Between 2003.01・02
特集 地域貢献の新しいかたち

【Keyword】 地域協働を仕掛ける
ぎふまちづくりセンター(岐阜大学ほか)


 地域活性化のための組織「ぎふまちづくりセンター」は、大学・行政・企業が連携して運営している。それぞれの組織から独立した「場」を提供することで、住民による主体的な「町づくり」を促すという地域協働を仕掛け、成果を上げている。



企業・行政色を出さない組織づくり

 岐阜駅前から続く繁華街の中心部に「ぎふまちづくりセンター」はある。このスペースは十六銀行が提供しており、同銀行のATMコーナーに隣接した事務所と大小の会議室が4室置かれている。
 同センターでは、意見交換会やシンポジウムを企画、会報も発行している。さらに市民活動をしたいと考えているグループの立ち上げを支援するための資料や情報、ノウハウを提供している。
 同センターの発足のきっかけは1997年の岐阜大学地域科学部新設までさかのぼる。
 「地域科学部では、地域の活性化に大学の学問がどうかかわれるかを模索していました。当時は、地方分権一括法制定に向けた動きが活発化し、NPOによる住民参加型の組織が注目され始めたころで、岐阜の行政や地元企業も、地域が元気になるにはどうしたらいいかをそれぞれの立場で考えていたのです」と、同センター理事長を務める岐阜大学地域科学部の西村貢教授は当時を振り返る。
 そこで、同大学同学部の教授たちがまず手を携えたのは、地方銀行の十六銀行だった。同行から資金的、人的な協力を得て、99年11月に「地域活性化研究会」を発足。同研究会で議論を重ねていくうちに、「町づくり」のためには意欲のある企業・行政・学識経験者、さらに住民一人ひとりが自由に参画できる「場」としての組織や施設が必要だという共通認識ができた。
 銀行にとっても、顧客の地元企業や商店街の地盤沈下は大きな問題だった。「長期的な展望に立って地域を底上げすることは、銀行側にとっても大きなメリットになると考え、まちづくりセンター実現に向けて全面的に協力することにしたのです」と、同研究会の主要メンバーの一人、十六銀行地域振興部の村松肇部長は語る。
 一方、岐阜市にも、行政として独自に地域活性化の拠点となる場を作りたいという構想があった。しかし、行政主導型の組織には地域住民の積極的参加が期待できないとの懸念があった。その後00年11月に、同研究会は岐阜県および同市と商工会議所に、同センター設立の構想を説明し協力を依頼。大学教員がリーダーシップを取ることで、行政色も企業色も出さずに自立性、独自性がある組織を作ることが可能となった。
 こうして三者三様の思いがリンクした形で、01年4月、地域活性化策を提案・実践する場の構築を目的とし、学識経験者・企業・行政が協働する全国に先駆けた会員制の組織「ぎふまちづくりセンター」が動き出した。
 町づくりに関心のある地域住民は、3000円の年会費を払って個人会員になることができる。


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▲ぎふまちづくりセンター入口



住民主体で行われる意見交換

 同センターの運営は、常勤する石田明靖事務局長が取り仕切っている。石田事務局長は小学校校長として長年、教育の現場に携わった後、市の教育委員を務め、生涯学習のエキスパートとして岐阜の教育界では有名人で、地域住民にとっても心強い存在だ。
 「岐阜には、なんとか自分たちの街を魅力的で住みやすい街にしたい、そのためには、このままではいけないと考えている住民が多くいます。そういう思いを抱いた人たちに必要なのは、情報とネットワークです」と石田事務局長。
 地域住民は同センターに行けば、「考えていることを実現するためにどうすればよいか」「資金集めはどうするのか」「組織をNPOとして法人化するにはどうするのか」といった情報が得られ、仲間や協力者に出会うこともできる。また、同じような活動をしている市民グループを紹介する、アンケート調査を行う際などにそのテーマが専門の大学教員を紹介するなどのコーディネートもしてもらえるという。  町づくりへの参加手段として重要視されているのが意見交換を行う「サロン」と「ワークショップ」だ。
 サロンは短期的なテーマに基づいた話し合い、ワークショップはある一つのテーマを継続的に深めていくスタイルをとる。センター開設当時に比べると、住民が自主的に運営するサロンやワークショップが増えてきたという。
 テーマの例を挙げると、「子育て支援を考える」「これからの里山活動」「地域通貨の可能性」「市民と行政の役割分担」など。それぞれに参加しているメンバーの立場や年齢、性別はさまざまだ。ワークショップやサロンには会員でなくても参加できるので、興味のあるテーマにふらっと参加する人もいる。繁華街の中に会場があるので、平日の夜に開催される企画には、社会人が参加しやすい。
 個人的にいくつかのサロンに参加しているという同市総合企画部の伊藤彰啓課長補佐は、「行政の立場から離れ、一市民として考えていることを自由に発言できます。同時にいろいろな立場にある人の生の意見を聞くことができるので、自分の視野を広げ、それを仕事に生かせるという意味で非常に意義のある場となっています」と、独立した「場」のメリットを指摘する。
 発足当初は個人会員137人、法人会員25組でスタートした。この中には岐阜大学をはじめ、岐阜聖徳学園大学、朝日大学、岐阜女子大学、岐阜経済大学、岐阜女子短大の岐阜県内6大学が個人や法人会員となっている。発足後の01年9月には個人会員数が300人を超えた。  「大学の教員が数多く参加している会ということで、『行政からも企業からも中立の立場』と住民が認識しています。サロンやワークショップも先生方の協力により内容の濃いものになっています」と、石田事務局長は大学との協働のメリットを強調する。


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▲11月28日に行われたサロン「行政と市民の役割分担」の様子



大学教員のフィールドワーク拠点


 企業や行政と連携して町づくりを行うことは、大学にも大きなメリットとなっている。
 「住民アンケートの実施やヒアリング調査など、大学教員にとっては、自ら行う研究のフィールドワークの場として地域の協力が得られることは利点」(西村教授)。さらに学生にとっては、個人の成長を促す社会勉強の場にもなるという。
 実際に学生主体で動き出している取り組みもある。01年7月に行われたシンポジウムに参加した学生が、その後の活動を継続していくために、大学間にまたがった組織「学生まちネット」を発足。定期的に会合を持ち、行政や商店街、地元団体から学生の参加を要請するさまざまな企画の持ち寄りが続いている。
 さらに、まちづくりセンターのサロンやシンポジウムを通じて、いくつかの住民グループがNPO設立に向けて動き出している。そうなると、いずれ同センターは政策提案をしたり、市民活動を支援する活動が中心となると西村教授は言う。
 「地域を活性化させる活動を行う核となる人材が育ったら、まちづくりセンターは、その人たちが作った組織の連絡協議会的な役割を担うことになるでしょう」。住民の活動拠点としてスタッフの予想を超えたスピードで育ちつつある町づくりの芽。住民主導で動き出している取り組みに注目したい。


図表

* ぎふまちづくりセンターのホームページはhttp://www.gifumati.com/


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