Between 2003.04
特集 大学評価のゆくえ

【Report】 社会変化に対応した財政評価の導入など
実績にもとづき“進化する評価”を実践

大学基準協会


 大学基準協会は、国公私の区別なく、加盟を希望する大学と会員校に対する評価を1996年度から実施しており、公私立大学については唯一の評価機関として実績を積み上げてきた。大学の自主性にもとづく教育の質向上というアメリカ型の大学評価をモデルにして歩んできた同協会は、今回の認証評価制度をどう受け止め、どう対応するのか。実績に裏付けられたノウハウを含め、澤田進事務局長に話を聞いた。

 


「相互的援助による質向上」に全大学の40%が賛同、加盟

 大学基準協会が「会員の自主的努力と相互的援助によってわが国における大学の質的向上をはかる」という目的の下に創立されたのは、1947年のことだ。新制大学の設置審査に資する基準の策定に自主的に取り組み、それが56年に制定された「大学設置基準」の基盤となった。しかし、国が設置認可にかかる強い権限を維持する中、同協会が掲げる大学評価の理念は必ずしも社会に広く浸透してこなかった。
 そのことについて澤田事務局長は、「長い間、日本の大学の最大の関心は大学設置基準をクリアすることのみに注がれていました。その上、社会全体が評価されることに慣れていないという問題もありました」と指摘する。
 しかし、環境は確実に変わってきた。91年の大学設置基準改正で自己点検・評価が努力義務に。第三者評価に向けた流れが加速する中、同協会では96年度から「加盟判定審査」と「相互評価」に取り組んでいる。加盟判定審査は協会の正会員となる資格を問う審査で、相互評価では会員資格の維持にふさわしい質を保っていることを認定する。現在、審査を受けて加盟した正会員は280校で、4年制大学全体の40%以上となる。趣旨に賛同する賛助会員の数も280校に上る。
 では同協会は、これまでの実績を踏まえ、新たな認証評価制度をどのようにみているのか。「大学の設置は許可主義から認可主義、そして準則主義に移行し、今後はほぼフリーパスになる方向ですから、設置後の質を継続的にチェックするのは当然」と同事務局長。本来は同協会のように、自発的に自らの長所と短所を第三者機関に見てもらうことで伸ばし補っていく手法の方が「改善の実」は上がるはずだ。それが義務化された背景には、そうしなければ意識が変わらない大学が現実に存在することに加え、国際競争に向けた取り組みが遅れるという文部科学省の懸念も働いている、とみている。
 「国際的にも認められた評価であれば、認定された大学の卒業生、在校生がどこの国に行っても認められることになる。また、そうでなければ評価する意味はない」。同事務局長は、認証評価制度の意義をそう語る。「ただ、現時点での日本社会の成熟度では客観的な評価は決して簡単ではなく、公平な評価の指標づくりも困難な作業です」とも。



02年度から評価周期の短縮、評価委員の拡大などで改善

 同協会では02年度から大学評価に大きな改善を加えた。主なものは、(1)相互評価の周期を10年から7年に短縮(2)評価委員の一部に正会員校以外の第三者が参加(3)評価結果に対する異議申し立て機会の保証(4)財政評価の試験的導入――などだ。(1)は社会の変化の加速に対応した見直しで、大学に的確な判断と迅速な改革を促すことになる。(2)については、(3)(4)に関わる弁護士や公認会計士のほか、高校関係者などが参加。
 (4)の財政評価の試験的導入は、大学の経営破綻が現実的な問題になり、経営に対する社会的関心が高まっていることを受けた判断だ。02年度は私立大学のみを対象に、日本私立学校振興・共済事業団が出している収支決算書と消費収支計算書・貸借対照表関係比率などに基づき評価を行った。
 すでにいくつかの課題も見えている。各大学の会計監査は年度末から2カ月ほどかかるため、4月からスタートする同協会の評価には間に合わず、協会では前々年度の財務諸表を使うことになる。「社会の経済変動は激しくなっており、最新のデータで検討できるシステムを整える必要がある」と澤田事務局長。さらに、「公認会計士による数字の監査だけでなく、理事の業務執行が適正であるかといった体制面も見るべきだとの意見が出ている」という。  02年度からの変更点としては、従来の自己点検・評価による達成度に加え、一定の絶対的水準も評価指標として組み合わせたことが挙げられる。「低い目標を掲げれば達成率は当然高くなるが、それで質の高い大学といえるのか」(同事務局長)と考えたためだ。
 ただ、水準の設定は容易ではない。国公私立の大学が混在するため、単純に「会員校の平均値」を水準として採用するわけにはいかない。例えば校地面積について、財政的に恵まれた国立を私立と同じ土俵に上げていいのかという問題がある。「そもそも校地面積は広いほどいいと評価すべきなのか。建物がコンパクトに集まっている方が使いやすいという見方もあるはず」と同事務局長。このような難しさはあるものの、一応の水準を設定した02年度の試行についてはそれなりの手ごたえがあったという。これを踏まえ、量的に把握できる要素については会員校の調査を行い、より適正な水準の設定に努める予定だという。
 同協会が進めるこれらの見直しは、必ずしも第三者評価の義務化をにらんだ対応というわけではない。「もちろんそれも念頭にはありますが、国が動いたから協会も動いたということではない。評価は進化するもので、これまでの本協会の評価が十分なものだとは思っていない。大学の質向上のため、信頼が得られるきめ細かい評価を行おうという考えが新しい試みにつながった」。その方向性が社会の要請に沿ったものであり、文科省が考えた評価制度とも矛盾しないものだったというべきだろう。



ランキングではなくゾーニングで客観性向上も

 第三者評価義務化のキーワードの一つは「評価結果の公表」である。同協会ではこれまで、加盟判定と相互評価に「合格」した大学名は公表しているが、「勧告」「助言」「参考意見」としてどんなコメントがついたかは当該大学のみに通知し、その公表は大学の判断に任せてきた。澤田事務局長は「今後は大学名とコメント内容がリンクする形で公表することになる。どこまで公表するかについては慎重に検討したい」と説明。
 一方で、例えば加盟審査において、会員としての基準を「高いレベルでクリアした大学」と「ぎりぎりでクリアした大学」を横並びで発表していいのか、という問題も浮上している。「本協会では大学のランキングを行う考えはないが、一定の幅を持つゾーンを設定し、その中のどこに属しているかという程度の分類はした方がいいとの声も出ています」という。
 同協会に対しては、第三者評価への対応を検討している日本私立大学連盟が、近く要望書を提出する予定だ。そこには、協会が行っている加盟判定審査、相互評価に新たにゾーニングを加え、3段階の評価を検討してほしいという考えが盛り込まれる見通し。また、私立大学特有の問題に対応した評価項目として、財政評価や法人の運営も挙げられる方向である。
 認証評価機関を目指す団体が共通に抱える問題として、評価にかかる多大な経費とそれを誰が負担するかということがある。同協会の運営は、正会員と賛助会員からの会費と、評価を受ける大学が支払う評価費で賄われている。評価費はこれまで一大学30万円プラス一学部ごとに5万円という規定だったが、実際には一大学の評価に平均300万円かかるという。そこで評価費の値上げが諮られ、このほど一大学60万円、一学部20万円への改定が認められたが、運営は依然として厳しい。
 この問題は、評価の質の問題とも絡んでくる。「例えば評価委員による実地視察は現状1日だけですが、2日間にすれば地域住民や卒業生の声も聞くなど、より客観的な評価ができる。しかし宿泊費で経費が大きく跳ね上がるため、現状では実現困難です」。国による財政支援については、「基金を設け、各評価機関の実績に応じて配分していく方法や、評価を受ける大学に助成するやり方が考えられる。いずれにしても、官による直接的な関与はできるだけ少なくすべき」と考える。
 同協会は、文科省の「特色ある大学教育支援プログラム」いわゆる教育版COEの事業も受託する予定で、業務が著しく拡大する。そこで、大学評価の経験がある退職者を特別大学評価員に登用したり、大学からの出向職員を事務局に受け入れるなど体制を強化しつつある。
 同事務局長は、「新しい評価機関が出てくることで、本協会の基盤が弱まることはないと考えています。むしろ、他の機関との連携によって大学の利便性を上げることを考えていきたい」と話す。例えば、どの評価機関でも共通に扱うであろう評価項目についてはフォーマットを統一するなど、複数機関の評価を受ける大学の負担軽減を考えている。「われわれには50年で築いた実績がありますし、何よりも、これまでボランティア精神で大学をよくしようと努めてきた伝統の灯を消してはいけないと思っています」と結んだ。


トップへもどる
大学・短大トップへもどる
バックナンバー

All Rights reserved. Copyright(C) 2002 Shinken-Ad. Co.,ltd