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法制度化された第三者評価
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2002年の学校教育法の改正により、全大学が、国から認証された第三者評価機関（認証評価機関）による機関別の評価を受けることが義務化された。また、同時に制度化された専門職大学院についても、その教育研究活動の状況について認証機関による専門分野別の評価が義務付けられ、特に法科大学院では、関連の法律によって、適格認定が必須とされたのである。
これまで、日本の大学の質的保証は、国による設置認可と個々の大学の営為に委ねられてきた。第三者評価としては、戦後まもなくに設立された大学基準協会があり、近年には、短期大学基準協会、日本技術者教育認定機構、大学評価・学位授与機構が加わった。しかし、こうした第三者評価機関の評価は任意の行為であって、法的に強制されるものではなかった。これらの機関のうち法律（国立学校設置法）によって設置されている大学評価・学位授与機構にあっても、その評価は大学の設置者の要請によって行うもので、現在国立大学のすべてが対象となっているという事態は、法的なものではなく政策的なものなのである。
しかし、今後は、こうした第三者機関の評価が、法的な義務を負った制度の枠組みの中で実施されることになる。わが国の大学評価制度は、まさに画期的とも言うべき転換期を迎えているのである。
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大学評価・学位授与機構では新たな評価方式の検討を開始
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では、第三者評価機関とはどのようなものなのか。第三者評価機関としては、前述のものの他に日本私立大学協会が立ち上げを表明しており、また、民間のシンクタンクや受験産業界からの参入の可能性も言われている。法科大学院の認証評価については大学基準協会、日本弁護士連合会、大学評価・学位授与機構に実施の動きがある。これらはすべて、今後、文部科学大臣の認証を受けなければ認証評価機関たりえないのだが、ここでは、筆者自身が奉職している大学評価・学位授与機構における評価が、現在のところどのように行われているかを示す。大学評価・学位授与機構は、00年4月に学位授与機構の改組によって生まれた。その目的は、評価のフィードバックによる大学の改善と、評価結果の公表を通じての社会の支持（アカウンタビリティ）の促進を図ることにある。
組織としては、国公私の大学関係者と有識者の参画を得て運営される、大学共同利用機関等と同様の位置づけの機関として、評議委員会、運営委員会のもとに、大学評価委員会を組織している。当面の対象は国立と公立の大学であり、多面的な評価を実施する趣旨から、全学テーマ別及び分野別の教育、研究評価を行い、それぞれに専門委員会が置かれる。評価手法としては、各大学の持つ目的及び目標に即した、一定の方式に従った自己点検・評価を求め、その分析を通じて評価を行っている。
各評価とも、さらに多面的な評価を実現する趣旨から複数項目を用意し、結果は記述式で、優れた点や改善点が示されるとともに、項目ごとに目的目標に即した水準がわかる表記がなされ、研究評価については当該分野内の領域ごとの研究水準の判定も付される。現在試行期間にあり、02年度中に着手するものまでの3次に渡る評価を試行としている。第1回の評価は、全学テーマ別は「教育サービス面における社会貢献」、分野別は医学と理学、第2回は「教養教育」、「研究面での社会との連携及び協力」と教育、法学、工学、第3回は「国際的な連携及び交流活動」と人文、経済、農、総合科学で実施している。すでに第1回と第2回については、02年と03年の3月とに結果を確定、公表している。
ちなみに、評価項目としては、第2回の教養教育の場合で、実施体制、教育課程の編成、教育方法、教育効果、分野別教育では教育の実施体制、教育内容面での取り組み、教育方法及び成績評価面での取り組み、教育の達成状況、学習に対する支援、教育の質の向上及び改善のためのシステム、が用いられた。
同機構では、この方式の評価を今年度より全面実施の予定としていたが、その計画を見直し、新たな評価方式の検討を開始した。これは、新しい評価制度のもとで認証評価機関としての役割を果たすこと、同時期に国立大学が法人化されその教育研究面での評価を担うことが想定されていること、昨年の中央教育審議会答申で、希望する私立大学の評価を可能とするよう求められていること等の理由による。ただし、評価の目的として、新たに質の保証という機能が加わることは当然として、基本的な姿勢、枠組みは引きつがれることになる。
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根拠となるデータの不足は評価の不能を意味する
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以上、機構を例に第三者評価の組織と評価活動の状況を説明したが、ここでは、これまでの評価の経験から、この制度のもとで大学にどのような課題が生まれているのか、考察したい。
まず気がつくことは、自己点検・評価の充実の必要性である。自己点検・評価が十分になされなければ、第三者評価は成り立たない。自己点検・評価については、97年の時点で、国公私立大学全587校のうち88％の大学で実施され、65％の大学でその結果を公表するまでに一般化した。また、これらの大学のうち、自主的に学外の有識者に依頼して外部検証を行った大学も相当数にのぼった。
しかし、その内実は、98年の大学審議会答申で、「大学の自己点検・評価については、『点検あって評価なし』との厳しい指摘があることに見られるように、形式的な評価に陥り教育研究の改善に結びついていない、外部への情報発信が足りない」と指摘される状況にあった。この理由の一つとして、大半の自己点検・評価が明確な評価基準や評価方法を持たない「現状と課題」といった叙述に留まっていたことがあげられる。
自己点検・評価については、99年にそれまでの努力義務から義務に格上げされ、第三者評価の有り無しにかかわらず実施すべきものとなった。そして、今般の学校教育法の改正では、法律としてその実施と結果の公表が義務付けられている。これが点検レベルに留まらないためにも、第三者評価との関連づけが当然必要となる。そこで求められるのは、当該大学の教育研究活動の目的や目標を明確にした上で、大学としてあるべき活動の基準にそって行われる方法意識を持った自己点検・評価である。そして、そこでは評価を下す上で根拠となるデータが重要性を帯びてくる。いかなる判断も、必要なデータの分析なしにはなしえない。したがって第三者評価も、自己点検・評価における根拠データが十分にあり、その分析が適切か、を中心に行われることになる。
しかし、現在の大学において、そうしたデータの蓄積は十分とは言えない状況にある。とくに、教育の達成状況や効果についてのデータとなると、ようやく定着しつつある学生による授業評価でさえ、学生アンケートというあいまいな形で実施され、評価のための分析になじまないものもある。さらに、個々の学生の履修状況や進路状況、卒業生やその雇用者側の判断といったデータとなると、整備されていることはよりまれになる。評価の実施において、根拠となるデータの不足は評価の不能を意味し、本来の目的である質の保証ができないという結果に結びついてしまうのである。
今後、こうしたデータの蓄積なり分析には、相当に専門性をもったスタッフが必要になると予想され、こうした人材は、個々の大学の努力とともに、大学間、あるいは大学と評価機関の協力によって時間をかけて育てていくことが必要となる。
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“第三者”は“他者”ではない
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次に課題となるのは、認証評価機関としてどの機関の評価を選ぶのかということである。冒頭で挙げた機関は、それぞれに設立や発展の背景をもっているので、この大学はこの機関というような、ある程度の流れが想定される。それでも、選択の余地はいくつもある。大学評価・学位授与機構の評価にしても、「当分の間、私立大学に係る評価は行わない」というような現行の規制は取り払われる見通しであり、先に述べたように国立大学法人の中期目標に係わる教育研究面の評価の担当が法的に求められるが、国立大学法人にとっては、認証評価も機構であわせて受けるかは全くの任意である。
最後に指摘しておきたいのは、大学にとって第三者評価機関は立場として第三者であり、また、決して他者ではないということである。機構の場合、今回の改革と並行して自身が独立行政法人に移行することになるが、その成り立ちからみて、国公私の大学関係者と有識者の参画を得て運営されるという性格は維持される。したがって、実際の評価に当たる評価者の大部分は、学会や協会等からの推薦を受けて選ばれた大学人自身である。また、大学基準協会のような組織の場合は大学を会員として存立する。つまり、大学人には、評価の担い手としての参画が要請されているのである。
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大学評価・学位授与機構教授