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ボーダーレス化の進展
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近年、国内外の大学の変化で目立つのは、一方で大学の機能の拡大であり、他方で大学の内と外とのボーダーレス化の進展である。これらは同時並行的に進行している大きな変化であるが、目に見えるものだけではないために十分に認識されているとはいえない。
目に見える具体的な例をあげれば、サテライト・キャンパス、海外キャンパス、ヴァーチャル・キャンパスといった従来のキャンパス以外の様々な形態のキャンパスの出現である。こうした新キャンパスは、都心のビルの一室であったりして、従来の大学キャンパスのイメージとはかなり異なるが、大学が社会に「進出した」とみることもできよう。
こうした大学の変化は、情報化やグローバル化といった社会の変化に即応するものであるが、従来の大学の枠組みをはみ出た、新しい機能を大学が担うようになったということもできる。
こうした新しい機能によって、大学の内と外の区別があいまいになってきている。例えば、中国の大学に典型的にみられるように、大学自身が企業集団を持ち、営利事業に参入することにより、大学と企業の区別があいまいになってきている場合がある。さらに、これまで非営利団体であった大学の中でも、最近、アメリカの生涯学習高等教育機関として台頭しているフェニックス大学のような営利団体としての大学が出現している。英米の他の大学でも、ベンチャー企業やeラーニングの導入など、こうしたボーダーに位置するような組織を持つものが多くなり、大学の内と外の区別は明確でなくなってきている。
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生涯学習とボーダーレス化
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生涯学習化もこうしたボーダーレス化の変化の一つとしてみることができる。大学のエクステンションやオンライン教育は、こうした流れの中で新たに大学に求められる役割に応えるべく登場したのである。より正確に言えば、そうした機能は従来の大学にもなかったわけではないが、より明確に大学の役割として強調されるようになったといえよう。
学生に関しても、社会人学生、とりわけ社会人大学院生の増加は、もともと20歳前後に限られていた学生のボーダーが拡大したとみることができる。
さらに、編入学や単位互換なども、従来の大学の「壁」をこわし、履修の柔軟化を進めているとみることができよう。
生涯学習でボーダーレス化が進展し、大学の内と外だけでなく、一般学生と成人学生、あるいは従来の学部や大学院とエクステンションの区別がなくなってきていることは、特に英米の大学をみるとより明確になる。
まず、学生に関していえば、「社会人学生」という言い方は、英米の大学にはみられない。成人学生（adult students）が一般的な名称であるが、これは学生の身分や日本のように特別な入試を経た学生を指すのではない。学生の身分としては、パートタイム学生というのが一般的である。これは、履修単位の上限がフルタイム学生より少ないが、その分、授業料などが安い学生であり、それ以外には、ほとんどフルタイム学生との差はない。このパートタイム学生には成人学生が多いが、それは結果としてそうなっているということで、年齢による区別ではない。
また、一般の学部や大学院生とエクステンションやオンライン教育の学生の差異も実質的には減少している。日本でエクステンションというと、公開講座のことを指し、受講生は一般の学部生や大学院生とは明確に区別されている。しかし、欧米では、学部生や大学院生は入学者選抜を経てきているが、エクステンションの学生は18歳以上であれば誰でも入学できるのが普通であるという点が明確に異なる以外、差は小さい。
エクステンションでは、日本の公開講座と同じような講義や短期の講座も多数開設されている。そのうち、大学が認めたエクステンションの講座は大学の正規の単位となるし、それ以外に、エクステンションだけで学士学位や修士学位を取得できるプログラムもある。
また、エクステンションの学生は図書館などの大学施設を他の学生とほとんど同じように使うことができる。このように日本と異なり、エクステンションは公開講座ではなく授業プログラムといった方がむしろ正確だろう。ただし、エクステンションの場合でも単位として認定されるのは、授業に出席し課題レポートなどを出し、試験に合格した場合であることがほとんどである。この点でも通常の授業との相違は小さくなっている。
オンライン教育の学生の場合には、入学要件があり、学生としての身分を持つが、大学に常時通学することが要求されないことが一般の学生との最大の相違である。なお、完全に通学が要求されない大学もあるが、多くの場合には、夏休み中などに通学（スクーリング）授業や、単位認定試験などで大学に通学することを要求される。
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生涯学習と単位累積認定制度
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こうして取得した単位が、どの程度通用性を持つのかは、単位を発行した大学だけでなく単位を認定する教育機関の問題となる。例えば、オックスフォード大学やカリフォルニア大学の場合には、エクステンションで取得した単位を同大学の正規の単位として認めている。また、他のほとんどの大学でも正規の単位として認定されるとのことである。ただし、この場合、すべての授業が認められるのではなく、認定されるものは明記されている。
こうしたエクステンションやオンライン教育の仕組みを支えているのは、単位認定システムである。つまり、英米の高等教育機関では、取得した単位が広く通用性を持つために、単位を累積して学位取得に結びつけることが可能になっている。エクステンションやオンラインなど、さまざまな方法で大学の単位を取得する方法があり、それは、大学の単位が社会的に広く通用するというシステムと表裏一体になっているのである。
こうした社会的な単位認定システムとして、アメリカには、継続教育単位（Continuing Education Unit）認定システム、イギリスには名称もそのものずばり「単位累積および編入学制度（CAT、
Credit Accumulation and Transfer Scheme）」と呼ばれているシステムがある。なお、生涯学習は、英米では一般的に継続教育（continuing
education）とも呼ばれている。
イギリスの単位累積認定システムでは、ポイントが単位となっている。1ポイントは、だいたい2時間の授業に相当する。120ポイントの単位を履修すると、第1レベルの「履修証明（Certificate）」資格が授与される。さらに第2レベルの120ポイントの取得で「ディプロマ（Diploma）」が授与される。さらに、第3レベルの120ポイントを取得すると「上級ディプロマ（Advanced
Diploma）」が授与され、学士学位（イギリスの大学は3年制）に相当する。なお、このように、学位を細分化した下位の資格に分割することは、米英で近年普及している。これも3年ないしは4年間で一気に学位を取得するというより、長期にわたり分割して資格や学位を取得する制度の柔軟化の一つである（これについては、大学評価・学位授与機構の『学位研究』に各国の学位資格の紹介論文があるので参照されたい）。
このように、欧米の大学では、いかなる形態でも取得した単位は単位であり、資格は資格である。
それがエクステンションによるものかオンラインによるものかは、それほど重要な相違ではない。実際、今日、遠隔高等教育と呼ばれるものは、つい最近まで、郵送による印刷媒体を中心としてきており、通信教育と呼ばれていた。それが、新しいメディアであるラジオやテレビ、さらにはインターネットなどを使うことになっただけで、メディアの相違は本質的なものではないと考えられているのである。
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オックスフォード大学の継続教育
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これまで述べてきた大学のボーダーレス化の進展に関しては、オックスフォード大学の例をみるとより具体的に理解されるであろう。ここで同大学を取り上げたのは、同大学の生涯学習は120年の伝統を持っているためでもあるが、同時に新しい試みを次々に導入しているためでもある。
オックスフォードの継続教育は、継続教育部（Oxford University Department for Continuing
Education OUDCE）が担当している。学生は幅広い年齢層にわたるが、30代後半から50代が多くなっている。また、学生の所属するカレッジの中でもケロッグ・カレッジはパートタイム学生専門のカレッジである。
継続教育部が提供する教育は、公開講座、パートタイム学習からサマースクール、専門職業能力研修、学部教育、大学院教育までさまざまなレベルのものがある。一部のプログラムは、学部や大学院とジョイントで実施されている。先に述べた単位の累積加算制度との関連でいえば、継続教育部が提供する授業は、第1学年に当たるレベル1のものとして認定されており、120ポイントの取得で、「履修証明書（Certificate）」を授与され、第2学年の一部の専攻への編入学が可能となる。ただし、実際には、当然のことながら、他の一般学生との厳しい受験競争になるわけで、無条件に編入学できるのではない。また、前述の説明からわかるように、レベル1の授業の単位だけでは、いくら取得しても学士学位を取得できない。なお、オンライン教育には履修に2年間を要し、レベル2相当のものもある。
単位の認定には70％以上の出席率と、授業ごとの課題、サマースクールでの課題と最終筆記試験が要件となっている。つまり、普通の授業と全く変わらないといってよく、履修はかなりハードである。これは、普通の授業の単位と全く同等に扱う以上、当然の措置ともいえよう。
授業料は、授業によって異なり一律ではない。たとえば、一回限りの公開講座「1920年代のデザイン」を例にあげると、7時間で32ポンド（約6000円、1ポンド＝190円で計算。以下同）、1回2時間8回の講座「短編の楽しみ」で52ポンド（約1万円）などとなっている。
これに対して、専門職業能力開発のための研修「効果的マーケッティング」では、2日間のプログラムで695ポンド（約13万円）となっている。
イギリスの大学では98年から授業料を徴収しているが、学部学生の授業料は、日本の国立大学の授業料のように、政府によって一律に設定されており、02年現在、最高約1100ポンド（約21万円）となっている。これに対して、大学院生や留学生あるいは継続教育の学生の場合には、大学で独自の授業料設定が認められているので、大学の大きな収入源となっている。
オックスフォード大学のように、学位の価値が高い場合には、授業料も高額である。継続教育では、学士学位は授与していないが、修士学位を授与するプログラムがあり、「数理財政（mathematical
finance）」を例に取ると、国内学生が1万7750ポンド（約337万円）、EU圏以外の学生が1万9570ポンド（約372万円）ときわめて高額になっている。
なお、こうした高額の授業料や学生生活費をサポートするための給付奨学金やローンなど学生援助制度が充実していることも、イギリスの教育システムの特徴の一つである。ただ給付や貸与に関して、所得制限などは一般の学生とほぼ同等であるが、継続教育の学生の場合には、学士学位を持っていないか、持っている場合には以前学位を取得してから長期間経ており、かつ履修プログラムが取得した学位とは全く異なることが要求される。これは、奨学金やローンの対象となる継続教育が単なる学位取得ではなく、キャリアアップを目的とすることを重視していることを示している。
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大学のボーダーレス化から学ぶべきこと
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大学のボーダーレス化は、社会の変化に大学が対応するためのものであるが、とりわけ大学が緊縮財政の中で、独自の収入源を得ようとする試みでもある。そのため市場の動向に敏感になり、学生の要求に応えるような制度の柔軟化が目指されている。生涯学習もその一環である。
翻って日本の大学をみると、こうした点について、政府の規制緩和などようやく変化の兆しは現れてきているといっていいが、まだ彼我の差は大きい。これからの社会人教育について考える際には、こうした点に着目することが一つのヒントになるだろう。
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