Between 2003.03 特集　新増設と改組転換の戦略
大学・短大への志願者の減少が予測される中で、2003年度も多くの新設大学・学部・学科が誕生する。そこで、本特集では前半を「2003年度新増設・改組転換編」とし、03年度の状況を概観、特徴的な新設・改組転換の大学事例をレポートする。 　後半は、「1998〜2002年度新増設・改組転換編」とし、開設以来志願倍率3.0以上を保っている大学（進研アド調査）から、新増設・改組転換の成功要因を探っていく。
【寄 稿】 文学部の改革ラッシュに続き 経済学部でも改革によるスリム化の兆し 2003年度　新設大学・学部・学科改組転換の傾向
教育ジャーナリスト 豊島　継男
女子受験生にアピールする学部・学科が志願者増に影響 　2003年度の大学・学部・学科の新増設計画は02年4月末までに文部科学省に申請された15大学の新設、21大学23学部の設置が同年5月16日に大学設置・学校法人審議会に諮問され、同年12月11日に設置を可とする答申が出された。さらに02年度中に5回、大学からの学部・学科の新設、改組転換の申請を受けて、5月・7月・10月・12月に同審議会より設置を可とする答申を得た。その結果、03年度は公私立大を含めて新設大学は15校、新設・改組学部は35学部、新たに誕生した学科・課程は71学科・1課程となった。定員の増加は5533人である（公私立大学定員変更分も含む。4年制大学のみ）。 　この数は前年度の新設と比べて著しく増加したというほどではない。しかし、一方では志願者の減少が予測される中での新設、学部の改組転換である （図表1）。 　どうしてこうした現象が起こるのか。その原因を探りながら03年度の新設学部・学科の特徴を考えてみよう。 　既設の大学で学部・学科が新しく生まれるには、まず大学の内部に改革の機運が高まっていることが必要である。91年の大学設置基準の大綱化以降、大学は数回にわたり改革を行ってきたが、それでも従来の学部の体制では新しい研究領域・研究体制に適応できなくなっている。従って、これまでの数回に及ぶ改革にもまして現在は大学改革の機運が高まっているといえよう。それは学部の改革ばかりでなく、大学院までも視野に入れた改革である。 　こうした内部からの改革の機運と共に、外的な条件として受験生数の減少が新設計画に拍車をかけている。減少する受験生を巡って大学間に激しい受験生獲得競争が起こっているからである。大学の新しい一面をアピールして多くの受験生の注目を集めること。それが大学サバイバルの一つの大きな方策として打ち出されていることも確かである。 　受験生の出願を促そうとすれば、関心が向けられる分野の学部・学科を増やそうとするのは当然である。それは特に女子受験生の関心を持つ分野に絞られていく。今回の新設に限らず、心理学関係の学部・学科の新設は多分に女子の受験志向が意識されているようだ。社会福祉・環境・バイオ関連の学部学科でも、その傾向が強いといえそうだ。 　さらに女子受験生の間に起こっている短大回避の傾向は4年制大学の新設、学部・学科増設に強い推進力を与えている。文科省は現在、大学の定員を増加する政策を取っていない。学部・学科の新設も既設の定員の中で行うことを原則としているが、併設の短大の定員を充当して新学部・学科が作られるケースが多く、それは4年制大学の定員増加につながっていく。もちろんその分だけ短大の定員は減少するが、それによって短大の入学競争率が上昇しているわけではない。人気の後退している短大を4年制大学の学部・学科に改造することにより、短大が持っていた学科の研究領域を受験生に再認識してもらう。そんな動きがここ数年の新増設学部・学科に表れていることは既に指摘されている。 技術を習得する学部や健康・福祉系の学部が多く誕生 　それでは具体的に、今回の新増設の状況を大学・学部・学科（課程）別に眺めてみよう。 　公立大学を含めた15の新設大学の中で、短大を母体としているところが13校ある。短大時代に持っていた学科の延長線上に新学部・学科を作っている場合が多い。その中にあって、長浜バイオ大学（滋賀県長浜市）と健康科学大学（山梨県河口湖町）は新しい法人が設立を準備した。バイオといい健康といい、これから大学の新研究分野として注目される。 　また、東大阪大学が立ち上げた「こども学部」も新しい視点が感じられる。幼児教育学科を短大に持っているが、ユニークなネーミングで新しい研究教育活動が展開されるものと期待される。 　既設の大学に新しく35の新学部が創設されたが、その他に新大学に16の学部があるから全部で51学部の誕生である。 　新学部でまず目に付くのは技術を習得させる分野である。医療技術・看護・鍼灸などで、この系統の学部名称はそれぞれに工夫があるが、技術に裏打ちされ、人間を見つめる目を養おうとする点が共通する。さらに薬学部は2校に新設。その中の1校は文学部のみの就実女子大学で、大学名も就実大学と改め共学の薬学部を作った。大学が大きな転換を図った例といえる（詳細はこちら）。 　次に目に付くのは健康と福祉に関連した学部である。総合福祉（浦和大学）・健康福祉（大阪体育大学・関西福祉科学大学）・福祉経営（日本福祉大学）・健康科学（健康科学大学・畿央大学）・健康栄養（南九州大学）などの学部である。いずれも複合した研究領域を持つ。さらにスポーツ科学部（早稲田大学）やスポーツ学部（びわこ成蹊スポーツ大学）もこの範囲に入れると、日本の現代社会がいかに福祉に大きな関心を持ち、健康に気を配り、それを増進するスポーツを日常生活に取り入れていこうとしているかが分かる。 　人間をトータルに捉えようとする動きも目立つ。それは人間学部（清泉女学院大学・聖泉大学・名城大学・南大阪大学）・人間社会学部（昭和女子大学）などに表れている。人間の活動を生涯学習という長いスパンで研究しようとするキャリアデザイン学部（法政大学）もこの中に入れてよいかもしれない。 　また、従来にない新しい学部名を付けたり、新分野を切り開いていこうとするユニークな学部も見られる。先に挙げたこども学部、愛知学院大学の心身科学部などは新名称学部だ。キャリアデザイン学部（法政大学）、バイオニクス学部とコンピュータサイエンス学部（東京工科大学）などの片仮名名称は、研究領域を複合したもので、次第に受験生に馴染んできたといえよう。知的財産学部（大阪工業大学）も本邦初の学部名称だが、新しい科学技術の開発と共に特許申請にからむ様々な問題が生じ、学問的にも研究されていかなければならない分野だろう。これは社会的な要請に基づくものといえよう。 学科の統合・再編をカリキュラム改革と同時に行う 　新学部については、改組転換についても考えておかなければならない。これは既設の学科を廃して新しい学科を設置するので新学科誕生とも考えられるが、今回は、学部名称を変えずに、内容、構成を見直して新学部として再出発しているケースが目立つ。 　千葉工業大学の工学部ではこれまでの9学科を5学科に再編成し学科の名称も一新した。現代の工学は単に作る技術だけではなく、うまく使う技術が重要視されてきている。同大学では専門分野の知識に加えて、学際領域の知識も学べるような新しい仕組みを考えている。受験生は学科が少ない分だけ選択がしやすい。早稲田大学の人間科学部もこれまでのスポーツ部門の学科を新学部として独立させ、新たに人間環境科学・人間情報科学・健康福祉科学の3学科でスタートする（詳細はこちら）。 　さらにドラスティックな改革を行ったのは関西学院大学文学部だ。文学部といえば英文学・日本文学・フランス文学・哲学・心理学などの学科がずらりと並んでいるのが普通で、ここでも02年度までは9学科4専攻を擁していた。それが新年度から、文化歴史学科・文学言語学科・総合心理学科の3学科に統合される。その中に、従来あった学科を基礎にする新たな専修を置く。こうした外形の変化とともに、カリキュラムも一新した。他学科の専門科目の選択を可能とし、広く横断的に学べるようにしている。こうした改革はすでに早稲田大学と慶應義塾大学の文学部で行われており、それが各大学に浸透しつつあることがうかがえる。大正大学・中京大学・帝塚山学院大学などの文学部も同様に新しい組織に変えた。天理大学は国際文化学部の11学科をアジア学科とヨーロッパ・アメリカ学科の二つに統合した。 　この他に学部の名称を変えたり、学科数を絞り込んだりと様々な変更を行っているところがあるが、これらはすべて従来の学部の在り方に対する反省が込められているものと思われる。 分野別学科数は心理・健康・経済系がトップ 　今回の学科新設は46大学50学部で71学科1課程だった。それに新設大学・新設学部の76学科を加えると、147学科1課程が誕生したことになる。これを分野別に分類すると図表2のようになる。 　学科数が最も多いのは名称に「心理」が付くもので、18学科（12.2％）あった。相変わらずの心理ブームである。この分野は特に女子受験生に人気があり、多くの大学がそれを意識している。同じく18学科ができた「健康・保健・栄養・食物」、さらにそれと関連した「スポーツ」分野は今年度の特色であろう。健康についての社会的な関心と、従来短大が持っていた学科の継続でこうした結果が出たのだろう。 　また、経済系の学科新設が多いのも注目すべき傾向だ。この系統は、受験生が減少し始めた93年以降志願者数が年々著しく減少していたことから、学部の立て直しの必要性が言われ続けていた。ここに来てようやく学部の再編成、新学科計画が出てきた。経営戦略・市場経営（法政大学経営学部）、総合経済政策（近畿大学経済学部）、地域経済（北海学園大学経済学部）などの学科が注目される。また一方で、学部新設の際、この系統の定員を削減して新学科に充てるところがみられる。経済系学部のスリム化を図っていると見ることができる。 　2番目に多かったのは前述した技術習得型の学科で、看護・医療技術・薬学など医療技術系の短大からの転換が多い。福祉系の人気も心理と同様でまだ高い。ここでは学科名に「福祉」が入っている学科を全部集計した。しかし福祉にも様々なアプローチがあって、学科名は多様化している。医療・福祉マネジメント（日本福祉大学）、人間福祉（文京学院大学・徳島文理大学）、健康福祉（早稲田大学・大阪体育大学）、総合福祉（浦和大学）、福祉情報（徳山大学）などである。 　人間・文化は、文学部の改組により文化の要素が加わってきているため、福祉よりも多い学科数になったと思われる。 　理工系では工学部改組によって、バイオ、コンピュータなどの名称が目立つ。環境関連学科は受験生の関心は高いが、今回の新増設ではそれほど多くない。メディア、コミュニケーションも意外に少ない。国際の分野は、他の分野との複合型として分散しているため、独立した分野に項目を立てることができなかった。それほどの学科にもグローバルな視点が加わっているのだろう。 　また、この表にあげた分野の多くは、数字の多少に関係なく受験生が関心を持っているところといえよう。 　最後に今年のユニーク学科をあげると次のようになる。本邦初の学科がほとんどである。 　アニメーション（東京工芸大学）、キャリアデザイン（法政大学）、現代教養（昭和女子大学）、リベラルアーツ（玉川大学）、知的財産（大阪工業大学）、デジタルゲーム（大阪電気通信大学）、こども（東大阪大学）、カルチュラル・マネジメント（四国学院大学）などである。 　これらの学科を眺めると、これからも大学では、研究分野の広がりに伴い、新しい学科がさらに増えていくと予想される。それが受験生の学ぶ意欲を刺激し、大学の活性化につながるとすれば、日本の文化を押し上げる力を生むことになるであろう。 早大・明大の04年度構想にこれからの新学部の特徴が表れる 　最後に、さらに先に視線を転じて04年度に開設を計画している新学部について触れてみたい。 　その中では、早稲田大学の国際教養学部立ち上げ構想に注目したい。早稲田大学では、大学の国際化、キャンパスの国際化を目指して大学改革が進んでいる。その中で国際教養学部では、グローバルに通用する人材の育成を図る。カリキュラムには、在学中に全学生に対し、1年間の海外協定校への留学を義務づけるという画期的な内容が含まれている。 　また明治大学は、情報コミュニケーション学部の開設を計画している。時代が求めるトップクラスの情報教育と異文化間の人間理解を深めるための外国語の習得を2本の柱とし、21世紀に対応した新しい人材育成を行う学部である。 　こうした新しい動きを見ると、今後考えられる新学部の特徴が見えてくる。それはおよそ、次のようにまとめられるだろう。 （1）国際化の要素をさらに強調し、カリキュラムの中で一定期間の海外留学を必修とする新学部・学科。 （2）コンピュータ部門の研究をさらに先端的に推し進めていく新学部・学科。 （3）ビジネススクール（経済系の高度専門職業人教育機関である大学院）開設を視野に入れた、経済系統の学部の再編成を含む新学部・学科。 （4）今年各大学から申請が出るロースクール（法科大学院）に直結する新法学部と新学科。合わせて政治学科の再編成。 （5）文学部・工学部など細分化された学科を持つ学部の再編成。 （6）文・人文・教育・文化・国際などに理系の要素も入れた、新しい形のリベラルアーツを考える新学部・学科。 　こうした様々な分野が複合的に混ざり合って、今後も多くの新学部・学科が登場するのであろう。 ＞トップへもどる ＞大学・短大トップへもどる ＞バックナンバー
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