【FD遠近法２】通俗的大学イメージを払拭する時代 Between 2002.11

Between 2002.11
深化するFD

【FD遠近法2】

通俗的大学イメージを払拭する時代
～個性的な大学はもっと注目されてよい～

学生や教職員の固定観念を払拭

　「教育研究所のような大学でありたい」と語る中村教授の意図は、同学部の門をくぐったときの雰囲気から体感することができる。企業の研究所に入ったときの感覚に似ているからだ。言い換えれば学生や保護者、高校の教員が大学に対して漠然と抱いている固定観念を突き抜けている。
　そのための具体的な動きが、プロジェクト科目という企業と共同で行う技術開発プログラムである。現在もテーマについて企業に公募中で次第に充実した多くのテーマに学部こぞって取り組むであろうが、その意図はまだ十分に周囲に認知されているわけではない。
　また、入学した学生たちも自分の属する学部が従来の大学とは「違った教育機関」であると十分意識しているとは思えない。
　従来の大学イメージにとらわれがちな学生や保護者、高校にいかに斬新なアイデアを取り入れた同学部の情報を伝えるか。同学部ばかりでなく、多くの「個性輝く大学」が正念場を迎えている。
　そういったなかで、「わが大学には、あれもあります、これもあります」というアピールに意味がなくなってきている。例えば、マンモス私立大学の大学祭が通俗的大学イメージをつくっているという面を考えてみよう。「大学には大学祭があるものだ」という学生や教職員の固定観念を払拭することが、むしろ個性的な大学をアピールするという可能性もある。慣習に引きずられて大学祭を実施するたび、逆に小規模大学の場合、その限界を学生に知らせてしまうことになり、教職員の徒労や学生の不満や愚痴のもとになってしまったという事例は、おそらく多くの大学関係者が体験していることではあるまいか。
　むしろ現在は大学祭のようなハレの場が大学の外でも、いくらでも用意されていて、学生は私生活の中で縦横に享受している。
　そのような現状では例えば、「わが大学にはいわゆる大学祭はありません。そのかわり『起業アイデア・コンテスト』が一大イベントです」という方がわかりやすいのではないか。

大学の個性を理解して入学させる仕組みを

　情報環境学部の透明性についてはすでに触れたが、学生と大学教職員とのQ＆A、要望に対する回答の様子がWeb上で学内者は誰でも閲覧可能となっている。そのやりとりをみせてもらうと、大学が学生たちの要望に対して真摯に回答している様子が伝わってくる。
　一例を紹介しよう。「出席をとって、成績に加味してほしい」「何日出席すれば単位が取れるのかを知りたい」（学生からの要望）に対して、「本学部の卒業生は世界中で通用する技術者と認められるべきです。単位はどこでも通用する資格として認定されなければなりませんから、出席点という考えは存在しません。」（要約）とある。
　これらのやりとりを概観してみると、同学部の成り立ちや教育の狙い、その方向性、つくろうとしている大学像についての理解という点で、学生と大学の間には微妙なギャップが存在することに気がつく。それは、「めちゃ楽しい～」などの意見に混じって、「もっと他校と交流したい」「結構楽しいが、ただ周りに何もないのが残念」といった学生の声からうかがえる。大学の活気が通俗的大学イメージに左右されている現れだ。「一見すると閑散としたキャンパスだが、実習室やアトリエでは学生集団が真剣勝負の作業を昼夜している」といったことこそがアピールされ、評価されてよい。
　同学部の場合には教育に重点をおいているが、その教育とは、大学という限られた学校社会における教育ではない。企業と連携した体験的活動や共同作業にもとづいた教育であり、実社会にスムーズに移行するための教育である。ところが学生がその教育の意味を十分理解していないと、教室を中心としたキャンパスのなかでのみ「満足」を得ようとする。
　その結果、満足度の要求が一般化、拡散して、際限のない要求の場に化してしまう。
　従来の「大学」というイメージでとらえることのできない大学が続々生まれつつある。
　しかし、FDを実践し、教学システムに力を注ぎ、「ユニークな大学」という情報が世間に伝わりにくいのが現状だ。むしろ、単純明確な「大学らしくない大学」というメッセージの方が社会一般にアピールする時代なのではあるまいか。（矢内秋生）

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