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大阪市中央区に拠点を置く大学入学情報図書館RENA（以下、RENA）は、社会人入学、編入学を目指す社会人のための情報提供を行う任意団体である。設立は1998年。代表・安井美鈴氏が執筆した「大学へのもう一つの道～社会人入学・編入学のすすめ」への読者の問い合わせに答えたことがきっかけになったという。
現在RENAは、無料登録のメーリングリスト会員約8000人を対象に、全国の国公私立の大学・大学院情報を提供するほか、「社会に開かれた大学・大学院展」（文部科学省・厚生労働省他後援）を東京・大阪・名古屋などで開催している。また、文科省の委託で、「01年度大学等における社会人の受け入れに関する調査研究報告書」を作成。「インテリジェントアレー構想」の「社会人の学びに関するアンケート調査」にも携わった。
「RENAを発足した頃は、大学院といえば、研究者を目指す学生が学部卒業後に進学するところで、社会人向け大学院などという言葉すらありませんでした。ですから学部1年次への社会人入学や編入学を目指す人への情報提供からRENAの活動は始まったわけです。社会への開放という意識を持った大学は数少なく、関係者からは『（社会人を入学させると）レベルが下がるのでは』と危惧する声まであったほどです。しかし、実際、入学させてみると非常に意欲的な学生が多く、他の学生にも良い刺激を与えるということが認知され、徐々に社会人を受け入れる大学が増えていったようです」と安井氏は振り返る。
当初は、大学院での社会人受け入れは、企業からの派遣という形が中心であったが、経済・社会状況の変化から、現在では自費で進学を目指す社会人が増えている。それだけに、大学院への期待は大きく、また多様化しているのだという。
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大学院を意識するのは学生も含め、20～30代中心
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RENAが02年に行った「社会に開かれた大学・大学院展」の来場者アンケートを見ると、年齢層別では、20～30歳代が多く、男女差はほとんどない（図表1）。20代が多いのは、現役学生の参加者が多いためで、編入学や自大学以外への大学院進学を考える学生が増加していることがわかる。
特に関心を持っている進学形態については、30歳代に限れば「大学院社会人入学」と答えた人が東京・大阪では70％、名古屋で50％を占める。
「社会人向け大学院への進学の意識は地域によって差があります。やはり受け入れ体制が整っている大学院が多い東京、大阪での進学の意識が高い」と安井氏。数年前、福岡会場での開催を試みたが、来場者が少なかったことから継続を見合わせたという。「来場者については、RENAの認知度が関係しているとも考えられます。しかし、三大都市圏以外の地域では、通学の便の考慮や大学院の整備が不十分であったり、社会人が大学で学ぶという意識自体がまだ希薄なのかもしれません」。
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資格と実務に直結したカリキュラム作りを期待
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次に、大学の選択基準や入学の目的・動機などを詳しく見てみる。RENAが98年に行った「社会人の学習意識調査」によると、希望する資格を取れる、職業に必要な知識・技能を身に付けることが、1位に上がる（図表2・3）。
「志願者の資格取得志向は今でも顕著です。これを別にすれば、多くの人が挙げる選択基準は、地理的条件、学費、そして入りやすさです。入試については、英語などの語学を課している大学を敬遠しがちです。入学後の高度な学習・研究のためにはある程度の語学力が必要なケースも多いですから、語学試験をなくすのは問題でしょうが、選抜要件に関し、検討する必要はあるでしょう」
参加者が大学に対して望むこと（フリーアンサー）を見ると、入試で企業での実務経験を見てほしいとの声もある（図表4）。
立地や授業時間については、多くの大学がサテライトキャンパス設置や、夜間・昼夜開講制の採用など、社会人の便宜を図っている。一方で経済的支援は遅れており、公的な制度の整備を期待すると安井氏は言う。さらに、「何よりも、働きながら学ぼうとする人を、企業が積極的に支援する体制を構築してもらうことが大切です」。
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志望の動機・目的は3タイプ
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安井氏は大学院進学希望者の動機・目的は大きく三つのタイプに分けられると言う。第1は、直接的に特定の資格や卒業後の資格を取得したいという人。第2は、自分を高めたい、教養を深めたいという人。そして第3は、今の専門や職業に飽き足らない、人生に新しい生き方を求めたい、という「自分探し」「生きがい探し」タイプである。
「長引く不況の中、厳しい時代だからこそ、能力を高め、スキルを磨かなければ生き残れないという危機感が、社会人を大学院に向かわせる要因の一つになっているようです」
第2のタイプの人の多くは、実務とは結びつきにくい人文系の大学院を目指す。ビジネス分野などの社会科学系の大学院が増えるなか、こうした教養系を学べる社会人向け大学院はまだ少ない。しかし、高齢化社会の進展によりますますニーズは高まっていくだろうと安井氏は予測する。
「しかし、大学院はカルチャーセンターではありませんから、大学として、いかに個性を出していくかが課題でしょう」
第3のタイプについては「環境や福祉などのボランティア活動がきっかけで、これらの分野の深い知識を身に付けたいという人が増えている」と言う。
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大学院での収穫は人脈だけではない
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一方、大学院を修了した社会人の声を聞くと、一番の収穫は、人的ネットワークができたことだという人が多いそうだ。「もちろん人脈も大きな収穫といえますが、やはりお金と時間をかけて通うのですから、授業内容がどれだけ実社会で役立ったかという評価も重要でしょう」。
こうした評価には、指導する教員も大きく関わる。ビジネスの現場で活躍する実務家教員を採用する大学院も少なくない。「それまで研究一筋で、学生には一方的な講義をするだけだったという教員が、社会人学生を相手にするようになって、『教員自身も成長する』ということが、実際にはあるようです。実務に直結した授業を期待し、その内容については厳しい目を持っている学生の評価が大学院存続を左右するわけです。また、国立大学の独立行政法人化により、ますます社会人向け大学院を設置する大学は増えるでしょう。大学ももう少し危機感を持って、授業内容の拡充にあたる必要があるでしょう」。
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“出口”を意識したビジョン作りを
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各大学院は、広報を積極的に行っており、書店では社会人向け大学院に入学するためのハウツー本が出回るなど、社会人向け大学院に関する認知度は高まりを見せている。「入学するためのいわゆる“入り口”に関する情報は飛躍的に増えています。しかし、“出口”、つまり大学院で学んだことがどんな成果となって職業や実務に生かせるのか、という点については、まだ各大学の方向性が定まっていないというのが現状ではないでしょうか。それだけ、社会人大学院の歴史がまだ浅いということなのでしょうが…」。社会人向け大学院の真の評価は、修了生が増えて、そのネットワークが産業界に拡がり、社会全体に認知された時であると、安井氏は指摘する。
既にインターネット上では、社会人大学院で学んだ経験を持つ人が運営するサイトがいくつもあり、大学批判も含めた具体的な内容で活発な情報交換が行われているという。
「近い将来、明確なビジョンを持たない社会人大学院は、淘汰されることもあるでしょう。しかし、大学院への進学者は増加しているとはいえ、世界的に見れば、欧米に比べて日本の大学院進学率は低く、大学院への志願者はまだまだ伸びるはずです」と言う安井氏。社会人のニーズを的確に把握することができれば、志願者を増やす可能性は十分あると予測している。
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