韓国の社会人教育事情 Between 2003.5

Between 2003.05
特集　これからの社会人教育

韓国の社会人教育事情

　韓国では、「頭脳韓国21事業（BK21）」という政策が、日本の遠山プランよりも早い1998年に施行されている。この政策は、日本のCOEと大変よく似た政策であり、日本の文部科学省はアメリカだけではなく、アジアの大学の政策にも目を向け始めたのではないかと思わせるものだ。というよりも、韓国に先を行かれては困るので、同じような政策に打って出たという見方もできる。
　このBK21は、当時の金大中政権が、重点課題である100大課題のなかに「世界水準の研究中心大学育成」を掲げたことに端を発している。韓国の大学を世界トップ10の水準まで向上させるために、7年間にわたり年2000億ウォン（約200億円）の資金注入を行うというのである。実は、この政策とあわせて、韓国の産官学による協同体制の確立も目指している。
　韓国の大学院は、学問の基礎理論の生産と学術研究の人材育成をめざす「一般大学院」、専門的職業分野で優秀な人材の育成を目的に実践的な理論の開発や応用を学ばせる「専門大学院」、そして、日本の生涯学習の概念に相当する、サラリーマンなど一般社会人に対する継続教育を施す「特殊大学院」の三つに区分けされる。
　また、BK21には「専門大学院の育成と導入奨励」という政策があり、「経営大学院（MBA）体制の本格的導入」などが掲げられ、一般大学院は定員を抑制する傾向にあるが、専門大学院、特殊大学院は定員を大きく増やす方向だ。
　一方で、韓国の大学、特に地方の大学では、大幅な定員割れに苦しんでいる。18歳人口の減少が日本以上に急激に進んでおり、韓国の大学はすでに「全入化時代」に突入しているといえる。そのため、BK21でセレクトされた大学は、大学院を拡充するにあたり学部定員を削減させるといった政策が打ち出され、定員割れに苦しむ地方の大学への配慮を忘れていない。
　先日、超優良企業として世界的に話題となっている韓国の「サムソン電子」のグループ会社である「サムソン電子SDI」の人材開発課長（日本企業の人事課長に相当）と電話で話す機会があった。サムソン電子グループの社員を人材教育の一環として日本の大学院に留学をさせたいという相談である。　しかし、話をよく聞くと、優秀な社員の多くは海外留学を望むが、まずアメリカでMBAを取得することを目指し、それがかなわないとなると、次に中国、そしてその次に日本の大学院という選択をするそうだ。希望者の数もアメリカ、中国は相当数いるものの、日本は「グループ全体で多くて年間2～3人」ということである。
　「留学生受け入れ10万人計画」が今年度にも達成できそうだという調査はあるが、果たして中国・韓国のどういった人たちが日本への留学を目指しているのか。この問題は今後もクローズアップされることが予想され、日本の大学は、アジア諸国からみて本当に「価値ある大学か」と問われることになるのではないか。
　従来、アメリカのようなビジネス・スクール、ロースクールといった高度職業人養成を目指した大学院を持ち得なかった日本でも制度が整い、専門職大学院を設置できるようになった。多くの留学希望者から評価され、注目を浴びるような教育ができるのか、これからが正念場だ。

（後藤　健夫）

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