟してきた学生には、精神的に大変強い人もいます。アルバイトをしながら、意欲的に勉強を続ける学生もいますから。
ただし経済的に問題があれば、それがストレスになることは否めません。
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コミュニケーション能力から相手の性格を決め付けない
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――カウンセリングをする上で留意する点は？
横田 すぐに日本の文化やカウンセラー個人の基準で判断を下さないで、しっかりと相手の話を聞くことですね。
また、日本語力が十分でない留学生との会話では、相手が落ち着いて話すことができるよう配慮し、何を言いたいのか、何が問題なのか確認しながら進めなければなりません。紙に書いたり、ゆっくり話すなど、さまざまな対応が必要です。
また、私たちも外国に行ったときに経験することですが、語学力が不十分である場合、自分の考えを言うのに適切な言葉でないとわかっていても、使わざるを得ない状況に陥ったり、本当なら必要な説明を省略したり、伝えたい内容を変更することすらあります。こうした心理的メカニズムを理解していることは、留学生と話す上で大変重要なことです。会話の特徴などから幼稚な人と思ったり、性格を決めつけたりしないよう心掛けなければなりません。
相談に関する守秘義務も大前提になります。私たちは学生の学業上の問題だけでなく、経済状態や出身などのプライバシーについても知る立場にあります。珍しい話や面白いと思った話でもプライバシーにかかわるようなことは決して口外してはいけません。しかし、実はこれはきちんと訓練していないとなかなかできないことなのです。
――学内や地域の人たちとの交流も、留学生の精神的なケアに有効であると聞きますが。
横田 ボランティアなどの地域の人とのつながりも非常に大事です。一橋大学でも、国立市の国際交流ネットワークなどを通じた交流が盛んに行われています。悩み事を抱えていても、いきなりこの留学生相談室に来ることは、抵抗があるかもしれません。相談相手は大学の教員なのですから。そのような場合、気軽に話せる身近な人間は大切な存在になります。コミュニティーの心理といって、何らかの集団の中でお互いが助けあうことによって、問題を解決していくという相互作用もあるわけです。プロのカウンセラーでなくても何らかのサポートはできる。
また、日本語教師とは接する時間が長く、身近な存在であるため留学生が悩みのサインを出しやすいようですね。そこで話すだけで問題が解決しているかもしれません。しかし、それが深刻な問題である場合には、早期に判断し、プロのカウンセラーや医師に伝える必要があります。留学生とかかわる者がいかに連携を図っていくかが重要です。
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専門家と連携できるカウンセリング知識を
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――今後、大学ではどのような体制が必要だとお考えですか。
横田 日本においてもカウンセリングは身近なものになりつつあり、留学生に限らずカウンセリングを必要なものとしてとらえる学生が増えています。欧米の大学では一般的なのですが、やはり日本の大学にも専門のカウンセラーやアドバイザーを置くべきでしょう。強いストレスを持つ留学生に対して的確な対応ができる体制が理想的です。
プロのカウンセラーの配置が難しければ、職員がカウンセリングに関する研修などを受けて、ある程度の知識を身に付けておくべきです。研修だけでカウンセラーになれるわけではありませんが、相談を受ける際の導入段階でインテーカー（Intaker：受け取る人などの意）としての役割を果たすことができます。これは、留学生に生じている変化や悩みのシグナルを察知して、悩みを聞き出し、場合によっては、専門のカウンセラーや保健管理センターの医師などに伝える役割です。日常的に専門家とうまく連携をとれるレベルの知識は必要でしょう。
また、できれば留学経験のある人や、英語、中国語、韓国語などの語学ができる人がいるといいですね。
今後、留学生相談にかかわる業務は高い専門性の求められる仕事になるでしょうし、専門職として位置付けるべきだと思います。国際センターや留学生センターでの経験を他の部署で生かすことも必要でしょう。しかし、数人でもよいので国際交流の分野で長年の経験をもつ人がいるべきではないでしょうか。
多くの大学が学問のレベルを高める取り組みは行っていますが、留学生の生活レベルまで細かく支援する大学はまだ少数派です。大学としてどこまで支援していくべきか考える必要があるでしょう。
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一橋大学留学生センター教授