Between 2003.03
深化するFD

【FD遠近法5】 「親密さと緊張のバランス」がもたらすICUのFD活動



FDで顕在化したこれまでの教育活動

 ICUといえば、緑あふれる広大な敷地に少数精鋭の学生と使命感を持つ教育熱心な教員がいて、教育環境の整った大学というイメージがある。そこには「大学を肯定的にとらえている学生」と「学生を好意的にとらえている教員」とがいる。お互いが知の共同体の構成員であるという意識を持つ大学であり、そこでFD活動に取り組めば成果が高いのは当然だろうという見方すらある。しかし、ICUの教育システムとFD活動はそのような皮相的なものではなかった。ICUのFD活動が近年注目されるようになったのは、「にわかに熱心に取り組みだした」からではない。
 ICUのリベラルアーツの理念と従来行っていた教育活動は、創立50周年を記念して相次いで刊行された報告書や図書、冊子などによってその姿が公表されている。それらの情報によって、ICUがこれまで地道に行ってきた教育活動が「FDというキーワードで収斂して」われわれ大学関係者に分かりやすくなったにすぎないのだ。



静から動への変革

 大学教育学会会長でもあるため、大学教育に関する様々な場面で見解を表明する機会が多い絹川学長は、ICUのリベラルアーツの特長を「行動するリベラルアーツ」という言葉で学内外に示している。
 リベラルアーツは思考と判断力に必要な知的能力を醸成することを目的としている。それは知識人のための教育であり、その育成にあたっては伝統的専門学術に基盤を置いている。
 しかしその実践は、21世紀の現在、大学がInternational(国際)、Christian(キリスト教精神)、University(学術)の理念のもとで社会的使命を果たそうとするとき、社会との積極的なコミットメントなくしては不可能だ。だからこそ絹川学長は「行動するリベラルアーツ」を標榜するのだ。
 こういった絹川学長の方針は大学内の研究機関を活性化することになり、大学教育の達成度を外から評価する役割にもなる。また、FDの名のもとで大学改革を教職員に顕在化して意識改革を促し、教育への凝集力を高めることになった。



親密さと緊張のバランス系

 ICUが行っているFD活動の一つひとつは、それぞれが周到に考え抜かれている。しかもそれが冊子などで明文化されている。シラバスの編集、導入基礎教育、オフィスアワーでの学生対応、授業評価アンケート、GPA制度等々。もしも他大学がICUのFD活動の「しくみ」を導入しようとすれば、明日からでも不可能ではない。しかし、「しくみ」だけをそのまま導入してもまったく機能しないであろうし、無意味だろう。
 FD活動の個々要素をいくら細かく解説しても、ICUでそれらがうまく機能し、教育の質を向上させている理由をとらえることはできない。これを解くカギのひとつが関係性だ。
 連鎖的な関係で述べてみよう。授業評価をするためには優れたシラバスが不可欠である。シラバスによって学生は内容と学び方の理解ができるし、教員も意図どおりの授業が行える。授業アンケートも意図どおりに実施できる。
 加えて、教育水準を落とさず学生に知的刺激を与えるためには、オフィスアワーなどでの学習支援体制をしっかり機能させることが重要だ。結果として学生は教員を信頼し、だからこそ「厳しい成績評価」も受け入れることができる。
 このような関係は「親密さと緊張のバランス系」をなしている。
 学生と教員が信頼関係と理想を共有した上での緊張関係が、ICUのFDを機能させているのだ。これはFD活動と呼ぶより、FD活動の各要素を関係性で機能させている「FD系」と呼ぶべきだ。他方これらの信頼関係や緊張関係のバランスがちょっとでも狂うと、機能麻痺が起こる。
 絹川学長は、この「信頼関係と緊張関係のバランス」をつかさどる手綱を、FD主任の動きを見ながら引き締めたり、緩めたりしている。そこに学長のリーダーシップに関する一つの要素を見ることができる。

(矢内秋生)


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