【FD遠近法３】FDがうながす大学のレゾンデートル Between 2002.12

Between 2002.12
深化するFD

【FD遠近法3】

FDがうながす大学のレゾンデートル

大学のミッションと世間の評価

　FDや大学改革の動きの中からユニークな成功例が現れつつある。しかし、他大学の成功例をそのまま踏襲してもうまくいかないことも見えてきた。FDや大学改革は明らかに第二、第三段階に入ってきた。
　個々の大学が自身のポジションをどのように見いだすか、大学の「社会的ミッション」と「社会的認知」との一致が必要な段階になっている。その背景がおぼろげに見えてきたので述べてみたい。
　大学を大まかに類別しよう。まず、研究型大学と教育型大学が考えられる。
・研究型大学…研究を重視し、教育は研究のために行うという位置づけの大学。
・教育型大学…教育そのものを重視し、市民教育から資格教育までその内容はさまざまで、多くの大学はこれに該当する。
　一方で違う類別も考えられる。
・伝統型大学…保守的大学観、固定的社会観をもつ層に支持される傾向がある。難関大学ばかりでなく、中堅大学にも伝統型大学色の強い大学がある。
・新設大学・新設学部（伝統型大学の新設学部も含む）…脱偏差値時代のユニークな大学で、社会は変動するという世界観をもつ層に支持される傾向がある。
　このような類別の下で、大学は個性をPRしている。研究型大学はCOEという大学評価に応え、大学院教育の充実でレゾンデートル（存在理由）を保ち、アピールしようとする。また、教育型大学は、脱偏差値の個性的な教育、学生満足度を重視し、卒業後の就職率などをアピールしている。
　一方、伝統型大学は経営母体に依存し、同窓会やOBの社会的ネットワークで凝集して存在を誇示する。新設大学・新設学部（伝統型大学の新設学部も含む）は、従来にない大学像を打ち出して社会にアピールしている。
　もちろんこの類別にぴったり色分けされる大学はほとんどなく、実際はクロスオーバーしている。

ゆるやかな教育制度の組み替え

　文科省による研究費重点配分、大学教育の機能強化、大学院重点化政策は、日本全体の教育制度のゆるやかな組み替えを促している。つまり中等教育（中学3年間・高校3年間）と高等教育（大学4年間・大学院前期2年間、後期3年間）の将来のおぼろげな再編イメージが浮かび上がっている。
　COEによって研究が評価される大学が明瞭になるにつれ、これらの大学への進学を目的にした6年一貫教育を行う中等教育の再編が一部で始まっている。その典型例が都立高校を区立中学校と合併して6年一貫教育校にする動きなどだ。中高一貫教育という路線の先に大学・大学院一貫教育という高等教育の姿が見えている。研究者養成、高度な専門職業人養成という方向性だ。法科大学院構想も後者に入る。
　一方、多くの私立大学が注目しているのが、中等教育のうち中学校の3年間はそのままにして、高校3年間と大学4年間（あるいは短大2年間）の連結を強化するという手法だ。高大連携といわれ、高校と大学がより密接に提携することによって両者にメリットがあると考えられている。この動きは教育を重視する大学に多く、またニーズも大きいと考えられている。

固有のミッションを意識した取り組みへ

　この「将来のおぼろげな再編イメージ」の中で、「わが大学」が中等教育と高等教育のどこにポジションを取るか、あるいは社会的に認知・評価されるかが大きな関心事になってきた。
　いまやFD活動は、どの大学の内容も変わり映えしない活動の時代から、それぞれの大学が、近い将来の現実的なポジションを意識したものへとならざるを得ない。
　例えば高校生対象の体験授業やキャンパス体験も、その大学が研究で認知される大学なら、対象の高校生も専門分野への関心が高く「第一流の世界的研究者から直接講義を受けたいという要求に沿ったもの」となるはずであり、高校生が大学を体験するためのものであるなら、「施設見学やキャンパス体験などをメーンにしたもの」でないと、来校者の期待を裏切ることになる。
　他の大学で実施しているからうちの大学もやろうというのでは、逆効果になりかねない。ゴールを設定しないで戦略を立てて実行しても、意味がない時代になった。

（矢内秋生）

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