Between 2002.12
特集 eラーニングと変わる通信教育

【レポート1】 大阪芸術大学 通信教育部音楽学科

Web教材になじむ制作系から着手し将来的には他分野への拡大も検討


 大阪芸術大学通信教育部の音楽学科では、最新技術を駆使したインターネット教材を導入、作曲技法などをオンデマンドで教育し、クリエーターを養成する。芸術分野全般へのeラーニング拡大についても検討中だ。



リテラシー向上のための科目も

 総合芸術系の大阪芸術大学では、2001年度に通信教育部を開設した。通学課程と同じ学科構成で、美術、工芸、写真、デザイン、建築など計10学科15コースを設置。印刷教材を主体にした従来型の通信教育だが、音楽学科では一部の科目で、Web教材によるeラーニングを導入している。
 通信教育部の三木幹久事務長は「通信課程を開設するにあたって、何か目玉が欲しいと考えたのがそもそものきっかけです」と説明する。「構想を練っていた数年前には動画配信など技術的な制約が多く、映像学科や放送学科での導入は難しかった。検討の結果、音楽学科ならやれると考えた」。通学課程の音楽系学科には音楽、音楽教育、演奏の3学科があり、音楽学科では作曲や音環境デザインなどの制作系が柱になっている。この分野はプロの世界にもデジタル機器が浸透しており、ネット上での指導が可能と判断したという。
 現在、1、2年次の専門科目のうち、「音楽制作特論」「ポピュラー音楽論」などの講義科目、「和声法」「作品制作」などの演習科目計7科目でWeb教材を導入、16単位に相当する。1年次の必修科目「情報音楽基礎演習」は、eラーニングで学ぶ上でのインターネットリテラシー向上も兼ねた学習内容になっている。
 これらの教材の制作はNTTに委託。サンプル演奏の挿入のタイミングや解説手法など、担当教員の授業の進め方をインターネット上で再現することで、各教員の個性を反映させた。オンデマンド配信による講義や生演奏、FLASHアニメーションを使った動きのある教材で、通信教育にありがちな無機質さを排している。課題の制作と提出、添削の確認もネットを介しパソコン上で行われる。  サンプル曲など教材からの音楽配信は、最新のストリーム技術を使って高速でダウンロードし再生されるため、ネット上での一般的な音楽配信に比べ格段に音質がいい。また、学生のパソコン環境への負荷を極力抑える設計がなされ、環境に左右されない均一な画質や音質、スピードになっている。
 Web教材の強みは何といっても更新の容易さだ。ある教員は、「常に最新のブラウザを使いたい」と考え、月に1回のペースで手を加えているという。



課題は著作権やスクーリング

 現在、同学科には1、2年生合わせて250人の学生がいる。地元・近畿圏の在住者が3分の2、次いで関東が多く、残りは北海道から沖縄まで全国に分散。かつて音楽をやっていたなど基礎的素養のある学生が多く、「体系的に学び直したい」という30代、40代の主婦も目立つという。1年間の授業料は通学課程の6分の1程度。一方で、スクーリングは演習や実習が中心になるため、講義形式の2〜3倍の日数がかかり負担が大きい。
 構想時に比べ、動画配信をはじめとするインターネット技術は飛躍的に向上しており、映像や放送など他学科へのeラーニング拡大も現実味を帯びてきた。様々な作品を教材に組み入れる上で、最大のハードルが著作権の問題で、法的整備など動きをにらみつつ検討していくことになりそうだ。
 今回、制作系中心の音楽学科だからこそeラーニングに移行できたわけだが、三木事務長は「技術的には、演奏系でも可能」と指摘。ピアノの感情表現などの指導もネット上でできるというのだ。「問題は、通信教育に関する規制緩和がどこまで進むかです。ネット上でのスクーリングの受講要件など、制度がどうなるかを見ながら、現在先頭を走っている分野で実績を積み上げたい」と話した。


写真
「和声法I」の画面。五線譜を実際の音で確認する


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