|
金沢大学は、文部科学省の2002年度地域貢献特別支援事業に採択された。自治体とのパイプ役として国立大学初の「地域貢献コーディネーター」を導入したり、中心市街地活性化に向けた文化創造拠点の運営を学生に担ってもらうなど、ユニークな発想による地域貢献に取り組んでいる。
|
 |
自然環境の開放などで実績
|
地域貢献特別支援事業としての採択は昨年8月に決まり、7420万円の助成を得た。応募を前にした5月、学内に中村信一副学長を室長とする地域貢献推進室を設置、さらに石川県、金沢市との連絡協議会も設けた。現在は両機関を軸に、生涯学習、医療・福祉、高大連携、地域の課題解決などの分野で計10事業を展開している。
これらは、同大学がここ2、3年間続けてきた取り組みを拡充し、六つの新規事業を加える形で構成。すでに実績のある「角間の里山自然学校」では県、「金沢大学サテライト・プラザ」では市とそれぞれ連携している。
前者は、角間キャンパス周辺の豊かな自然環境を地域に開放し、さまざまな体験学習プログラムを開発・提供するというもの。これまで教員有志で続けてきた活動に全学を挙げて取り組み、本格的な里山保全につなげたい考えだ。一方、サテライトは市街地にある市の施設を活用し、市内と周辺地域の高等教育機関の情報をパンフレットやインターネットで提供している。ここで週末に開いている公開講座を、今後は、テレビ会議システムを使って県内各地で受講できるようにする予定だ。
|
|
県庁勤務経験者を採用
|
新規事業の目玉として打ち出している地域貢献コーディネーターの導入は、自治体との連携を強化し、情報収集や特色ある事業の企画・立案を担ってもらうことが目的。地域貢献推進室主任と連絡協議会会長を兼ねる同大学の松坂浩史総務課長は、「大学の教員と職員の発想や思考にはどうしても交わりにくい部分があり、それが全学的な活動をする上での障壁になりがち。そこで、双方の考え方をよく理解して調整し、外部との連携も円滑に進められる人材が必要だと考えました」と説明する。
公募で専任コーディネーターに選ばれ02年11月から地域貢献推進室に勤務している水野昭憲氏（56）は、動物生態学の専門家で、京都大学大学院修士課程を経て金沢大学大学院で博士号を取得。石川県の職員として25年間の勤務経験があり、県庁自然保護課では白山自然保護センターの設立などを担当。さらに、国際協力事業団（JICA）からの派遣で、エチオピアやマレーシアにおける野生動物の保護管理、国立公園整備に従事するなど、海外での活動歴が通算8年に上る。同大学が金沢城内から現在の角間キャンパスに移転する際の環境アセスメントに参加した縁で、里山自然学校の活動にもかかわった。
研究者的発想と行政的発想のバランス、県や市町村とのネットワーク、学内の研究者との連携実績、環境保護という専門分野、国際貢献の実績などを兼ね備える水野氏は、同大学にとって「願ってもいない人材」（松坂課長）だという。今後は水野氏を中心にして地域のニーズを掘り起こし、学内のシーズとのマッチングによる新たな事業を検討していく。
同氏は「とかく大学は外から見えにくい世界。お城を出て山に移った金沢大学は、特にお高いところというイメージがあるので、もっと市民に開かれ、親しんでもらえる大学にしていきたい。官と学の連携を担いつつも、実質的には民に対する働きかけが私の仕事だと思います」。県内では、行政のお膳立てに乗ってボランティアが活動するケースが多いことを指摘し、今後の事業について「福祉や環境問題を担うNPOやNGOを育てる仕掛けを考えたい。市民の中にリーダーを養成して地域活力を向上させることが、真の貢献になるはずです」と、抱負を話す。
|
地域貢献コーディネーター 水野昭憲氏
|
|
空洞化が進む市街地に若者を
|
同大学の地域貢献メニューの中でもう一つ特徴的なのが、学生主導による「香林坊ハーバー」の運営だ。市街地で閉鎖された映画館を金沢市が借り上げて改装、同大学、金沢美術工芸大学、金沢工業大学の学生が中心になって、さまざまなイベントを企画、実施している。金沢大学は音響機器を整備し、広報などソフト面で学生を支援する。02年10月のオープン以来、講演会やコンサート、映画上映会などを行い、新しい情報発信基地として注目を集めている。
背景には、空洞化が進む市街地を再興させたいという市側のニーズがある。金沢大学が郊外に移転したのに続いて、県庁も03年1月には再開発が進む金沢駅西側に移転、来庁者を含め約5000人が市街地から流出することになる。映画館の閉鎖も空洞化の影響を受けたものだ。地域貢献推進室の上口大介氏は「若者が集まることで、町ににぎわいが生まれる。スポンサー集めで学生が企業をまわるときにも、大学の支援を受けていると説明すると、信頼感が全然違うようです」と話す。
「子育て支援システムの構築」も、保育と教育の連携を図る市の施策に協力する事業だ。市では03年度に子育て支援のためのセンターを開設する予定で、そこに同大学の専門家グループを派遣する。保育士が子どもの世話をしている間、児童心理や保健・医療などの専門家が親の相談に乗るという。
「加賀百万石の歴史と伝統文化、工芸」を掲げる事業「金沢学への招待」は、東京など都会から留学生や日本人学生を招き、金沢独自の文化に関する講座を開き、PRしようというもの。
学内の人材を市民に積極的に活用してもらえるよう、「人的資源のデータベース化による情報発信」も進めている。教員に、講演で協力できるテーマを出してもらい、インターネットで発信する。登録を呼びかけたところ、1100人いる教員のうちこれまでに4分の1が応じたという。
また、県、市の教育委員会とは、教員や大学院生による出前授業などの高大連携をはじめとする「初等中等教育支援」にも取り組む。この中で、県版のスーパーサイエンスハイスクールを整備する構想も浮上している。
このほか総合学習に協力する「小・中・高校生のための『国際理解教育』への外国人留学生派遣」、産官学連携を図る「『地域と金沢大学』加賀・能登タウンミーティング」などの事業も進めている。
|
|
押し付け、受け身でない貢献
|
一方、今年度採択された15大学相互の情報交換を図ろうと、同大学が呼びかけて「国立大学地域貢献ネットワーク（仮称）」のメーリングリストも作った。
これらの事業を本格的な「果実」につなげるため、03年度以降もより積極的な展開を図りたい、というのが地域貢献推進室の考えだ。まずは、2年連続の採択を目指して着実な成果を上げつつ、より斬新な事業の立案に向けて知恵を絞ることになる。「大学の発想を地域に押し付けるのではなく、かといってプロポーザルを待つ消極的な姿勢でもない、バランスのとれた関係の中で地域貢献を考えていきたい」と松坂課長。
同大学の学生のうち石川・福井・富山の北陸3県の出身者が占める割合は、02年度で43％。地域密着を進める一方で都会の若者へのアピールも図る取り組みは、この数字をどう変えるのだろうか。独立行政法人化によって高等教育地図が描き替えられる可能性もある中、地方大学の地域貢献が新しい地図にどんな影響をもたらすのか、注目される。
|
＊金沢大学地域貢献推進室のホームページはhttp://www.ad.kanazawa-u.ac.jp/ad_chiiki/index.htm
|
＞トップへもどる
＞大学・短大トップへもどる
＞バックナンバー
|
