|
産能大学・産能短大通信教育課程は、2000年度にeラーニングを導入した。掲示板を活用したゼミでは、学生同士が教え合うなど、新たな学習効果も生まれている。年々開講科目を増やし、テーマも変えながら、対面授業でもなく、通信教育でもない、eラーニングならではの学習効果を目指し、試行錯誤を続けている。
|
 |
インターネット上で学生同士が意見交換
|
産能大学・産能短大通信教育課程は、2000年12月にeラーニング専用のWebサイト「iNet Campus」をオープンした。紙媒体による通信添削中心の学習、スクーリングに続く第3の方法として、遠隔地にいる学生と教員がコミュニケーションしながら進める新たな学習方法を選んだ。iNet
Campusに当初からかかわっている通信教育事務部の杉原明氏は導入のきっかけをこう語る。
「インターネットを利用すれば、衛星放送のように莫大な投資をせず、学生も特別な機材を用意する必要がありません。インターネットの普及により、本課程が思い描いていた新しい学習方法を実現できると考えたのです」
iNet Campusでは、大学・短大とも経営関係の教育を行っており、「iNet 授業」と「iNetゼミ」で構成、いずれもスクーリングの単位に置き換えられる。
iNet 授業は、スクーリングで行っている授業を撮影し、インターネットで配信する（画面1）。1科目15回の講義は3カ月の受講期間内なら、いつでも視聴できる。教材はスクーリングと同じ印刷物を使用。レポートは郵送で提出するが、質問や試験はWeb上で行う。試験問題はWeb上に提示され、約1週間の提出期間内に論述形式の答案を作成し、Web上に提出する。
一方、iNet ゼミは、対面授業のゼミをインターネット上で実現することを目指している。原則として印刷物の教材を使用せず、教材はVOD（ビデオオンデマンド）による教員の講義やWeb上に作成した資料などを配信。学生はこれらで学習をしたあと、ディスカッションルーム（画面2）にアクセスし、意見を交換する。レポートや論文提出による試験もEメールで行い、その提出物はディスカッションルームで公開される。
各授業にはティーチングアシスタント（TA）がつき、ディスカッションルームの管理や学生の質問に対応する。また、職員の負担を軽減するため、システムの運用や管理は外部業者に委託した。
|
画面1
|
iNet授業の画面。ビデオに合わせて板書も画面に現れる。ビデオと同じように停止や再生が可能。理解が不十分な個所は繰り返して見るという使い方もできる。
|
画面2
|
iNetゼミのディスカッションルーム。文字によるコミュニケーションのため、口調やニュアンスが伝わりにくい。そのため、教員やTAは言葉遣いにかなり配慮しているという。
|
|
ディスカッションルームの活発化が成功のカギ
|
iNet 授業はいわば「放送授業」であるため、教材を作成した後の運営はスムーズだが、iNet ゼミには手間がかかる。
iNet ゼミでは、ディスカッションルームの進行が学習効果に直接結び付くため、教員やTAによる管理が非常に重要な作業となる。例えば、学生の発言が少なければ、授業は進行しない。そのため、発言回数やその内容も評価の対象にすると明言し、活発な討論を促している。また、初回の課題を自己紹介とし、お互いを少しずつ知ることで、書き込みをしやすい環境を作る工夫をしている。
逆に、発言が多過ぎて事態の収拾がつかなくなることもある。このような場合は、状況に応じて教員やTAが意見をまとめるような発言をしている。
「インターネット上でのコミュニケーションは、顔を直接突き合わせての会話とは異なります。つまり、iNet ゼミには対面のゼミとは異なる運営方法の構築が必要だったのです。TA制度の採用もその一つです」と企画広報室の安徳裕之氏は語る。
当初の期待通り、活発に意見交換しているゼミも多くある。そうしたゼミでは試験の論文でレベルの高い内容がいくつも見受けられ、学習の成果も表れている。杉原氏が特に注目しているのは、学生が互いに教え合い、啓発しながら学習を進めている点だ。
「ディスカッションルームでは、学生が意見を述べ合うだけでなく、他の学生の意見を受けて本を薦めたり、他の事例を紹介したりといった発言がよく見受けられます。経験豊かな社会人の学生が多い通信課程ならではといえるでしょう。これが、新しい学習の形として定着するのではないかと期待しています」（杉原氏）
|
|
eラーニングならではの学習効果を得られる科目を模索
|
iNet Campusは3年目を迎えた。00年度の開講科目数はiNet授業1科目、iNetゼミ2科目の計3科目だったが、02年度はiNet授業6科目、iNetゼミ9科目と大幅に増やした。また、受講者数は01年度で延べ654人（図表）、02年度は約1000人となっている。システムの維持のため、01年度以降は受講料を徴収しているが、別途費用を払ってでも新しい形態の授業を受けたいという学生が存在する表れだろう。
しかし、杉原氏は「当初、受講生は通信教育課程全学生の3割ほどになるのではと予想していました。しかし、現在は1割程度です。今後も急激に受講者数を伸ばすという方向でなく、学生がニーズに応じて学習形態を使い分けていくのではないでしょうか」と言う。印刷物のテキストは持ち運びに便利だったり書き込みができたりと、紙ならではの良さがある。学生にとって、eラーニングはあくまで授業形態の選択肢の一つであり、今までの授業に取って代わるということはないと強調する。
「教員も職員も、そして学生も、eラーニングにどのようなメリットがあるのか、どのように進めるのがベストなのか、試行錯誤を続けているという現状です。また、ブロードバンドなど高速通信の環境によっても、eラーニングの将来は変化していくでしょう。eラーニングの形態はまだ確立されていませんから、まだまだ工夫の余地があると考えています」（杉原氏）
インターネットだからこそ学習効果を得られるテーマとは何か。直接話を聞くのではなく、ビデオの方が学習効果が得られるのはどの教員の何の科目か。いろいろな授業を行い、またスクーリングと同じ科目を開講して比較をしながら、試行錯誤していきたいと杉原氏は語る。教員の中にはインターネットに詳しくない者もいる。しかし、iNet
Campusにマッチすると考えられる科目は、教員に理解と協力を働きかけ、授業の運営が多少大変であっても実施していきたいと考えている。
|
|
＞トップへもどる
＞大学・短大トップへもどる
＞バックナンバー |
