Between 2003.05
特集 これからの社会人教育

【Report 5】 多様な学習形態、独自の単位制など
あらゆる方向から生涯学習を支援

早稲田大学 エクステンションセンター


 早稲田大学エクステンションセンターは、大学の知的資源を社会に開放し、生涯学習を支援する機関として発足し、総合大学ならではの多種多彩な講座と都心という立地を活かして発展し続けてきた。また、専用教室を複数確保して講座数を増やすなど独自の工夫も重ねている。2001年には第三者評価を行い、生涯学習機関の先駆者としてさらなる飛躍を図っている。

 


年間2万5000人以上が受講

 早稲田大学エクステンションセンターは、1981年度に設立された。当時、社会人を対象とした講座を行う大学はほとんどなく、授業を聴講したいという声が寄せられるようになっていた。同大学は開学当初から講義録を刊行し、遠隔地域の人々に「学び」を提供してきた歴史がある。同センターは、それを受け継ぐ形で主に社会人を対象とした生涯学習の支援に取り組んできた。学内での同センターの位置づけを、エクステンションセンター前所長の小林茂教授はこう語る。
 「大学でもう一度学びたいと思っても、入試や学費、通学といったハードルが高く、実現しにくいものでした。そこで、学習意欲に応えるために、大学の授業に匹敵する講座を提供する場が必要と考えたのです」
 会員数・講座数ともに順調に伸び(図表1)、88年度には組織を拡大。生涯学習機関としての位置づけを明確にし、講座全体の名称を「早稲田大学オープンカレッジ」に改めた。01年度には東京都中央区からの申し出により、廃校となった小学校を活用して「八丁堀校」を開校。資格やビジネス向けの講座を中心に、早稲田校とは異なる講座を提供している。

図表

 現在、オープンカレッジは全日制で昼夜開講、日曜日にも講座がある。年間講座数は1200以上、延べ受講者数も2万5000人を超える。受講生の66%が女性だが、男性の比率は年々増加。年代別では、30代が最も多く、次いで20代、50代となっている。社会人の学習意欲をつかみ、年商は10億円超、独立採算を実現できるところまで来ているという。



講座の「量」が全体の「質」も保証

 オープンカレッジの特色は、充実した講座群だ。講座は「教養」「語学」「ビジネス・資格」「スポーツ」「健康」という五つの群に大別されるが、最も講座数が多く、受講生に人気があるのは「教養」だ。
 「大学には何代も受け継がれてきた研究の成果が蓄積されています。しかも、本学には哲学、文学、歴史、芸術、自然科学と、さまざまな分野の専門家がいます。こうした環境から提供できるクオリティの高い講座は、大学ならではのものであり、受講者の学習意欲に応えているといえるでしょう」
 講座は、継続会員の増加とともに拡充。同一講座の継続受講者が多数を占めると、新規受講者と講座内容の理解に差が生じ、進度の調整が難しくなる。そこで、入門編、応用編というようなレベル別の講座を増やし、同一講座でも年度によって内容を変え、継続して学習できるようにしている。
 「語学の上級者クラスなど、受講者数が少なくても、授業の重要性を考慮して開講している場合もあります。オープンカレッジの『質』は、講座の『量』によって保証されているのです」
 講座の半数以上は、同大学の教員が担当している。
 「受講者は人生経験を積んできた人ばかりです。経験に照らし合わせて授業を理解するため、反応に深みがあります。学生への授業とは違ったやりがいを感じている教員は多いのです」と小林教授。
 また、同大学では生涯学習の「成果に対する評価」を重要だと捉え、88年度にオープンカレッジ独自の単位制を導入した。授業時間数によって単位数を定め、76単位を修得すれば修了証を発行するという制度だ。修了論文の提出によっても16単位が修得できる。大学の修了証のように社会的に保証されるものではないが、学習の成果を自分で確かめ、正当に評価される機会となっている。02年度までに551人が修了証を手にした。
 「オープンカレッジにはカリキュラムがありません。自分の関心に従って受講する講座を考えていきます。そうして組み立てられた自己カリキュラムは、受講者によって全く違います。これが生涯学習のすばらしさだと思います」
 学部や学科に縛られることなく、また定期試験も修業年限もないオープンカレッジ。1年に1講座でも自分の力や日程に合わせて学習でき、選択の幅が広いからこそ受講生に支持されるのだろう。



大学改革の一環として第三者評価を実施

 規模の拡大とともに、運営組織も拡大した。エクステンションセンターの専任職員は現在8人。職員が講座や時間割などを立案して、同大学の教員・職員による管理委員会が検討、了承するという形をとっている(図表2)。会員サービスなどは(株)早稲田大学事業部に業務委託し、効率化も図る。

図表

 また、さらなる拡充を目的として、01年に第三者評価を実施した。同大学は、00年に教育・研究の充実と発展を目指し、全学の教学機関を対象に自己点検・自己評価、その上で、01年には第三者評価を実施したのである。その中で同センターの第三者評価も行われたが、エクステンション事業を対象とした外部評価は先進的な取り組みといえる。
 手順としては、「講座の質」「受講者へのサービス」「施設等の充実」などの項目について自己点検し、98年に実施した受講者アンケートも含めて報告書にまとめた。それを第三者評価委員会にかけたのである。委員は、日本生涯学習総合研究所の代田恭之理事長、同大学濱田泰三名誉教授、国立教育政策研究所生涯学習政策研究部の山本慶裕総括研究官の3人(所属は嘱任時のもの)。



真の生涯学習機関を目指し新たな形を模索する

 第三者評価によって、短・中期的な目標として明らかになったのは、学習形態の多様化への対応だ。この目標については、すでに遠隔講座とインターネット公開講座を実施している。
 遠隔講座は、授業を撮影し、衛星を通じて全国約50カ所の教室に同時配信するシステムだ。教材等はあらかじめ配布し、質問はファックスで受け付ける。
 インターネット公開講座は、インターネット配信用に講座を加工したもので、インターネットやケーブルテレビを通して自宅で好きな時間に学習できる。
 「設備や著作権などの問題があり、思うように講座数は増えていません。しかし、『どこでも学習できる』ことを実現させるために重点課題としています」
 また、特に受講者層の薄い、18歳以下と学部学科生を対象にした講座も強化したいと考えている。
 「生涯学習は全年齢が対象です。長い時間の中で、いろいろな関心とニーズを組み合わせて講座を提供したいと思っています」
 また、エクステンションセンターの修得単位を、大学の正規単位として認定するシステムの導入も、単位制度以外の評価システムとして重要だとしている。
 こうした課題を集約する形で、長期的な課題として抜本的な転換の必要性も第三者評価で指摘された。
 「本学はグランドデザインの目標の一つに『全学の生涯学習機関化』を掲げています。そうした中、生涯学習の先駆者であるオープンカレッジはどんな独自性を保ち、学部や学科とどう連携していくべきなのか。その方向性を明確にした上で、新たなオープンカレッジを目指していきたいと考えています」と語る小林教授。
 生涯学習の理想を模索する早稲田大学エクステンションセンターの今後の動きに注目したい。


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