Between 2003.05
新課程が始まった

【第2回】 英語編〜
コミュニケーション能力を正しく測る仕組みづくりへ

 
進研アド 大学改革支援室次長 宮下 伊吉

 2003年4月から始まった高校の新課程について、今回は英語を取り上げる。英語は02年から中学校で、03年からは高校で初めて必修教科となった。中学校での英語指導の変化の影響も受け、高校での指導方法や身に付く能力も確実に様変わりする。その変化の内容と、今後の大学入試の方向性を解説する。



「実践的コミュニケーション能力」を養成

 03年度からの新学習指導要領における外国語(=英語)の目標は、以下の通りである。
  「外国語を通じて、言語や文化に対する理解を深め、積極的にコミュニケーションを図ろうとする態度の育成を図り、情報や相手の意向などを理解したり、自分の考えなどを表現したりする実践的コミュニケーション能力を養う」
 ここで示す「実践的コミュニケーション能力」とは、「聞く」「話す」だけでなく、言語の4領域、「聞く」「話す」「読む」「書く」すべてで英語を使う能力を指す。従って「実践的コミュニケーション能力」の養成は、旧課程で「聞く」「話す」能力と捉えられてきた「オーラル・コミュニケーション」だけでなく、「英語I・II」「リーディング」「ライティング」すべての科目に関わることになる。
 履修単位数を新旧課程で比較すると、「英語I」が4単位から3単位に減少している。「オーラル・コミュニケーション」は、旧課程で技能別にA〜Cに分けられていた科目がレベル別に再統合された(図表1)。この「オーラル・コミュニケーション」の履修単位を旧課程で1単位としていた高校数は、新課程への移行により若干減少し(31.4%→24.7%、ベネッセコーポレーション進研模試「2003年度の教科に関するアンケート」より、以下同)、新課程で2単位とする割合が増えている(65%→70.5%)。

図表

 また、1年生の英語の総単位数自体が旧課程では6単位とする高校が5割以上を占めていたが、新課程移行によりその割合は若干減り(52%→47.8%)、5単位とする割合が3割以上に増えている(24.8%→33.1%)。これは、週5日制などの影響によるもので、単位を増やせないという事情もあり、高校でのより効率的な授業が必要となることを示している。



中学校の新課程が高校の英語指導を変える

 中学校では、02年度から新課程が始まっており、従来とは教科指導方法が様変わりした。英語の指導スタイルも、単語や文法の暗記よりも「話す」「聞く」力の育成がより重視される方向に変化した。
 また、必修単語数の大幅な減少も大きな変化だ。
 指導する語数は3年間で100語減って約900語となり、必修語数は507語から100語へと大幅に減少、さらに高校の新課程での指導語数は100語減となる。そのため、高校の「英語I」では、旧課程より200語減(1500語から1300語へ)の中で指導していかなければならない(図表2)。

図表

 さらに、中学校の教科書では、巻末に詳細な単語リストがついているため、辞書をあまり引くことがないまま高校へ入学する生徒が増えることも予想される。また、筆記体を特に教えなくてもよいため、筆記体が読めない、書けない生徒も出てくることになる。



高校の英語指導における三つのポイント

 ベネッセコーポレーションが03年2月にまとめた調査によると、高校の英語指導のポイントとして以下の三つが挙げられる。
 一つ目は、中学校から高校への接続期間を十分に取ることである。1年生の1学期の中間テストまでは、中学までに習った文法・単語の復習を行い、小テストなどで理解度、定着度を把握することが重要であるとしている。
 二つ目は、自学自習の徹底である。特に自学自習に欠かせない辞書指導を充実させる必要があるとしている。
 三つ目は、「実践的コミュニケーション能力」を伸ばす指導を重視する点である。
  「実践的コミュニケーション能力」を育成するといっても、大学入試が変化しない限り、高校での指導は従来と変わらないという考え方もある。しかし、06年度の大学入試センター試験からリスニングが課されることが発表され、さらに「英語が使える日本人」の育成に力を入れるという政府の方針もあり、「実践的コミュニケーション能力」の指導は、高校現場でも強化されていく方向であるのは間違いない。



大学入試の方向性

 今後、新課程に対応して大学入試はどのように変化するのであろうか。英語においては、以下の三つの問題形式が重要になると考えられる。
 一つ目は、英語を使って課題を解決する課題解決型の問題である。例えば、留守番電話に録音されたメッセージを聞き、それに対応するメモの誤りを正すなど、現実のコミュニケーションの場にありそうなシチュエーションの中で解かせるものである。
 二つ目は、リスニングをさせた内容をもとに意見を書かせるなど、「聞く」「話す」「読む」「書く」を有機的に組み合わせた問題だ。
 三つ目は、短時間に、自分の意見を書かせる自由記述式の英作文問題である。特に英作文は、新課程の「ライティング」が「英語I」までの語彙(1300語、(図表2))を使って自分の意見を相手に伝える学習となるため、どれだけの語彙があるかよりも、どれだけ自分の考えや意思を伝達できるかを問うことが求められる。

図表

 新課程入試の初年度となる06年度入試は、新課程における実践的コミュニケーション能力養成の成果が問われることとなる。06年度のセンター試験では、前述のようにリスニングが導入される予定である。また、全国の国公私立大学で、リスニングを課す入試の実施校も年々増えており、今後入試で「実践的コミュニケーション能力」を測る傾向はますます強まるであろう。
 06年度入試に向けて、これからの受験生は、リーディング、ライティングだけではなくリスニングの学習にも取り組まなければならない。そのため、大学側も従来の文法・読解中心の問題で学力を測る仕組みを見直す必要も出てくる。
 中学校から高校、そして大学への接続(入試)が円滑に行われるために、大学は、「実践的コミュニケーション能力」を正しく測る仕組みづくりとともに、入学前・入学後における英語コミュニケーション能力アップの学習支援への取り組みに、早急に対応すべきである。



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