Between 2003.05
特集 これからの社会人教育

【Report 4】 事例研究やフィールドワークを取り入れた
体系的なビジネスプログラムを開講

明治大学 リバティ・アカデミー


 エクステンション型のビジネススクールを目指すリバティ・アカデミーのビジネスプログラムは、明治大学の専任教員をコーディネーターに、多くの実務家を講師に迎え、グループワークや現場研修を取り入れたカリキュラムが特色だ。

 


 明治大学が教学基本計画に関する学長プロジェクトにより「生涯教育構想検討委員会」を設置したのは1996年。以来「広く知を発信し、専門職業人を育成する」という建学以来の目標に立ち返りながら、新しい生涯学習の方向性について全学的な討議を行ってきた。
 その構想に基づき、99年4月に、より広い一般社会に学習機会を与える場としてリバティ・アカデミーを設立。科目等履修生制度、専門職大学院の設立などとともに、「生涯学習型大学」の一翼を担う。
 リバティ・アカデミーの事業は、総長を委員長に、学長、大学院長、財務担当理事をはじめ、さまざまな部門の教職員による運営協議会によって討議され、決定している。その基本理念は、高度専門職業人への貢献(リカレント教育)、地球市民の抱える課題、人間存在を探究する学問(リベラルアーツ教育)、地域主義(地域社会への貢献)の三つで、継続的・体系的なカリキュラムを特色とし、現在、特別企画、教養・文化、資格・実務、語学、ビジネスの5部で講座を開講している。



綿密なマーケティングをもとにビジネスプログラムを開講

 リバティ・アカデミー設立当初、ビジネス関連の講座は開設されていなかった。当時の受講生の年齢分布を見ると30〜40歳代が空白になっていたことから、新規講座の芽があるのではないか、とリサーチを開始。立地調査や民間企業などによるビジネス教育・人材育成制度の状況調査を行った上、同大学の教員に会計、マーケティングなど経営学の研究者が多いことを踏まえて協議を重ね、ビジネスプログラムの開講を決定した。
 01年からスタートした同プログラムは、大学教育・ビジネス研究を基礎とした「エクステンション型のビジネススクール」を目指す。各講座では明治大学の教員がコーディネーターとなり、実務家の講師を招き、企業事例を交えた講義を行う。また、多様なビジネス分野に対応するため、フィールドワークやグループワーク、プレゼンテーションなど、必要なスキルにあわせた形式で授業を進める。
 03年度の春期(03年4〜7月)の開講講座は、コーポレートガバナンス研究、経営戦略・論理思考、マーケティング戦略、財務・会計戦略、アントレプレナー・中小企業研究、人材戦略・能力開発研究の6分野で構成されている。



企業での実地研修も行うマーケティング講座

 マーケティング戦略分野の「実践・マーケティング戦略セミナー」では、春期に顧客満足力コースと市場競争力コースの2コースに分かれ、マーケティング戦略や事例分析の基礎を学んだ後、企業ケース研究として富士写真フイルム(株)、セコム(株)、(株)桔梗屋から講師を迎えて授業を行う。秋期(9〜12月)には、春期の応用課程として、受講生5〜6人がチームを組むグループワークで、各々のテーマで事例研究を行う。
 さらに、春期の企業ケース研究で取り上げた企業の実地研修・見学も行う予定だ。「ビジネスプログラムのカリキュラムは、『理論』『実践』『ネットワーク』の三つのフレームワークで構成されます。受講成果として、新しいビジネスを推進できる企画力・実践力を開発し、実際のビジネスに役立てることが目標です。フィールドワークについては、実際にビジネスの現場で、担当者の体験に学ぶことが理論を実践に結びつける上で重要だという認識に基づき、プログラムに取り入れました」と教育振興部事業課リバティ・アカデミー担当の山本幸一氏は説明する。
 NTTコムウェア(株)に勤務する小上馬(こじょうま)広介氏(現在、人事部に所属)は、02年度開講の「実践・マーケティング戦略セミナー」の基礎課程、応用課程、マスタープログラムと継続して受講した。3年ほど前、会社からの派遣で(社)社会経済性本部が行う実務講座「新事業開発コース」で新規事業のマーケティングなどを学び、その中で明治大学商学部の大友純教授の講義を受け、継続して学びたいと思ったことがきっかけだった。当時、小上馬氏は経営企画部の事業開発推進室に所属し、ITやネットワークに関わる新規ビジネスの立ち上げに携わっていた。理工学系出身で、ビジネス関連の講座で学ぶのは初めての経験だったという。「それまで、一つの会社、言ってみれば閉鎖的な社会で仕事をしてきた私としては、こうした講座でさまざまな経歴を持つ社外の人と意見を交わすことは貴重な経験でした」。
 講師陣に実務家が多く、現場の話を直接聞けたことがためになったという小上馬氏は、講師から個別にアドバイスを受けたこともある。「現在39歳で、会社では中核的な存在になる世代です。会社全体の経営を考えなければならず、社内のことだけに目を向けていたのでは生き残れないわけです。大学にはこうしたことを理解し、われわれのような世代が参加しやすい講座を増やしてほしいですね」(小上馬氏)。


写真

02年12月に行われた「実践・マーケティング戦略セミナー」の
(株)桔梗屋での実地研修。(株)桔梗屋は山梨県に本社をおき、
銘菓「信玄餅」などを製造・販売する



受講生サービスを重視しインフラ整備や講座改善を図る

 リバティ・アカデミー事務局では、受講前と後の2回、受講生へのアンケートを行っている。
 02年度のビジネスプログラムの受講生は約730人、平均年齢は36.7歳で、約7割が男性だ。職種は営業・マーケティング、財務・会計、経営・企画とさまざまだが、これは講座の内容によって変わるという。受講の動機は、「スキルアップ」が40%、「興味がある」が35%、「業務に必要」が15%であり、「異業種交流」の数値も高い。
 受講後の講座満足度は数値化しているが、どの講座も平均して80点前後と高い。「平均すると高い評価をいただいておりますが、講座内容により評価は異なります。受講前によく内容を説明し、納得した上で受講してもらうよう配慮していますが、受講生のバックグラウンドや講座への期待はさまざまです。結果については、カリキュラムの工夫・改善に生かしています」(山本氏)。
 リバティ・アカデミー事務局のスタッフは兼務管理職1人に、専任の職員が3人。事業企画や運営にあたり、学内外の調査を進め、担当教員や委員会にフィードバックするなど中心的な役割を担う。教材や教室、受講生の管理は、アウトソーシングし、事務委託社員によって行われている。「事業運営にあたり、担当職員は講座の内容に関する知識を高めながら、収支バランスと顧客満足思考を重視した企画を行っています」と山本氏。
 03年度には、約200の講座開講を予定している。03年4月現在、個人会員は受講生約6200人、法人会員が17社だ。会員管理のためシステム導入やオンラインによる入会申し込み、受講料のクレジットカード決済など、受講生サービスを中心としたインフラ整備を行ってきた。職員は個人情報保護についても継続的な研修を行っているという。
 受講生の声を反映した講座運営上の改善も図られた。使用教材に対する評価が低かったため、それまで講師や講座によって不統一だった教材を一冊にまとめ、受講開始前に渡すようにした。講座内容・講師への評価が低い場合は、コーディネーターである教員を交えて、教授方法の変更や講師の変更も検討する。開講中、受講生同士や教員とのコミュニケーションを図るため、初回の講義で受講生全員が自己紹介をしたり、名札を着けるなどの工夫や、希望により講座後に懇親会を催すこともある。



専門職大学院やTLOとの連携講座を検討中

 リバティ・アカデミーは、今後、ハード面でのサービス向上とソフト面での質の向上、受講生の多様化への対応を図る方針だ。
 03年2月から、「公開講座をより広く公開する」(山本氏)ためにインターネットによる「eゼミナール『考古学講義』」の配信を開始。4月からは、eビジネススクールの配信をスタートさせる。さらに、04年度からの本格導入に向け、長野県飯田市経済産業局と提携し、地場産業育成を目的とする遠隔講義の実証実験を始める。
 明治大学は現在、生涯学習棟「アカデミー・コモン」を千代田区駿河台キャンパスに建設中だ。04年4月の竣工時には、リバティ・アカデミーの全施設を移転し、ラウンジや学習スペース、ディスカッションルーム等を設ける。また、常時学習できる空間として、学事日程に関わりなく、365日に近い開館を目指す。さらに、同棟には04年度開設を予定しているビジネススクールなどの専門職大学院やTLOのリエゾンオフィス、大学博物館も設置される。リバティ・アカデミーでは、これらの機関と連携した講座や「大学発ベンチャー」などTLO事業を支援するカリキュラムも検討中だ。


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