Between 2003.04
新課程が始まった

【第1回】 変化する高校に対して大学がすべきこと

 
進研アド 大学改革支援室チーフディレクター 片岡 文隆

 2003年4月から高校での新課程がスタートした。この新課程により、従来の詰め込み教育から脱し、考える力・表現力・コミュニケーション能力などの育成が重視されることになる。本連載では、新課程によって高校がどう変化していくのかを分析し、大学はそれにどう対処すべきかを探っていく。初回は、新課程による高校の変化を概観し、次回からは教科別の変更点や予想される入試の変化を紹介する。



最初に大学が行うことは理解と洞察

 小・中学校では02年度から既に新課程が始まっており、これによって数学を中心に多くの学習内容が高校に移行されることになった。従って、高校もこれまでになく大きく変わるため、大学はそれに対応することになる。
 大学が最初に行うべきことは、(1)新課程の特徴は何か(2)高校の教育内容はどう変わるか(3)生徒の学力レベルはどうなるのか ― を十分に理解し、洞察することである。その上で、06年度から行われる新課程に対応した入試や、入学前・入学後の指導体制の検討を行う必要がある。



学びの位置付けの転換が起きる

 新課程の特徴は、3点にまとめられる。
 一つ目は、学びの位置付けが変わることである。従来の高度な学習内容や単なる知識の詰め込みになりがちな内容は、削除または次学年へと移行され、自ら考える力を身に付けるための内容に変わる。それは、課題解決能力を育成する「総合的な学習の時間」の創設や、数学的・科学的な物の考え方を育成する「数学基礎」「理科基礎」の設置に表れている。
 既存科目で見てみると、例えば、「英語I」では、読む・書く力よりも話す力を重視している。学んだ内容をディスカッションを通じて身に付ける、コミュニケーション中心の構成だ。また、国語では従来の読解重視から、話す・書くといった表現力を重視する内容に変更されている。
 二つ目は、学習内容の厳選だ。基本、基礎の定着を重視する内容にするというものだが、これにより、高校卒業に必要な単位数が80から74に減り、このうち必修科目の単位は38から31に減少、学習する内容も少なくなる。
 三つ目は、カリキュラムの大綱化、弾力化で、これは、各高校の裁量権の大幅な拡大や、授業時間数の伸縮の自由化などを指す。
 新課程の指針である学習指導要領が、今回の改訂で、方向付けの概要を示しただけのミニマム・リクワイアメント(最低基準)という位置付けに変わったことと併せて考えると、今後、高校独自の取り組みやカリキュラムが設定され、さらに多様化が進んでいくことが予想される。



学力低下と高校の二極化

 新課程によって、さらなる学力低下が予想されることも認識しておく必要がある。例えば数学では、必修科目の「数学I・A」の配当単位が6から5に減少している。これは、高校1年生の段階で、基本的な計算練習や反復学習の時間が取りにくくなることを意味する。逆に、2年生で選択科目となる「数学II・B」の配当単位は5から6に増加することから、数学の学力の生徒間格差が広がることも考えられる。
 また、英語では、前述したように読む・書く力よりも、話す力を重視する方向になる。その結果、3年間の必修語彙数が今までの約1000語から約900語に減る。これは、大学に入ってから、英文資料を読む、英文レポートや論文を書く際などに影響が出るだろう。
 さらに、新課程の目玉でもある「総合的な学習の時間」の捉え方の違いにより、高校が二極化していくことも予想される。総合学習と大学入試の関わりについて、高校教員の意見を聞いた調査結果を見ると(図表1)、公立高校は「工夫次第で教科学習の意欲の向上につながる(55.0%)」という回答が多く、導入に積極的だといえる。一方の私立高校は、「入試結果に反映されることは少なく、現実には教科指導を中心に考える(37.6%)」という回答が多く、導入に消極的という結果となっている。これは、公立と私立で、新課程への対応が異ならざるを得ないことを意味している。進学に重点を置き、従来の教科学習をさらに強化する高校と、新課程の目指す学びの位置付けの転換を積極活用していこうとする高校とに分かれていくことが予想される。


図表



すでに高校は変わっている

 戦後の教育課程の中で最も画一的だった63年と今回の新課程を比較してみると、卒業必要単位数は85から74へと減少。また、全員が一律に同じ学習をする必須単位は68から31へと大幅に減少している。その分、選択科目が増えていることから、3年間に履修する内容の多様化が進んでいることがわかる。
 また、中学校での必須教科授業時間の大幅な減少(3年間で2835時間から2240時間、ベネッセ高校事業部調べ)や、高校生の家庭学習時間の減少(4割近い生徒が1日30分以下、ベネッセ教育研究所「学習基本調査」より)などによる基礎学力の低下も懸念されている。
 以上のように、高校現場では、新課程導入前にも対応策を決めるべき問題が山積みだった。そんな中、02年3月には多くの国立大学が04年度のセンター試験で5教科7科目を課すことを発表した。高校入学時の基礎学力が低下し、卒業に必要な単位数が減少し、家庭学習の習慣がなくなっていくのに、センター試験の科目数は増えるという状況になるわけだ。



高校は大学の発信を待っている

 大学は、06年度からの新課程入試に対応するために、まず、指針と方策を決定し、高校へ発信することが必要だ。
 指針には、(1)どんな生徒に入学してほしいのか(2)どのような力が身に付くのか ― という2点がポイントとなる。新課程入試を受ける高校生が文系、理系どちらに進むかを決める03年度末までに発信するのが望ましい。また、方策としては(1)どんな入試を行うのか(2)入学前教育を含め、学生へのフォロー体制をどうするのか ― という2点がポイントとなる。
 入試内容を決めていくステップとしては、指針で決定した「どんな生徒に入学してほしいのか」という内容に合った生徒を絞り込むための選抜方法を検討し、現行の一般入試、AO入試、推薦入試などの整理を行う。その際、「顕在能力と潜在能力のどちらを評価するのか」「高校での実績と、大学の授業を受けるために必要な能力のどちらを重視するのか」などの評価基準を決めることが重要となる。
 現行の入試を継続する場合でも、試験科目や出題範囲を見直し、入学してほしい生徒をきちんと選考できるものにしなくてはいけない。
 高校教員と受験生は、大学からの指針と方策の提示を待っている。特に高校教員は、「大学が生徒のどんな能力を入学基準にしてくるのか」「生徒をどこまで指導すれば、大学が引き取ってくれるのか」を知りたがっている。
 次に検討すべきことは、入学前教育や入学後のリメディアル・補習授業だろう。具体的にどんなことを行えばよいのかポイントを挙げる。
 入学前教育ではまず、教育目標を「学力向上」「モチベーションアップ」のどちらにするかを決める。その上で、方式を、スクーリングなのか通信添削なのかを決めていく。
 入学後のリメディアル・補習授業では、単位認定、正課の授業との関連、習熟度別クラス編成とするかどうか、その際の振り分け基準となるプレースメントテストはどのような内容にするのかなどを決める。また、各学生が目標を定めて、成果を確認していくシステムの検討も必要だ。
 以上のように、今回の新課程への対応は、現行の入試問題を手直しするといった小手先の対応策ではできない。高校の変化を十分に理解した上で、「どのような学生を確保し、どのように育て上げるのか」「そのためには何が必要なのか」という視点で対応していくことが今、大学がしなくてはいけないことだといえる。


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