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市をあげてバイオ特区を構想
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「日本は、アメリカに比べると生物学系の学生数が少ない。その差が、バイオテクノロジーの差に端的に表れています」。そう指摘するのは、同大学を設置する学校法人関西文理学園の吉田保理事長。地元では通称「カンブリ」で通っている同法人は、京都を地盤に予備校や各種専門学校を経営する。10年前、これも日本初というバイオ系専門学校「バイオカレッジ京都」を設立、数多くの人材を産業界に送り込んできた。
「しかし、2年間で養成できるのは中堅技術者まで。専門性が高く即戦力となる技術者・研究者を養成するには、4年間の大学教育が必要だと考えました」。バイオ系技術者教育で実績のある専門学校が、そのノウハウとネットワークを注ぎ込んで設立するのが長浜バイオ大学なのだ。
産業界と自治体からの強力なバックアップが、同大学の特色といえる。日本のバイオ産業がアメリカに遅れをとっている原因としては、技術力の低さや技術者の不足に加え、産学協同体制の弱さが指摘されている。そこで同大学では、産官学連携によって、実社会でのニーズの把握や研究成果のタイムリーな還元、人事交流などに力を入れる方向だ。
産業界のパートナーとなるのがタカラバイオ（株）。宝酒造（株）のグループ企業で、滋賀県大津市に本社があり、アジア最大のゲノム解析センターを有する。同社が資金面に加え、研究幹部を教員として送り込むなど全面的に支援する。官として協力する滋賀県と長浜市は、大学設置費用の2分の1を出資。残り半分のうち約1割が、バイオ系の企業をはじめとする民間企業からの出資である。
「長浜は大阪と名古屋のほぼ中央に位置し、北陸のバイオ系産業圏にも比較的近いというメリットがあります。緑豊かで琵琶湖の眺望が開けたロケーションは、高度な先端科学の研究・教育施設の立地として恵まれている」と吉田理事長。
中央に琵琶湖を抱く滋賀県では、産官学を挙げて環境保全による地域振興を図る一方で、医薬や化学、食品、農業、畜産など、多彩なバイオ関連企業が進出している。2001年7月には、産官学で組織する「びわこバイオ産業コンソーシアム」も発足、知事が会長を務めている。
その中にあって長浜市は、政府の構造改革特区構想の募集に「バイオ・ライフサイエンス先端医療特区」として名乗りをあげている。長浜バイオ大学を核にした「長浜サイエンスパーク」を整備するなど、バイオ研究と産業の一大拠点形成を構想。バイオパークの用地造成も終わり、企業や研究所の誘致を進めている。パーク内には市民公園も設け、大学を含め地域に開かれた施設にする方向だ。
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技術に加え生命倫理の教育も
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同大学は、バイオサイエンス学部バイオサイエンス学科の1学部1学科体制で、募集人員は約200人。大阪大学名誉教授で、学長に就任予定の下西康嗣氏は「一口にバイオと言っても、カバーする領域は医学・薬学・理学・工学・農学など多岐にわたります。従来の大学では、これらを各学部の縦割りで教育してきた。本学では単科大学の強みを生かし、知識や技術の横断的な習得を図ります」と説明する（図表1）。
全ての科目を半期で完結できるようセメスター制を採用。専門教育は1年次から開始され、遺伝子科学、分子科学、生物科学などの基礎実験がカリキュラムに組み込まれる。「これらバイオサイエンスの基礎・土台となる各分野について半年間ずつのローテーションを組み、徹底した実験・実習重視のカリキュラムで学んでもらいます」と下西氏。
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一方、一般教育科目では、バイオを切り口に、起業（ベンチャー）精神を養うための経営学、IT時代、グローバル化時代の研究者に必須のコンピュータ操作技術や英語力、プレゼンテーション能力などの向上を図る。
生命に関わる最先端科学は、常に倫理的な問題をはらんでいる。そのため、一般教育の中に「生命倫理」という科目を設け、従来の生物学や医学的な観点からはもちろん、宗教や法律の専門家も講師に迎え、「命の尊厳」に多角的にアプローチする。「高度な知識や技術と豊かな人間性を合わせ持つ『行動する思考人』を育成します」と下西氏。
3年次後期からは、五つの専門コースに分かれる。「遺伝子生命科学コース」「分子生命科学コース」「細胞生命科学コース」の三つは、生命を形作る物質のどのレベルを研究対象とするかという視点で分かれており、高度な専門知識や解析技術を持ち、医療や製薬、農業などの分野での応用開発ができる研究者養成を目指す。バイオとITを融合させたバイオインフォマティクス（生命情報工学）などを学ぶ「生命情報科学コース」は、ゲノム解読に不可欠の技術だが、人材不足が指摘されている分野である。環境先進県、琵琶湖畔という立地を生かした「環境生命科学コース」は、環境汚染に対するバイオテクノロジーが主テーマとなる。これらのうち2コースのカリキュラムを図表2に示す。
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教員の平均年齢は44歳
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下西氏は、「バイオテクノロジーは基礎科学とその応用、すなわち産業化の関係が密接です。そのため、学生が早くから具体的な目標を持てるようにしたい」と説明。3年次後期からのコース制もこれを具体化したもので、これに先立つ夏期休暇には希望者を対象に、協力企業で研究活動の現場に触れ、実務を体験するインターンシップ実習も行う。
就職については、「就職率98％を誇るバイオカレッジ京都でのネットワークと指導ノウハウが活用できる」と下西氏。
専任教員は31人で、一部をインターネット上で公募したところ、大手企業の研究者などから3000件のアクセスがあったという。教員の平均年齢は44歳で、70％が30～40歳台。最先端分野ということで、教員の若さが際立つ。
一方、出願も好調だという。1月下旬に締め切った一般入試前期日程では募集人員の20倍以上に達し、特に女子の関心の高さが目立っている。専門学校のバイオカレッジ京都との競合について聞くと、吉田理事長は「相乗効果で、こちらも過去最高の応募数になった」と答えた。北京大学やソウル大学、スタンフォード大学などとの提携を考えており、留学生の受け入れなども予定している。
完成年度には、大学院に加え大学付属研究所も開設する予定だという。長浜市の医療特区構想に加え、神戸では再生医療を軸とした「医療産業都市構想」、北大阪の「彩都＝バイオ創薬を中心とする国際文化公園都市構想」、京都の「バイオシティー構想」など、関西は今後、先端医療の一大拠点として歩むことになる。その中で、産官学連携を前面に打ち出す長浜バイオ大学にも期待が集まっている。
吉田理事長は「日本初でやることに意味がある」と強調する。法人自ら“ベンチャー精神”を掲げて設立する大学が、先進医療や経済活性化にどのような形で寄与するのか、注目される。
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