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大阪大学はインターネットを用いた教育を行う「サイバー大学」を構築。この11月から、タイの2大学に向けた授業配信を始めた。対象は、マヒドン大学とチュラロンコン大学の学部生。来年2月までの半年間にわたり、自習用のオンデマンド型（Computer
Based Training、以下CBT）によるデジタルコンテンツの配信と、リアルタイムで授業を行うInstructor Led
System（以下、インストラクター主導型）の二つの手法で、応用生物工学の授業を展開する。
CBTでは週替わりで新しいコンテンツを配信し、計15回にわたってバイオテクノロジーの基礎知識を学んでもらう。学習状況を確認できるよう毎回宿題を課し、学生に解答をメールで送付させる。
一方、インストラクター主導型は、応用知識の習得に主眼を置き、毎週水曜日に2コマ（90分）で実施する。事前にパワーポイントで作成したプリントなどを用意し、タイ側で印刷・配布。パソコン画面を通して大阪大学の教員とタイの学生が向き合う。内容はすべて英語を用いている。
オンデマンド型の授業では一般の授業とは違い、学習への取り組みは学生の自主性に委ねられるため、教育効果を上げにくいという指摘もある。そこで、CBTの一部では画面をクリックすると、音声や質問が出るなど変化がつくように工夫。インストラクター主導型では、頻繁にクイズを提示。さらに授業中、全学生を必ず1回は指名することで対面授業と同様の緊張感を持たせている。
また、バイオテクノロジー分野では、知識だけでなく実践的な技術の習得も欠かせない。インターネットによる授業では限界があるので、大阪大学の教員がタイに赴き、5日間の集中スクーリングで実験を指導する。
初年度の授業は、マヒドン大学とチュラロンコン大学合わせて約50人の学生が受講する。これらの授業は、マヒドン大学のみ、選択科目の単位として認定され、評価は、CBTについてはメールによる回答回数とその内容で、インストラクター主導型では出席回数とクイズの正答回数によって大阪大学の教員が行うシステムだ。
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大阪大学サイバースクールの概念
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欧米大学との競争を意識
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2000年に、文部科学省がオンデマンド型の遠隔授業を単位として認める方針を打ち出して以来、国内でのeラーニング導入の動きは加速している。サイバー大学を主導する大学院工学研究科応用生物工学専攻の福井希一教授は、「優秀な学生の確保は、大学の経営のみならず、研究開発や教育の活性化において重要です。国内の学生だけを対象とするのではなく、アジアなどの国外にも目を向ける必要があります。サイバー大学ならば、多くの学生に教育の機会を提供できると同時に、日本の大学の知名度を上げ、留学生の受け入れに結びつけることも可能だと考えました」と言う。
背景には、アジア地域をターゲットとした国際的なサイバー教育の趨勢がある。マサチューセッツ工科大学では全教育プログラムをデジタルコンテンツ化し、シンガポール大学に配信しており、有名大学がeラーニングでアジア進出する例も目立つ。韓国では国内が対象ではあるが、サイバー大学が7校創設されているという。
「eラーニングによって、海外と国内のボーダーは低くなっています。近い将来、ネット上で国内にいながらにして、オックスフォード大学、スタンフォード大学など世界中から大学を選んで教育を受けられる時代が来るでしょう。国際的な大学の競争時代の到来に備え、当専攻でもできるだけ早く着手しノウハウを蓄積したかった」
大阪大学には、長年培われたアジア地域の学術交流の土壌があった。大阪大学生物工学国際交流センター「IC Biotech」は、アジア地域の大学教員などの若手研究者を対象に工業微生物学、バイオテクノロジー分野の研修を行う「ユネスコ微生物学国際大学院コース」の拠点となっている。この講座は73年から実施されており、マヒドン大学のポンチャイ学長は「IC
Biotech」の客員教授を務めていたこともある。
また、IC Biotechとマヒドン大学は共に、東南アジア地域の教育機関の研究者が共同研究などの交流を行う「日本学術振興会東南アジア学術交流」の拠点大学として国際共同研究を行ってきた。
こうした背景から、タイの大学側も、大阪大学の授業を受け入れることへの抵抗感は少なかったという。当初、大阪大学から配信される授業はタイの学生に自宅のパソコンで受講してもらうスタイルを想定していたが、個人に配信できるデジタル回線の容量に問題があったため、マヒドン大学のコンピュータセンターの協力を得て、大学の施設での受講が可能になった。
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大学戦略としてのサイバー大学
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サイバー大学の試みは、今後の大学運営における一つの戦略にもなりうる。国立大学の独立行政法人化を踏まえ、ニーズがあればベンチャー企業を創設し、サイバー大学を「商品」として提供していく方法も考えられると福井教授は言う。また、世界的な大学競争時代に、大学の認知度を上げる確実な手段にもなるという。
そのため、授業コンテンツの開発に当たり、欧米大学との競争を意識し、いくつかの特色を打ち出した。例えば、欧米の大学のコンテンツは、バイオテクノロジーに関する基本的な知識をまとめたものが多いが、大阪大学ではシラバスも、タイの大学と話し合った上で策定し、タイまたはアジア地域で必要とされる内容も盛り込んだ。また、インストラクター主導型の授業配信も、同じアジア地域にあるからこそ実現できたと福井教授は言う。タイと日本の時差はわずか2時間。時差が10時間以上ある欧米諸国と違って、リアルタイムでの授業は十分可能だ。
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教員負担軽減と授業標準化を図る
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大阪大学のサイバー大学は、福井教授を中心とした応用生物工学専攻の教員が、IC Biotechの協力を得て運営。昨年度から、タイの大学での回線やサーバーの整備、コンテンツの作成に着手した。こうした予算は、文科省から「サイバー大学構築による近隣諸国への高等教育の普及」のための01年度教育拠点経費として、3年にわたり配分されることになっていた。しかし「21世紀COEプログラム」の実施の影響を受け、予算配分は1年で打ち切りに。今年度は工学研究科の重点事業経費と同研究科長からの裁量経費である計1700万円で賄うことになった。そのため、英文校閲などは外部業者に委託しているものの、CBTのコンテンツなどは教員だけで開発している。
授業の実施に伴う準備や学生とのやりとりなども含めて、教員の負担は少なくない。しかし、福井教授は教員にとってもサイバー大学のメリットは大きい、と指摘する。授業がオープンになるため、教員の教育意識が高まるほか、授業内容の標準化が図られる。さらに、デジタルコンテンツの作成とその更新により、今後の教員の教育負担の軽減にもつながるという。
「発展の著しい科学分野において、教員が一人で最新情報などを網羅するのは非常に難しい。授業のたびに、多岐にわたる情報を調べ、資料を作るのは大変な作業なのです。一度コンテンツを作っておけば、複数の教員がそれを見て、それぞれの得意分野の情報を補足するなど分担が可能になります」
サイバー大学の今後の課題は、タイの学生と大阪大学の教員双方にとって母国語でない英語の授業がどこまで通じるか、また授業のレベルが学生にとって適切なものかどうかという2点だ。
「実施したうえで、問題点については改めて検討し、来年度の授業内容に反映させます。そして2年後の終了した時点で、教育効果などについての報告を出していく予定です」
試行段階とはいえ、こうした本格的な海外進出の試みは、日本ではまだ少数である。将来は、タイだけでなくアジア地域のためのコンテンツの共同開発を目指すという大阪大学。今後の展開を期待したい。
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授業画面の例
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テストの画面
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