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形は似ていても中身は異質
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アメリカの大学評価システムの一つであるアクレディテーションとの比較を通じて、日本の大学評価問題を考えてみたい。
2002年の臨時国会で国が法案を提出、成立した学校教育法の改正によって、日本の大学は、国公私立にかかわらず、すべて「自己点検・評価」の実施と公表に加えて、国が認証した第三者機関（「認証評価機関」という）の第三者評価を受け、その結果を公表することが義務付けられることになった。
この法律の内容は、直接的には、02年8月の中教審答申「大学の質の保証に係わる新たな評価システムの構築について」等にもとづくものだが、この方針はすでに02年3月に小泉政権下で閣議決定された「規制改革推進3カ年計画（改定）」で打ち出されていた。
それは、「大学の教育研究水準の維持向上の観点から、設置認可を受けたすべての大学に一定期間に一度、継続的な第三者による評価認証（アクレディテーション）を受けてその結果を公表すること等を義務づけるなどの評価認証制度を導入する。あわせて、評価認証の結果、法令違反等の実態が明らかになった場合には、文部科学大臣が是正措置を講じることができることとする」というものであった。
したがって、学校教育法の改正はこの内容の骨子を強制力のある法律にしたものであることがわかる（ただし法律では「評価認証」という用語が「認証評価」に変わっている）。
ここで注意すべきことは、閣議決定の文言にわざわざ「アクレディテーション」という用語がカタカナで表記されていることである。これはまさに「評価認証」が外来の観念であることを示している。
アクレディテーションとは、本来大学の質を保証する評価システムとしてアメリカで独自に、100年以上にわたって発展してきたものである。しかし今日、この言葉は、アメリカをこえて世界各地にひろまっており、その内容の理解や定義、解釈もさまざまで、混乱や混同さえみられる。たとえば日本語の訳語でも「基準認定」「適格判定」「認証」等々多彩であり、ヨーロッパではオランダやドイツ等にも移入されたが、その意味は「設置認可」を表わす場合もある。
いずれにしても、これはアメリカにおけるアクレディテーションの本来の意味とは異なっている。その理由のひとつは外国の制度や経験が移入される場合には、往々にして形だけがとりいれられ、その形を形成している伝統や社会構造や精神のほうは、換骨奪胎されてしまうことが多いからであろう。
日本でもアクレディテーションを論ずるひとは多いが、その歴史を知り、実地にそのプロセスに参加した経験をもとに理解しているひとはどこまでいるだろうか。現実にはそれぞれ自分勝手な意味付けで使われていることが多いのではないか。
ちなみに、前述したように「規制改革推進3カ年計画」では、アクレディテーションという用語に「評価認証」という訳語があてられているが、原理的にはアメリカのアクレディテーションの意味とは隔たっている。なぜならば、この「評価認証」なるものを、あたかも国が民間機関の地位や資格を認可する制度のごとくに使っているからである。この点では中央教育審議会もまた同一線上の考え方に立っている。
たとえば02年4月の中間報告には、新たな第三者評価制度の導入にあたって「国による事前規制を最小限のものとし、事後チェック体制を整備するとの観点」を強調し、各大学が第三者評価を受ける方向を提示しながら、「国は、認証評価機関の認証に係る一定の基準（機関認証基準）を示し、認証申請のあった機関のうちこの基準を満たすものを認証する」として、国が大学評価機関の許認可権や基準の提示権までもつことを示している。
日本では、91年の大学設置基準の改定で大学評価が努力義務として制度化されて以来、大学自身が自律的に行う「自己点検・評価」と、当該大学以外の学外者のピュアレビューによる「外部評価」が実施されてきた。とくに99年に義務化された「自己点検・評価」は、アメリカのアクレディテーションにおけるプロセスのなかの「セルフスタディ」の部分だけをモデルとして採り入れられたものである。当時、筆者も大学基準協会の調査委員会でアメリカに派遣され、4日間にわたる実地調査にオブザーバーとして参加した。
このような「自己点検・評価」は、評価という課題にはじめて直面した多くの大学にとって、可能な限り学内からの反発なしに導入するために採用された面もある。実際、国や学外者が大学に介入してくるのではなく、大学側の自律性を尊重する「自己点検・評価」は、自治を主張する大学にとって反論しにくいものであった。
こうして取り入れられた「自己点検・評価」だが、導入の過程において、アクレディテーション全体のプロセスのなかでどのような役割を担っているのか、なぜ必要とされるのか、実地調査やピュアレビューとどのような関係にあるのか、その方法を支えている社会的基盤や条件とは何かといった問題について、正確な理解にもとづいて導入されたかどうかはきわめて疑問である。
アメリカにおけるアクレディテーションとは、一定の基準を満たした大学が自分の意志で結成した団体が、自分たちの形成した評価基準によって会員資格をみとめるといった、同業者団体による自己規制と質的保証の行為なのである。言い換えれば、第一義的には国の承認や認可行為とは関わりのない、むしろ国の介入を排するためにつくられた、ボランタリーな評価行為といえる。
日本の場合、評価を義務付けているという形はアメリカと同じだが、アメリカでのそれは国や法律によるのではなく、同業者の自己規制を基礎とした自主選択にもとづいているという点では本質的に異なっている。そもそも大学の自発的行為であるはずの自己評価が法令で強制されるということ自体が矛盾であり、なぜ評価を求められるのかという基本的な理由に対する疑問が残ることとなった。
そのため、全国の大学で「自己点検・評価」や「外部評価」の実施のために、莫大な人員、時間、費用が注がれたにもかかわらず、大学内部ですらその意味や意義が曖昧で、学外からは改善につながっていないといった批判が絶えなかった。
また、法的義務や文科省の指導を根拠にして評価をせざるを得ないといった受け身的な大学の対応にも問題があった。そのことが結果的には、今回の第三者評価の導入につながったといわざるを得ない。
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大学の生死を決めるのは広い意味での市場
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アメリカでは、各大学はみずからの任意でアクレディテーション団体を結成し、みずから基準や規則をつくり、一定期間のうちに（機関評価は10年、専門分野評価は5年が一般的である）評価を受けることを会員校に義務付けている。連邦政府はアクレディテーション団体の品質統制のための条件を法律によって要求し、その認定を受けた大学の学生には奨学金の受給資格を、教員には研究費の申請資格を認めている。
これも形のうえでは日本の認証評価制度に似ているようにみえる。しかしアメリカの場合、多くの既成のアクレディテーション機関にとっては、いわばこれまで100年近くにわたって営々と築いてきた評価の実績を、連邦政府があとになって利用しているのに過ぎない。アクレディテーションは国の資源配分と結びついているという論者もいるが、それはこの点を見落とした議論である。アクレディテーションに合格した大学だからといって、基本的には直接的な機関援助を受けとるわけではなく、その大学の属する学生や教員の受給資格を認めるに過ぎないからだ。
アクレディテーションはアメリカの固有な土壌から生まれた評価方式のひとつである。大学の設置認可には州政府が係わるが、この場合の国の設置認可とよばれる行為は、州によって程度は異なるものの、一般的に日本の場合と比べると、はるかに大綱的ないし形式的であるといってもよい。なかには届け出制に近いところさえある。それはある意味でライセンス（開設許可や免許）のようなもので、学校が非営利組織であるという条件を充たしていることだけを認めているに過ぎない場合が多い。つまり学校として開業してよいという仮免許をあたえるが、大学らしい、具体的には学位を出せる学校であるかどうかまで、州政府が保証しているわけではない。
この点で、同じ設置認可といっても日本のように、完成年度には一人前の大学になることを最初から予定して、その保証と責任を負わざるをえない厳しい認可とは実質的に異なっている。その大学の将来における質の保証の予定責任までも、設置認可の権限として背負わされていれば、認可時の審査が厳しくなるのは当然のことである。しかし近年の「事前規制」から「事後チェック」へという流れの法改正は、この意味ではアメリカ型への移行と言える。だからこそ「事後チェック」にあたるアクレディテーションが重視され、登場してきたのである。
アメリカでは、設置認可したあとは原則的には大学に干渉もしなければ助けもせず、一切の行為は学校の自主性に任される。それは基本的には、公立であれ私立であれ、大学はひとりで放りだされるということである。つまり、大学らしい（学位を出せる）実質をそなえた大学になるかどうかという質の保証に、州政府は直接的には責任を負わないのであり、それはまさに各大学の自律性と大学が結成したアクレディテーション団体（以下「基準協会」）の方に委ねられるわけである。
したがって設置認可を申請してきた大学がすでにアクレディテーションに合格している場合には、州政府の設置審査は無条件で認可される。つまり、大学の生死を決めるのは、公立大学であれ、私立大学であれ、ひとえに広い意味での市場である。
このような条件のもとで大学が質の保証や向上改善において頼りにするものが、大学同士が自弁で創ったボランタリー・アソシエーション（＊）としての基準協会なのである。日本の大学はたえず文科省の顔色をうかがっているが、アメリカの大学は国や州よりは基準協会に目を向ける。とくに大学を運営するためには、学生用の政府奨学金と研究者のための研究費補助金という二つの資金受給資格の取得が不可欠となる。そこにアクレディテーションと公的資金との間接的なリンクの関係が唯一の場面として成り立つ。
なぜならば、その大学が国が追認するアクレディテーション団体の基準に合格しなければ基本的な受給資格が得られないことになるからである。かくして不合格の大学は、事実上サバイバルが不可能になる。ここにアメリカ社会の厳しいアメとムチの構造がある。
もちろん設置認可が許容的であれば、いかがわしい学校やディグリーミル（学位販売業）がはびこることは不可避であり、この問題はもはやアメリカ国内にとどまらず、アメリカの大学の信用にもかかわる国際問題となっている。こうした状況のなかで、一定の基準を充たした大学だけが集まって質を保証する自発的結社を結成し、自分たちの大学の水準と信用を守ろうとする運動として、アクレディテーションが成立してきた。
その際、見落としてはならないのは、質の取り締まりを国に依存するのではなく、むしろ、そうした品質管理には国の介入を排し、自律的に同業の大学同士で行おうとしたことである。その根底には国に対する警戒と不信の念がある。言い換えれば、大学がみずからの手で自己の質の管理をなしえないのならば、国や外部勢力が高等教育の質の評価に介入してくる、という危機感が背景にあったというべきであろう。
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ボランタリー精神に反する外部勢力からの資金援助
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アクレディテーションは一面では排除の原則を前提にしている。つまり自分たちが定めた基準に達していない学校は会員資格を認めないか、場合によっては資格を取り消すこともある。なぜならアクレディテーションとは、字義通り、信用（クレディット）できる大学とできない大学とを判定することであり、その信用性を社会に保証する責任をもつということにほかならないからである。
したがってどんな大学でもすべて会員資格を認めるということは、評価をしないことに等しい。そこには、大学の質を保証するということは資格を満たさない学校に対しては入会を拒否し、その質の保証には一切責任を負わないという排除の論理が厳しく貫かれている。そしてアクレディットされない大学は、さまざまな社会的制裁を受け、不利な条件におかれ、その存続も危うくなるという意味で、アメリカ社会の厳しい評価と淘汰にさらされることになる。
また、アクレディテーションは非営利的性格であるとともに、その財政的基盤の自立性の確保をも意味し、その財政を他者に依存するのではなく、会員校の自己負担に負うという精神も持ち合わせている。
つまり一切の国や企業の援助を排して、自弁によって経営するボランタリズムの精神にもとづくのである。したがってアメリカのアクレディテーション団体は、国からは一切財政的支援を受けない。もし外部勢力からの資金援助をいささかでもうけるのであれば、それはボランタリズムの精神に反する行為であり、同時に自立と自律にたいする侵害になり得るからである。
同時に、これはアクレディテーションの評価の性格もあらわしており、判定はつねに合否・適否だけであって、会員校の評価の程度をグレード化したり、格付けないしはランク化したりすることはなく、基準を満たした学校はすべて同等の仲間とみなされるのである。ボランタリー・アソシエーションとは、志を同じくする者が自由・対等の資格で結成する結社である以上、それは当然の結果であろう。また、会員校の質を序列化したり、優劣をつけるというランキングとは、明らかに対立するものである。
それぞれの大学が自己のミッションや個性を教育目標としているのであれば、大学の外に一定のスタンダードを求めて、その尺度や指標を使って各学校の地位を順序化すること自体、不可能であるのみならず、無意味ということになる。
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精神を欠いた形は力にはならない
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日本ではいまや大学評価は、大学自身による「自己点検・評価」から当該大学以外の同僚や専門家から成る「外部評価」へ、さらには当事者たる大学とは独立した「第三者評価」へと進み、これによって資源配分と直結した評価システムへとその重点を移そうとしている。これはあきらかに大学自身の自立性や自治機能にもとづく自己革新能力に対する不信といわざるをえない。いわば大学は、「自己点検・評価」だけでは世間が納得しない、したがって大学以外の第三者に評価をゆだねるべきだとの不信任を突きつけられたようなものである。
これに対してすでに日本では、大学基準協会という民間組織が国公私大を、大学評価・学位授与機構という官の組織が、「第三者評価機関」として国立大学の評価を行ってきた。前者はアメリカのアクレディテーション・システムを日本で最も古くから採用した伝統を誇る組織であるが、50年の歴史の過程において、きわめて日本的な評価機関に変容してきた。アメリカのアクレディテーションの形は取り入れているが、その実質的機能や精神は必ずしもアメリカ的とはいえない面が多い。また後者は、そもそも資源配分や権力を行使する国の設立した機関が、当事者利害から離れた第三者であり得るか、客観的で公正な判断を下せる立場にあるかという問題がある。
さらにこれから生まれるであろうその他の第三者評価機関なるものが、新しい法律のもとでどのように成長していくかは、予断を許さない。なぜなら「第三者評価」だからといって「透明性」があり、「客観的」で「公正」で国民が納得できる大学評価が可能になるという保証はなく、あくまでも今後の課題だからである。なお筆者の属する私学高等教育研究所では私学を中心とした評価システム案をまとめている（私学高等教育研究所シリーズ14号、2003年2月）。
日本では官のお墨付きはありがたがられる。何かといっては国が主導権を握り、教育・研究という本来学校や専門職が判断すべきことにも口を出そうとする。国は第三者評価を各大学に義務化し、そのためにできる評価機関を認証したり、そのための財政援助をすらちらつかせている。また大学や評価機関の側も、国のお墨付きや補助金をもらいたいと考えている向きもあるようだ。評価という課題に充分な対応を示せず、大学評価の理論も方法も未熟で、信頼に足る評価機関も存在しない日本の大学の現状では、国がまず旗を振って「指導」に乗り出してくるのも止むを得ないのだろうか。
立法化された新しい大学評価制度には幾多の問題がある。すべての大学は定期的に自己点検・評価を行い、これを公表し、さらに国の認証を受けた第三者評価機関（「認証評価機関」）の「認証評価」を受けなければならない。これを拒否、または怠れば、「法令違反」に問われる。ここには大学が自律的に評価を行い、これを自己革新に結び付けていくという自立性は認められていない。認証評価機関は国の認証を受けなければならず、評価の結果を各大学や文部科学大臣に報告し、世間に公開しなければならない。適切でない評価結果とみなされれば、認証評価機関も法令違反に問われるのである。
つまり大学も認証評価機関も国や社会の目にさらされ、いわば監視されるのである。しかも第三者評価を受けなければ学生募集や資源配分に重大な影響が出る可能性がある。そこには大学を萎縮させかねない評価管理社会が出現するおそれが強い。しかもこうした第三者評価システムが日本の大学の質を向上させ、活性化することになり得るという保証は誰にもわからないのである。しかし日本はすでに法律という強力な制度化によってこの道を選んでしまったのである。もはやひきかえすことは不可能に近い。
ここで述べたいのは、同じ大学評価の問題でも、アメリカとの間には、考え方や精神において、また評価の目的や主体において、天と地くらいとでもいうべき隔たりがあるということである。形をまねることは可能であっても、その形を形成してきた精神までとりこむことは容易ではない。しかし、精神を欠いた形は力にはならない、ということもまた真実なのである。
| （＊）ボランタリー・アソシエーションとは自発的結社と訳され、「人々が自由・対等の資格で、かつ自由意志にもとづいてボランタリー（自発的）に共通目的のために結集する非営利・非政府の民主的共同組織」と定義される。また、ボランタリーとは「基本的には企業と国家の権力から自律して自己決定しうること」を意味する（佐藤慶幸『現代社会学講義』、有斐閣、1999）。
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早稲田大学教育学部特任教授 私学高等教育研究所主幹