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成功するための五つの観点
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「最近はカタカナ名称や漢字四文字名称の新設学部学科が多くて、実際の教育の中身がよくわからない。そのため生徒には、できるかぎりオープンキャンパスなどの機会に実際に大学に行って自分の目で確かめてこいと指導している」。これは近年、高校教員が進路指導に関してよく口にする言葉である。高等教育機関への進学率が50％に近づこうとしている今、もはや偏差値による「入れる大学」探しよりも、「教育の中身」や「出口の実績」といったいわば「入ってからの付加価値」が、進路指導ではより重要視されるようになった。
しかし、その「教育の中身」が実はよくわからない。どの大学も個性的であろうと努力し、アピールすればするほど、ちまたでは新名称の学部学科が氾濫する。大学関係者にとっては当たり前の名称でも、受験生にとってあまりなじみがない場合、そこで何が学べるか想像がつきにくいために、結局は偏差値の高い有名大学ばかりに人気が集中するという皮肉な結果も出てきている。
このような状況のもとで新増設・改組転換の学部学科を成功させるポイントは、何を作るか、何が作れるか、どう作るか、いつ作るか、どうアピールするかという観点について外部からもわかるようにし、地元の支持が得られるように戦略的に組み立てていくことであろう。
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コンビニ型から専門店型へ
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（1）何を作るか…社会や地域のニーズに合った教育や付加価値が提示できないと志願者は集まらない。特に地域のニーズを知るためにはリサーチが欠かせない。アメリカで発展している大学などは、アドミッションズ・オフィスがリサーチ機能をきちんと発揮していると聞く。「このようなことが学べる学部学科が近隣にはないので、ぜひ作ってほしい」という要望が、むしろ地域の高校や社会の側からあがるような状況になってこそ、地域に根ざした安定的な形でスタートを切ることができる。初年度から志願者が集まらない学部学科は、すでに近隣に似たような学部学科が存在していたり、改組前とたいして中身が変わらないようなケースが多い。
また、これからの時代は18歳だけを対象にするのではなく、社会人のリカレント教育の機能ももつ内容に転換していくことが望ましい。そのためには、学部教育であっても昼夜開講制や完全セメスター制、科目等履修生制度の導入といった教育システムの整備も同時に進めておくことが大切であろう。
（2）何が作れるか…ここではいかに自大学の強みが生かせるかが重要な観点となる。多くの大学で失敗するのは、自大学の弱みを隠そうとして行う新増設・改組転換である。例えば定員割れを起こしたり、起こしかけている短大をそのまま4年制大学の学部として改組する事例があげられる。短大からの新増設・改組転換は、従来の短大の強みをより強化する形でないと成功することはなかなか難しいだろう。また、文科系学部などの一部の学科で定員割れを起こし、その対策として教養系の学部に再編するケースも同様であろう。こういった点について、新増設・改組転換を成功させてきた某大学のアドミニストレーターは、次のように語っている。「これからは、コンビニ型（ニーズに合わせてアイテムを取り揃える）から、専門店型（こだわるところをより強調する）の新増設・改組転換が成功する」。
また財政的に見て、中長期にわたりどれだけ盤石な形で運営できるかも重要なポイントだ。4年制大学の場合、完成年度を迎えるまでのランニングコストもかかる。場合によっては、専門職大学院も視野に入れた最低5年間は赤字でも乗り切れるだけの財政基盤が求められる。
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なるべく多くの教職員が参画できる環境づくりを
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（3）どう作るか…ここでのポイントは、はじめから教授会や学部長会・理事会まかせにしないことである。大きな方針はトップが決めても、どう作るかということは教職員全員が積極的に参画できるような環境づくりから始めなければ成功しない。そのためには、プロジェクトや委員会などを組織し、なるべく多くの教職員が関われるようにしながらアクションプランを練り上げていくことが重要である。職員が参加せずに完全に教授会まかせにしておくと、大学によっては教員同士の足の引っ張り合いが起こりかねず、速やかな意思決定が求められる局面でタイミングを逃すことも考えられる。また、新増設学部学科の売りとなる教員の招聘も、教授会まかせでは、自分たちの職域が侵されることを危惧してなかなか決まらないこともあるだろう。
また、どう作るかということを議論するにあたっては、学生の出口（就職、進学等）指導についても、4年間のストーリーをきっちりと作りこんでアピールできないと、志願者は集まらない。そのためにも企業や地域といった外部からの視点や意見も入れながら、それらの賛同が得られる教育カリキュラムを構成すべきである。
（4）いつ作るか…新増設・改組転換は、なるべくインパクトのあるタイミングで行うことがのぞましい。例えば、創立何十周年かのイベントに合わせて行うことで卒業生にも知ってもらい、寄付金などの協力を仰ぐことも考えられよう。
ただし、そうした周年事業まで待つことで逆にタイミングを逸してしまい、同様の学部学科を近隣の大学に先に作られてしまっては元も子もない。また、新増設・改組転換後も様々な改革を毎年のように繰り返し、アピールすることで、常に変革しているというイメージを定着させる工夫も必要となる。
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志願者増加の成功要因は学生の自主的協力
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（5）どうアピールするか…新増設・改組転換の学部学科は、3年目に志願者が減るというジンクスがある。初年度は設置認可が12月と遅いため、受験生の認知が広がらず振るわない結果に終わっても、2年目には広報に力を入れて志願者数が増えるのが一般的だ。しかし、3年目にはその反動が起きたり、近隣の大学に似たような学部学科ができて志願者が分散するなどして、また減ってしまう大学が多い。
このようなジンクスを突破するには、潜在的なマーケットをいかにきっちり動かせるかが重要なポイントとなる。言い換えれば、時流に流されるのではなく、常に安定的に志願者を確保するための方程式を持てるかどうかということである。もちろん、（1）で触れたように地域の高校や社会のニーズに沿って作られた学部学科であれば、入学した学生の満足度さえ維持できれば、全国的に同様の学部学科ができて遠方からの志願者が減ることはあっても、地元の志願者まで減り続けることはない。ただし大学には、地域の高校教員や生徒に対するリサーチを通して、自大学の強み・弱みを浮き彫りにして、改革の方向性に合わせて常に軌道修正する努力が求められる。そして、完成年度以降は卒業生の出口の成果もしっかりアピールすることが大切だ。
また、もう一つの重要なポイントは「初年次教育の充実」である。ここではさまざまな期待を抱いて入学した学生に、初年次でいかに期待以上の教育や付加価値を与えられるかが勝負となる。そのときのKFS（Key
Factor Success）は「学生と教員のコミュニケーション」である。この「学生と教員のコミュニケーション」を充実させるためには、できる限り少人数によるきめ細やかな教育が望まれる。このことについては、ベネッセ教育総研の調査でも、学生満足度が高い大学が力を入れてきた改革で最も多かったのは、「小人数教育」、ついで初年次教育の改革として行われることが多い「教養教育の改革」であったことからもうなずける（「教育改革と人材育成の方向性」1999年より）。
そして、この学生と教員のコミュニケーションがうまく機能して、教育内容そのものに学生が満足すれば、彼等の口コミが強力な広報ツールとなる。例えば高校では近年、「進路ガイダンス」などと称して、卒業生を招いて大学の中身についてじかに在校生に語ってもらうケースが多いと聞く。とりわけ新しい学部学科については、生徒や教員にとって中身のイメージが湧きにくいだけに、学生からの口コミの効果は絶大である。
また、本誌の連載「キーパーソンに聞く」でも法政大学の和田實一氏は、新設学部の学生が、教育内容の良さをアピールしたいと自ら申し出て協力したことを、志願者増加の成功要因としてあげている。
ちなみに、新しい学部学科の場合、アピールの対象が高校3年生からでは遅い。2年次の後半にオープンキャンパスや出張講義、学部ガイダンスなどを通して、なるべく接触の機会を増やし、イメージアップを図るよう広報活動をしっかり行う必要がある。
以上のポイントは、新増設・改組転換の学部学科に限っていえることではない。ただ、どのような大学・短大でも必ず存在理由があり、強みを持っているはずである。弱みはスクラップさせながら、強みをより生かす形で身の丈に合った改革を着実に実行していく勇気が、最も求められている。
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