Between 2003.04
特集 大学評価のゆくえ

【Interview】 評価制度は大学が自らを律していくことが基本


高橋 宏治文部科学省高等教育局 高等教育企画課 大学評価専門官
高橋 宏治

 学校教育法の改正によって、すべての大学に認証評価機関による大学評価が義務づけられた。この制度が施行されることにより、大学に対する国のコントロールが強化されるのではないかと懸念する声も、大学関係者の間から聞こえてくる。果たして国はどのようなスタンスを取ろうとしているのだろうか。

 


国と大学はむしろ一線を画した関係に

――大学評価について、これまでどのような施策を行ってきたのでしょうか。
高橋 1991年に大学設置基準を改正し、教育・研究の質の改善・向上を目的に、大学の努力義務として自己点検・評価を制度化しました。そして99年に、自己点検・評価を義務化しました。同時に、評価結果に対する外部検証も努力義務として設定しました。
 そして02年には、評価の客観性・透明性をさらに高めるために、学校教育法の改正により、文部科学大臣の認証した評価機関による第三者評価を制度化したのです。ちなみに、認証評価機関については一定基準に達していれば株式会社であっても認めます。大学は複数ある評価機関の中から最低一つを選択し、定期的に評価を受けることになります。

――今回の第三者評価制度の義務化についてはこれまでの規制緩和策に逆行しているのではないかという声も聞きますが、どのように考えるべきでしょうか。
高橋 確かに「第三者評価を義務づけた」という部分だけを見ると規制が強まったと感じられるかもしれませんが、トータルとしてはむしろ国の直接の規制は弱まっています。この制度は、各大学が自己点検・評価した結果をもとに、自ら選んだ認証評価機関に評価してもらうという制度で、そこに国の関与は一切ありません。むしろ、これまで設置認可という形で国が直接関与していた状況を弾力化し、質の保証は大学の自主的・自律的な活動に委ね、国はそれをバックアップする方向に変えるものです。

――文部科学大臣が評価機関を認証するというシステムになっているため、文科省からの影響が強まるのではという懸念があるようです。
高橋 文部科学大臣の認証は、それによって評価権限を付与するたぐいのものではありません。適切な評価員が確保できるか、適切な評価基準を定めているか、財政基盤がしっかりしているかなどを見て、社会に対して、「ここならちゃんと大学評価ができますよ」という信頼感を与えるためのものです。評価機関の認証基準については中央教育審議会で議論が進められていて、途中経過についてもオープンになっています。
 いずれにせよ、評価員が何人必要、などの定量的な基準は設けず、評価機関として最低限必要な外形的基準にしたいと思っています。大学関係者による団体だけでなく株式会社の参入も排除していないのは、多様な認証評価機関があっていいと考えているからです。
 ちなみに、誤解が生じがちなので説明しておくと、「認証評価機関」とは、文部科学大臣が「認証」する「評価機関」という意味で、この点は法律でも明記されています。したがって、「評価機関」が大学を「認証」するということではありません。



評価結果を誰がどのように使うかは自由

――評価機関には評価結果を公表する義務がありますが、どこまで公表せよという基準はあるのでしょうか。
高橋
 認証評価機関が大学に通知した評価結果は、原則としてそれと同じ内容を社会に対しても公開する義務があります。その内容はそれぞれの機関の評価基準によるので、文科省から「最低、これについては公表しなさい」といった基準を設けることは考えていませんが、社会に対する説明責任を果たしているかどうかの観点から各評価機関でよく検討してほしいと思います。

――評価結果は私学助成金などの資源配分の判断材料になるのでしょうか。
高橋 評価結果を国が資源配分に直接リンクさせることはありません。これはいろいろなところで説明している点ですし、この場でも明言します。ただし、評価結果を誰がどのように使うかは自由なので、例えば特殊法人や財団法人など様々な資源配分機関が、その交付目的に照らして参考にする可能性がある、というのは否定できません。

――評価を実施するにあたって、一大学あたり平均で400万円ほどのコストがかかると聞きます。評価機関に対する国の援助は検討しないのでしょうか。
高橋 認証評価機関が評価料収入等により自律的に活動するのが原則です。ただし、わが国では大学評価がまだ一般に浸透していませんので、定着を促進するために何らかの支援ができないか国として検討しなくてはいけないでしょう。今年度予算では、大学評価の在り方の調査研究予算として3000万円ほど確保しており、04年度から認証評価機関となることを検討している団体に助成する予定です。

――国立大学についても同様の評価が課されるのでしょうか。
高橋 国立大学は全大学に義務づけられる認証評価と、新たに国立大学法人(仮称)として課される法人評価の両方を受けることになりますが、この両者の性質は違います。認証評価はそれぞれの大学の目的・目標に即した教育研究活動を行っているかどうかが評価の対象となります。一方、法人評価は業績評価なので、中期目標期間中に掲げた具体的な目標に対して、どれだけ達成しているかどうかが評価の対象となります。国立大学においても、認証評価のほうだけを取り上げて資源配分の資料とすることはありませんが、法人評価については運営費交付金等の資源配分の参考資料となります。



性善説が前提の制度で大学には自助努力を求める

――評価機関が複数できると、同じ評価項目でも評価結果にかなり差が出るケースも考えられます。中には甘い評価をしてくれる機関に頼る大学も出てくるのではないでしょうか。
高橋 大学を信頼するというのがこの制度の前提ですので、大学コミュニティの中で内部チェック機能を働かせてほしいですね。大学性善説に立った考え方と思われるかもしれませんが、甘い評価に満足して改革を怠る大学があれば、それは大学コミュニティや社会からの評価の中で排除されていくだろうと考えています。
 この評価制度がうまくいくかどうかは、社会が厳しい目で大学評価を監視してくれることが一つのポイントになっています。
 国としても、文部科学省のホームページで、各認証評価機関について、評価体制や評価方法などを紹介し、周知を図っていく考えです。

――将来的にはどの機関で評価を受けたかで大学のステータスが決まることになり、事実上のランキングをつくることになるかもしれませんね。
高橋 誤解を恐れずに言えば、それは歓迎すべきことだと思います。それだけ大学評価について社会の関心が高まったということですから。各大学が、社会の評価がより高い機関から評価を受けたいと思い、そのために自助努力をするのなら歓迎すべきことだと思います。
 われわれとしては、ここは教育活動を念入りに評価する、ここは管理・運営面の評価が徹底しているなど、それぞれの機関で特色を持ち、それに応じて大学が評価を受けるようになれば、さらに認証評価機関の存在意義が高まると考えています。

――評価機関から一定の評価基準に達していないと判断された大学が出た場合、国としてはどう対応しますか。
高橋 その評価結果を受けて国がすぐに対応するということはありません。ただし、大学設置基準を満たしていないおそれのある大学に対しては文科省自らが調査を行う予定です。そして、大学設置基準をも満たしていないことが確認された場合、改善勧告等の措置をすることになります。

――評価を義務化すると、意図的に評価を受けない大学については処罰を科すのでしょうか。
高橋 7年以内に少なくとも一度は評価を受けるように政令で定める考えです。なぜ評価申請できないのか確認した上で、改善勧告から始まる一連の改善処置を促すことになります。それまでにも、評価を受けていない大学がどこか、情報を公開していきます。

――行政としては大学評価をすることによって、大学にどのような変化を期待しているのでしょうか。
高橋 この制度は大学が自らを律していくことが基本になっています。大学の中だけに閉じこもらず、広い視野で客観的に自らの大学を見ていただいて、こういったところは改善していかなくてはならない、この特色はさらに伸ばしていこうといったことを、大学自身でよく考えていただきたいのです。その上で、大学の現在の状況、今後の方向性を社会にきちんと説明するという責任を果たしていただきたいと思います。


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